第13話 朝 2
あれから、湊斗はバンドの練習に行かないと決めた。
このまま続けたって、きっと迷惑をかけるだけだ、そう思ったからだ。
「俺……何やってんだろ」
ライブハウスの前に立つと、胸の奥がずしんと重くなる。
みんなの顔を思い浮かべると、申し訳なさと、どうしようもない悔しさが交互に込み上げてきた。
言葉にできなかった気持ちも、張り合いを感じていた瞬間も、全部ごちゃまぜになって胸の中で渦を巻いている。
(謝ろう。それだけは、ちゃんとしないと)
詩羽を先に帰らせた湊斗は、もう誰もいないかもしれないライブハウスに向かった。
だけど、扉を開けると…
「湊斗くん!!!!」
「……湊斗……」
扉を開けると悠梨が急いで駆け寄って抱きつく。
そしてよく見てみると、バンドメンバー全員が残っていた。
気まずい空気の中で、でもどこか安心しているような表情。
(……ああ、よかった。まだ……終わっちゃいない)
胸の奥が、ほんの少しだけ軽くなった。
◇ ◇ ◇
朝6時。その時間になった瞬間に、湊斗の目覚ましが鳴る。
「――ん」
その目覚ましを止めようと、湊斗はスマホに手を伸ばす。
だが、その手は布団の中にとどまったまま、抜け出せない。
湊斗自体、寝ぼけているのか、今何が起こっているのかすらもわからない。
「――なんだ…?」
そして手が布団から抜け出せなかったので疑問に思ったのか、目を擦って周りを見渡す。
「…え」
そこには、湊斗を抱きしめて幸せそうな顔で寝ている詩羽の顔があった。
湊斗は「この間もこんな顔見たなぁ〜」とぼやぼやと思いながらも、少しずつ目を覚ましていく。
そして…
「…!」
やっぱり湊斗には刺激が強すぎたのか、一瞬で顔を真っ赤にし、詩羽の手を振り解いた。
だか、詩羽は振り解かれてもまた湊斗を抱きしめる。
そんなところで怠らない湊斗は、また詩羽を振り振り解く。
でも、また詩羽は抱きしめる…というのを数分続け……
最終的に湊斗が負けた。
呆れた顔で湊斗はもう一度詩羽の顔を覗く。
(本当、幸せそうな顔で寝るよなぁ…)
少し寝ぐせがついた髪と、ゆるんだ寝顔。
そしてすりすりと顔を湊斗の胸元部分に擦る始末。
湊斗は、普通に耐えながらも心底ひやひやして、爆発寸前だった。
「――んっ」
そんな爆発寸前な湊斗を差し置きながらも、ゆっくりと詩羽は目を開ける。
「お、起きたか」
「やばい、可愛い…」と内心で思いながらも、平然を装い詩羽に話しかける湊斗。
そして詩羽に悪い印象を与えないように平然と言い訳を述べようとしたが…
「もっと寝る…」
そんな言い訳もするはずもなく、詩羽は湊斗のことを抱きしめた。
(そろそろ起きたいんですがね…)
◇ ◇ ◇
「……ちょっとお姉さん、これ……」
「いいからいいから〜!詩羽ちゃん、元がかわいいんだから、ちょっと整えるだけで爆発力あるのよ!」
リビングの隅。
なぜか「このために起きている」と言っても過言ではない深雪は、手際よく詩羽の髪を整え、ほんのりとナチュラルメイクを施していた。
鏡に映る詩羽は、普段の少し幼げな印象から一転、まるで別人のように垢抜けて見える。
(……私、こんな顔してたんだ……)
頬を少し染めながら、詩羽は鏡に映る自分を見つめる。
その姿を見て、深雪は満足げに手を打った。
「よしっ! 完成〜っ!!」
「……な、なんか恥ずかしい……」
「恥ずかしがることないって。これ、詩羽ちゃんの“本来のかわいさ”だから!」
そんなこんなで、湊斗は急ぎ足で部屋から出てきた。
「おーい、まだかよー…」
「誰かさんと誰かさんが部屋から出てくるのが遅くて遅れちゃいましたー。さーせんさーせん」
深雪の言葉に少しだけ赤くなりながらも、ゆっくりと振り返る詩羽を見た瞬間…
「お待たせ……」
視線を向けた先に立っていたのは、ほんのりピンクのチークを乗せた詩羽だった。
柔らかく巻かれた髪が肩に流れ、制服のリボンもいつもよりきちんと整えられている。
何より、その瞳がどこか自信を帯びてきらめいていた。
(……っ!?)
頭が真っ白になるほど、湊斗は言葉を失った。
昨日までの詩羽じゃない。
まるで、教室の誰もが振り返るような、そんな“かわいさ”だった。
「……え、なに、そんなに見つめて……」
深雪は言葉を失っている湊斗に対し、少しだけちょっかいをかけてみる。
詩羽は頬を染め、視線を逸らす。
その反応がさらに湊斗の心拍数を上げた。
「い、いや! 別に見てねぇし!!」
「めっちゃ見てたじゃん、顔真っ赤〜〜〜っ!!!」
すかさず深雪が後ろから湊斗の肩をバシッと叩く。
「や、やめろって姉さん!!」
「いや〜青春ってこういうことなんだねぇ、朝から爆発してんじゃんこの二人!」
「ちょ、ちょっとお姉さんっ!」
わたわたと慌てる二人の様子に、深雪はケラケラと笑った。
◇ ◇ ◇
その数分後――
「……なぁ、これほんとに学校行くのか……?」
「行くに決まってるでしょ!」
深雪に背中を押されるようにして、二人は玄関へ歩いていった。
詩羽は少し緊張した面持ちでスカートの裾を握りしめている。
「……大丈夫かな、私……」
「……大丈夫だよ」
湊斗はポケットに手を突っ込みながら、少しだけ顔をそらしてそう呟いた。
耳がほんのり赤い。
「俺がついてるし…」
その一言に、詩羽はふっと顔を上げた。
心なしか、先ほどよりも緊張がほどけたような表情を浮かべる。
「……うん」
「おっけ、二人とも! いってらっしゃ〜い! いちゃつきすぎて遅刻すんなよ〜!!」
深雪の茶化し声を背中に浴びながら、二人は学校へ向かって歩き出した。
冷たい風が、頬をくすぐる。
詩羽はほんの少しだけ湊斗の袖をつまみ、湊斗はその手を払いもせず、そのまま並んで歩き続けた。
――それは、まるで二人の距離が確かに近づいた証のようだった。
お待たせしましたー!
すいません、普通に遅れてしまって…!
ただ単に作者の努力不足です…ごめんなさい……
次からは頑張ります!!!




