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第六話 ワタシキレイ?


七月二十六日

僕は慣れた手つきで夜勤業務をスムーズにこなせるようになっていた。

立派に育った僕を見て、母や祖母は涙を流し、叔母は嬉しそうにしていた。

我が家は、全員が医療職に関係する仕事をしている。

叔母は看護部長、叔父は病院清掃会社の社長、父と母は介護福祉士、そして僕は平の看護師だ。祖母も昔は厨房のおばちゃんとして働いていた。

そんな話は全く関係ない、ただの雑談だ。

ただの雑談をせざるを得ない程に、この後は恐怖の時間が待っている。しかし、物語の中の僕はまだそうなる事を知らない。



いつもように夜勤業務をこなしていると、オムツカートを押した母と遭遇した。

本日は上の階の夜勤介護職員として、母が夜勤入りしている。

雑談を交わすと看護師長に嫌味を言われてしまうので、特に何かを話す事は無い。


深夜一時、もう少しで巡回の時間だ。

僕は飲み物を切らし、自動販売機に飲み物を買おうとした。

「…マジか、小銭無い。」

古い病院ということもあって、自動販売機が千円札を入れると稀に飲み込んでしまう事がある。なので、小銭を用意しておく事が必須なのだ。

「すみません、小銭無いので母に貰ってきます。」

「はいよ、行ってらっしゃい。」

介護職員に声を掛け、僕は三階へと急いだ。


三階へ上がるといつも誰かしら近辺で仕事をしているのだが、この日は見当たらなかった。やむを得ず探し回っていると一番奥の突き当たりの病室から明かりが漏れており、微かに母らしき声が聞こえた。

「そんなとこに居たのかよ。」

僕は小走りで病室へと急いだ…のだが…


「…あれ?」


なんと病室に明かりなど付いておらず、母の姿も無かったのだ。

僕はこの瞬間、背後に何者かの気配を察知した。

ゆっくりと振り返ると、その奥には病室がある。そこには当然患者様が休まれているのだが、一人佇んでいる方がいたのだ。

僕はゆっくりと近付き、「大丈夫ですか?」と少し遠めだが声を掛けた。

その声に反応したその方はこちらを振り向いた。


振り向いた瞬間、その方は患者様では無いことにすぐ気が付いた。

何故ならあるはずの首から下は無く、顔面のみが宙に浮いていたのだ。

その見た目は、痩せこけた頬に蒼白い肌。濡れた長い髪からは、雫が落ちる音が響く。そして、異常な程に口角の上がった笑顔をこちらへと向けていた。

「…あ…あ…。」

声を満足に出せないまま後退りをするも、その顔面は満面の笑みでこちらを見つめていた。そして、徐々にこちらに向かって来たのだ。

僕は足が動かず、恐怖で声も出せなくなっていた。

「…動け…死ぬ…急げ…」

小声で何度も心へ言い聞かせた。

叫びたくても叫べない絶望的な状況に僕は死さえ覚悟した。

「…無理…無理だって…やだ…。」

何を訴えても顔面は笑顔のまま向かってくる。

間一髪、顔面が病室から出てくる前に僕はその場から逃げ出す事が出来た。

涙目の状態で二階へ降りるとそこには母がいた。

「あれ?あんたどうしたの?」

荒い息を零し、僕は膝から崩れ落ちた。心配して駆け寄る母には事情を全て話した。

「危ないから今日は一人にならないようにしな。」

母はそう言い残し、僕にメロンソーダを渡して三階へと戻って行った。


それ以降、顔面だけの霊は現れなかった。

暫くは霊の顔がチラつき、これをきっかけに僕は不眠症になってしまった。

一時期は眠剤が無いと眠れない程にまで陥ってしまった。

それでも働かなければ収入が無くなってしまうので、心を殺して働き続けた。

そんな中、僕はこれまでの心霊現象である事に気が付いた。


「…全部…同じ霊だ…。」


次回もお楽しみに!

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