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第五話 霊感


二十三歳になった僕は、小学校の出来事を思い返す余裕はなかった。それだけ今は仕事が忙しく、看護師という職業は生命を預かる職。責任重大と構えていれば気も重くなってしまうのだ。

七月二十六日 夜勤の為いつも通り出勤し、自身の業務をこなした。本日の介護職員とも挨拶を交わし、夕食後薬の配薬へと向かった。

僕や介護職員が一通り仕事を終え、再びナースステーションに集まるのは夜の二十一時前。このタイミングで食事や休憩を取り、二十三時に看護師は巡回、介護職員はオムツ交換へと向かう。

僕に対して恐怖が襲い掛かったのは、二回目の巡回に向かう前の事であった。僕は業務に入る前にトイレに行こうと思い、携帯を持って洋式トイレに入った。

用を足すために下衣を下げ、便座に座り、携帯を見た時だった。


「…ん?」


声を出す必要も無いのに、思わず声を出してしまった。携帯の画面に反射してトイレの天井が反射しているのだが、隣のトイレから何者かがこちらを覗き込んでいるように見えたのだ。それはまるで子供のようで、両手でよじ登ったかのようだった。

僕はその場で上を向く事が出来ず、焦って下衣を履き直していた。そして、用をたせぬままトイレから逃げ出した。念の為、介護職員が近くにいないか確認もした。案の定、介護職員はトイレより遥か遠くで業務をこなしていた。

怖がらせるのも悪いと思い、僕は見間違いと自身に言い聞かせて業務へと戻った。


その後、何事もなく時刻は深夜二時を回った。僕は三回目の巡回をするため、一つ一つ部屋を見て回った。

この時は、【218号室】、【220号室】、【221号室】の順に部屋を回り、その後【201号室】へと向かった。

僕は【201号室】の目の前で足を止めた。

特に何も無いのだが、部屋の中へ足を入れられなかったのだ。

別に壁がある訳でもない、何かがいる訳でもない。

だが、身体が硬直して動く事が出来なかったのだ。

意を決して中に入るも、当然何も無かった。すぐ様バイタル測定を行い、患者様に異常が無いことを確認した。

そして、問題があったのは【202号室】。

再び僕は部屋の前で足を止めた。

同時に全身に冷や汗をかいた。

病室は四人部屋、部屋の中心から左奥のベッドサイドへ歩いていく黒い何かが見えたのだ。

それは、見るからに人の形をしていた。

ゆっくりと歩く黒い何かを僕は黙って見つめていた。

その黒い何かは、そのまま左側の壁へと消えていった。

僕はその病室には入らず、隣の【203号室】へ急いだ。

病室の明かりを付ける前に周囲を見渡すも、そこには黒い何かはいなかった。

荒い息をたてていると、眠れない患者様が僕の存在に気付く。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「…あ、いえ、何でもないんですよー。眠れないんですか?」

僕の問い掛けに患者様は頷く。

「…今ね、黒い影が通って目が覚めたの。お兄ちゃんだったんだね。」

黒い影という言葉に僕は過敏になってしまった。

先程、黒い何かを見た直後にこの発言。僕は恐怖で頭がおかしくなりそうになった。


仕事に熱中していると外は明るくなっていた。

時刻は七時を過ぎ、看護学生や早番の介護職員が出勤して来る。

眠気など感じていなかった。むしろ静まらない動機を何とかして欲しいと感じていた。

その後、何事もなく僕は夜勤を終えた。

そして、いつものようにコンビニに寄って帰った。


しかし、この出来事から僕の周りでの怪奇現象が止まらなくなってしまった。


深夜停止している無人エレベーターが突然動き出し、屋上へと向かったり…

誰もいないのに階段を昇る音が聞こえたり…

背後に気配を感じたり…


一番驚いたのは介護主任と物品庫で会った時だった。

介護主任は椅子に座って物品の発注書を作成していた。

その物品は木製の棚になっており、真ん中が広めの三段式になっているのだが…

「…なんかここ寒くない?」

介護主任は寒気を訴えていた。

知らない方が良い事もあるかと思い僕は黙っていた。

上の棚から介護主任を覗き込むように凝視している子供の霊がいる事を…。


そんな心霊現象に慣れてしまった僕は、日常的に霊を目撃してしまう事が増えた。更には【201号室】の時のように、その空間に足を踏み入れられなくなったりする事も多々あった。

霊が居るとスイッチが入るように察知し、踏み入れてはいけない領域があると全身に電撃が走ってしまうようになっていた。

そんな毎日に慣れてしまうのが怖くもあり、僕は嫌気がさしてきていた。


そして迎えた、一年後の七月。

長年に渡った恐怖の結末。二十四歳にして体験する事になるとは、この時は思いもしなかった。


次回もお楽しみに!

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