第四話 呪縛
キャプテンや坂本君と来たあの日から十日が経った。
今でも休憩室は異様な雰囲気を醸し出していた。
まるで見えない誰かがそこで住んでいるかのような。
霊感の無い人でも何となく気持ちが悪く感じるだろう。ましてや僕は前回霊と対面している。
恐怖で引き返したくなるが、この物語に終止符を打ちたいがためにここにいる。
しかし、先生が救急搬送されてから、休憩室は完全に閉鎖されてしまっていた。新しい南京錠が掛けられ、引き戸が開かないよう隅々ガムテープも貼られていた。恐らく先生の訴えにより、他教員が実行したらのだろう。
僕が諦めてその場を去ろうとした時、
『 カチャンッ 』
と何かの音が聞こえた。
振り返ってみると、南京錠が外れていた。
僕の脳内にあの日の記憶がフィードバックする。
恐怖で後退りすると、後ろから肩を叩かれた。
驚いて振り返ると、そこには坂本君が立っていた。
「…こんな所で何してるの?」
坂本君は少々険しい表情で僕の顔を見ていた。
「…あ、いや…たまたま此処通って。」
坂本君は「ふーん」と言いながら僕の横を通り過ぎる。そして、休憩室入口の前で止まった。休憩室の方を見て、再び溜息を吐いたのが分かった。
「…どうして南京錠が外れているの?」
「…チラッと覗いただけなんだ。」
僕は坂本君へ真実を打ち明けた。
すると坂本君は呆れてなどいなかった。むしろ、真剣に心配しているような様子だった。
「もう止めよう。あの日の事は忘れた方が良い。」
坂本君は勉強が出来る。その上、賢い。僕なんかよりも遥かに賢い。
「…そうだね。」
踏み込んではいけない領域へ入ろうとした僕を彼は救った。
もし開かずの間へ入ってしまったら、先生と同じ結末を体験していたのかもしれない。あの部屋には、一体何が潜んでいるのか。
この日を境に僕達は一度も近付く事なく、小学校を卒業した。
中学、高校では心霊現象と無縁の毎日だった。
中学校を卒業した後、元キャプテンは遠くの高校へ進学した。
坂本君とも接する機会は減ったが、同じ高校へ進学した。お互い新たな友人も出来、それぞれの道へと歩んで行った。
そして、僕は看護学校へ進学した。
叔母が看護部長という事もあり、僕の将来は決まっていたも同然と言えた。
病院で働きながら、二年制の看護学校へ通い、勉学に励んだ。辛い実習も乗越え、何とか試験にも合格した。
僕は二十一歳で晴れて看護師として病院での勤務が決まったのだ。
同期と助け合いながら、指導を受ける毎日。精神的に辛い事もあったが、努力のお陰あって二年目からは夜勤も入らせて貰える事になった。
看護師長や主任の教えを受け、成長した後独り立ちを果たした。
給料こそ少なかったが、充分自立した生活を送っていたと思う。
夜勤を頑張った後は、コンビニで酒とつまみを買う。酒とつまみを決めたら、喫煙して眠る。正直、幸せな毎日だった。
しかし、そう長くは続かなかった。
二十三歳を迎えたとある夏の夜。
その日は夜勤の入りでいつも通り働いていた。
七月二十六日、忘れもしない。
僕に再び恐怖が襲って来た日。
次回もお楽しみに!