第二話 赤の意味
【赤】・・・人の血や夕焼け空のような色。またはその系統の色。
目を覚ました時、昨日の出来事はほぼ忘れかけていた。
寝惚けながら学校への支度を済ませ、飲むゼリーでカロリーをチャージ。そして、登校。いつもと変わらない日常だった。
どうして小学生は平日に学校があって、毎日歩いて通わなければ行けないのか。毎朝そんな事を考えながら登校していた。
学校に着けば会う人会う人に挨拶を交わす。これは社会に出てからも変わらない。そう知るのは遥か未来の事であるが、僕は母親が五月蝿いので挨拶や礼儀はしっかりしていた。
「おはよっ!昨日の話なんだけどさ!」
教室に入るとキャプテンが話しかけてきた。
「昨日って何の?」
「赤い女の子の話!」
この瞬間、再びあの顔が脳を過ぎった。
「あれは…もう忘れよう?」
「まあまあまあ!実は面白い話聞いたんだ!」
キャプテンが言う面白い話とは、この学校の歴史についてだ。
この小学校は百年以上もの歴史がある。しかし、設立されてから八十年後、校舎全体を覆う大火事により全焼してしまうという事件があったという。この事件はこの町で生まれ育ったら誰しもが知っている事であった。
「でね!実はその時亡くなった子女の子がいるらしい!」
「それがあの赤いレインコートの子って言いたいの?」
「そう!」と自信満々に僕に向かって指を指す。それが本当ならかなりの大事だが、何故僕の前に出てきたのかが謎だ。
「…じゃあ赤いレインコートは何なのさ?」
「それは…これから調べる…。」
どうやら本当に触りだけを調べた様子だった。キャプテンと話をしていると、クラスメイトの坂本君と横溝君がやって来た。
「何の話〜?」
「実はさ、俺とこいつ昨日お化け見たんよ!」
その言葉に二人は興奮し、話の続きを催促してきた。
「まあまあ落ち着きなされ。さぁ圭太君。」
キャプテンに言われ、僕は経緯を説明した。
「うわっガチじゃん!」
「嘘だぁ、だって俺昨日グラウンドいたけどそんな子見てないぞ。」
坂本君は話題にノリノリだが、横溝君は否定派らしい。横溝君も野球部員でその日もセカンドにいたのだ。しかし、赤いレインコートの子を見たのは僕とキャプテンだけだった。
「この学校、昔大火事があったんだ。その事について色々調べようと思ってるんだけど、二人は来る?」
坂本君は「行く!」と手を挙げたが、横溝君は「俺はいいや。」とその場を去って行った。今思えば、この時の横溝君の判断は正しかったのだと思う。
それから僕とキャプテンと坂本君は構内の年表や新聞、町の歴史について調べあげた。
「一九六九年 十一月、原因不明の火災発生。被害者は居ないと思われたが、当時トイレにいたと思われる小学一年生の女の子が焼死体として発見される。一時は大事件として処理されたが、テレビ放送までの大事には至らず。その後、校舎立て直し作業に入ったのだった。」
「…マジで死んでんじゃん。」
キャプテンが見つけてきた記事には校舎全焼に関する情報が書かれていたが、それ以上の事は分からなかった。
「僕も一つ見つけて来たんだ!」
坂本君は新聞記事と本を取り出す。
「焼死体の女の子が見つかったのはトイレ。その位置が今一階にある休憩室らしいんだ。」
「休憩室ってあの和室の?」
「そう、先生とかが休憩に使ってるらしいんだけど。心霊現象が多発していてもう誰も使ってないらしい。それに今では施錠されていて、開かずの間状態。」
そして、坂本君はもう一つ手にしていた本を取り出す。
「…恐怖、学校の…七不思議?」
「七不思議って馬鹿に出来ないんだよ。コレ見て!」
坂本君が開いたページには、こう書かれていた。
一、トイレの花子さん
二、音楽室のピアノ
三、動く人体模型
四、異世界へ通じる鏡
五、テケテケ
六、プールの子供
七、十三段の階段
八、
「ん?七不思議なのに八個目?それに何も書かれていないね。」
「この本の目次に八個目は書かれているのに、実際にはその目次は無いんだよ。これを書いた作者も八個目なんて載せてないって言って話題になったんだ。」
僕と坂本が不思議に思っていると、キャプテンが「あ!」と大声を出す。
「もしかして、開かずの間が八個目なんじゃない?」
キャプテンの言葉に坂本君が頷く。
「僕もそう睨んだんだけど、八個目にたどり着くためにはこの七不思議を全て体験しなければいけないんだ。」
「…でも夜中じゃないとお化けなんて居ないよね?夜中に学校になんて来れないよ。」
僕の言葉に二人も「確かに」と頷く。
「…何の根拠もないんだけど、全部知っちゃうと大変な事になる気がするんだ。」
突然の無言に寒気が走る。全員の腕に鳥肌が浮かび上がる。
『ねぇ。』
三人は顔を見合せた。
「…え?今誰話しかけた?」
キャプテンの言葉に僕や坂本は首を横に振る。
その瞬間、三人の顔は青ざめた。そして何も考えずその場から走り去った。
無我夢中に走り去った僕達は一階の体育館の入口前にいた。全員が膝に手を置いて、息を切らしていた。
「…流石に…ヤバいって。」
僕の言葉に坂本君は頷く。
「…そうだね…ここまでにしておこうか。」
しかし、キャプテンは納得がいかない様子だった。
「何かあったらどうするの?子供だけじゃどうにも出来ないよ。」
僕の正論にキャプテンは何も言えなくなっていた。
「…ねぇ…ここ。」
坂本君が震えた声で話し掛けてきた。
何かと思い振り返ると、そこは先程話題に出ていた和室の休憩室の前だったのだ。
「…何で。」
「一番前走ってたのキャプテンでしょ!わざと!?ねぇ、わざとここに来たの!?」
「ち、違う。本当にビビって逃げただけで…。」
キャプテンはすぐ顔に出るので分かりやすい。今の様子を見る限り、どうやら嘘はついていないようだ。
「…坂本君、キャプテンは嘘ついてない。多分、僕達無意識に此処へ誘導されたんだよ。」
「じゃあ…やっぱり此処は。」
キーンコーンカーンコーンッ!
急に鳴り響く予鈴に三人はビクッ!と驚く。
時刻は十五時半、今の予鈴が最後の予鈴だった。用事の無い生徒は速やかに下校する時間。残っていると先生に怒られるのだが…
「…なぁ…ちょっとだけ。」
キャプテンがゆっくりと休憩室に近付こうとする。
「待って!待ってって!」
坂本君が焦りながらキャプテンの手を引く。
『離せっ』
坂本君は驚いて手を離す。
そう、僕と坂本君は気付いていた。
キャプテンの声が聞いた事のない物凄く低い声となっていた事、そして明らかに様子が変ということを。
次回もお楽しみに。