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シムラ先生のぱあふぇくと関税教室

 何しろ、世界一の規模を誇るホテルの、金額的にも高度的にもバカ高いペントハウスなのだ。

 部屋など腐るほど存在するわけで、そのうち、会食などに使われるのだろう広い部屋を即席の教室とする。


「よいですか、姫様?

 まず、関税というのが自国への輸入品にかけられる税金であるということは、理解されておりますか?」


「そうね……。

 なんとなく、言葉の響きで理解できるわ!」


 そこで上座に立ち、教師役を務めることとなったシムラに、わたしは力強くうなずいてみせた。

 ちなみにだが、この授業はマンツーマンではない。

 お供を務める家臣の内、わたしと同様にいまいち関税の仕組みを理解していなかった者たちが、一緒に参加している。


 聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とはよく言ったもの。

 分からないことは素直に教えてもらうことの大切さを知る、誠の勇士たちであった。

 また、このように複雑そうな制度や仕組みというものは、意図して学ぶ機会を設けないと、ふんわりした解釈のまま、なんとなく流してしまいがちだという証左でもある。


「取れるところからは――取る。

 国政をする上での基本ね!」


「ほっほっほ!

 姫様には今度、税というものが為政者の金儲けではないということを、みっちり理解してもらうための特別講義をいたしましょう!」


 なんでだろう? シムラが額に青筋を浮かべ、手にした教鞭もミシミシときしませた。

 不思議だなあ、不思議だなあ。

 民というものは生かさず殺さず……極限まで絞ってナンボだというのに!


「さておき、この関税というものは、そうと知らない人間の勘違いしがちな特徴がありましてな」


 そこで、一拍置いたシムラが、じろりと全員を見回す。


 ――ごくりんこっ!


 思わせぶりかつ、威圧感が漂うその姿へ、全員が唾を飲み込んだ。


「確かに、輸入品へかけられる税金なのですが……これを払うのは輸入先の業者であり、輸出している側ではありません」


「な、何いっ!?」


 その言葉に、わたしはくわと目を見開く。

 いや、わたしだけではない。


「な、なんだってー!?」


「本当なのか、シムラ!?」


「てっきり、こちらの払う手数料みたいな金が倍増されるから、貿易で不利になるものだと!」


 やいの、やいのと……。

 同席していた家臣たちも、口々に驚きの声を漏らす。


「やはり、勘違いしておられましたか……。

 そもそも、税金というのは自国内でかけるもの。

 他国に対して求められるものではありませぬ」


「い、言われてみれば……。

 勘違いしていたわ。

 うち、気分的にはトラメリアの属国だったから」


 わたしの言葉に、他の家臣たちもうなずいていく。


「自分たちはポチであると心得ております」


「トラメリア様にそれと命じられたなら、どんな屈辱的な仕打ちも耐える所存」


「対帝国政策とは、うなずき続けるものと見たり」


 これを聞いて、髪が後退した結果、すっかり広くなった額に手をやるシムラだ。


「なんと嘆かわしきことよ。

 武士の魂はどこへやった。

 ――と、それは置いておきましょう。

 これをする大きな目的は、あの場でレオン殿下がおっしゃっていたように、自国産業を守ることです」


「この場合でいくと、うちの製品が高品質過ぎて、フェアにやるとトラメリア製品がまったく売れないから、関税をかけることで価格競争で優位に立とうというわけ?」


 単に知らなかったというだけで、地頭には自信のあるわたしだ。

 ザックリ理解しての言葉に、シムラがうなずいてみせた。


「その通りです。

 何しろ、近頃は我が国の工業製品が、世界市場を席巻しておりますからな。

 トラメリア帝国のモノづくり企業は大きく減益し、産業で栄えてきた地域には、人口流出の兆候も見られるとか」


「おーほっほっほ! いい気味よ!

 国力とマンパワーにあぐらをかいて、製品競争力を磨かなかった結果がこれ!

 対して、こちらは不断の努力によって、世界最高水準の高品質化とその量産を達成!

 産業界オピニオンリーダーの座は、すでにマグニシ王国が手にしているのよ!

 ムーハッハッハ! ムーハッハッハ!」


 その場に立ち上がり、口元へ手を当てながら高らかに笑うわたし!

 他の家臣たちも、次々とこれに従った。


「ムーハッハッハ! ムーハッハッハ!」


「ムーハッハッハ! トラメリア何するものぞ!」


「バンザーイ! マグニシ王国バンザーイ!」


 これは、言うなれば……勝利のゴングの音!

 わたしたちこそが、産業界ナンバーワンだ!


「結果、こうして出る杭を打たれたわけですがな」


「「「「「そうだったー!」」」」」


 すっかりイイ気になっていたわたしたちは、シムラの言葉に頭を抱えたのである。

 うちの製品、トラメリアで売れなくなっちゃうじゃん!

 一番大きな国外市場なのに!


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