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新人型蒸気お披露目会

 ※本作はフィクションであり、実在のアメリカ合衆国、第45代大統領、第47代大統領及びド◯ルド·ト◯ンプ氏は一切関係ありません。


 


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挿絵(By みてみん)


 まるで、自動車の車体に手足を取り付けたかのような……。

 マグニシ王国が展示せし人型蒸気『ラヴ』のデザインはそのようなものであり、本体両側から伸びる腕部と下部へ取り付けられた脚部の細さは、いっそ華奢にすら感じられ、一見すれば頼りない。

 だが、ここトラメリア帝国セントラルボールパークで、四メートルサイズの人型たちが見せるパフォーマンスの、なんと力強いことだろうか。


 両脚は滑らかに可動し、球場内へ設けられたきつい坂道ばかりか、人型蒸気サイズでこしらえられた階段すらも難なく昇降するほどの踏破性であり……。

 両腕に備えられた五本の指は――伊達じゃない。


 クワやシャベルなど、人型蒸気サイズで用意された道具の数々を、人間そのものといえる器用さで使いこなし……。

 革製のプールに用意されていた砂は、瞬く間に空となる。

 ばかりか、デモンストレーション用に用意されていた鉢植えの野菜も、傷つけることなく収穫してみせるほど。

 きゅうりを一本、指先でつまんで掲げた際は、スタンド中から歓声が上がったものだ。


 しかも、器用なばかりが売りというわけでもなく、パワーも申し分ない。

 その最大荷揚げ量は――500キロ。

 人型蒸気の平均荷揚げ量が450キロであること思えば、細い腕で十分以上の力だ。


 そして、このラヴという人型蒸気……。

 何より素晴らしいのは、燃費である。

 何しろ、これだけ動き回っていながら、水の補給を行う機体がいないのであった。


 球場内でも、この事実はことのほか喧伝されており……。

 スコアボードは、「本日、全機体が終日無補給運転!」と力強くモウヒツ書きされた幕で覆われている。


 時刻は、まもなく午後三時を迎えようか。

 これがもし、トラメリア産の人型蒸気だったなら、すでに二回は水の補給を必要としていたことだろう。


「会場にお集りの皆さん!

 我が国が誇る人型蒸気ラヴの実力は、拝見されていますでしょうか!?」


 球場内でデモンストレーションを続けるラヴたちの中、中央であやとりしていた機体のキャノピーが開かれ、高らかな声が響き渡った。

 同時に内部から姿を現したのは、麗しき乙女だ。


 マグニシ人の特徴として、やや小柄かつ華奢な肢体は乗馬服然としたパイロットスーツに包まれており……。

 腰まで伸びた黒髪は、カラスの羽を濡らしたかのような艷やかさである。

 パツリと切り揃えた前髪が揺れるその顔立ちは、愛らしいのひと言。

 それこそ、マグニシ王国の伝統工芸品であるヒナ·ドールに命が宿ったかのような可憐さであった。

 とりわけ印象的なのが黄金の瞳で、これに見つめられると、心臓を撃ち抜かれるかのよう。


「わたしは、マグニシ王国の王女――ミヤビ!

 本日は、親愛なるトラメリア帝国の皆様に我が国の技術力を知ってもらうべく、はしたなくもこのようにパイロットを務めさせてもらっています!」


 プリンセス·ミヤビの言葉に……。

 球場へ集ったトラメリア人たちが、巨大な歓声を上げる。

 姫君の麗しさと、新人型蒸気がみせるパフォーマンスの見事さ……。

 両者がマリアージュと呼べる相乗効果を生み出し、こうも人々を熱狂させているのだ。


 また、これには、もはや人型蒸気というマシーンがあらゆる産業で必要不可欠であるという事情も重なっていた。

 人型蒸気を制する者は、産業を制する。

 そして、その制した地位に最も近いのがマグニシ王国であると、かの小さな島国は姫君直々に乗り込み、宣言しているのだ。


 球場内に、それを疑うトラメリア人はいない。

 世界最大最強の国家に住まう人々は、この素晴らしいマシーンがいつから輸入開始されるかに、胸を躍らせていた。


 お読み頂きありがとうございます。

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