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白銀の魔女ファビオラさんの日常  作者: 柚亜紫翼
1章 あるふぁおうこく
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006 - ふはー! -

006 - ふはー! -


お得意様との騒動の後、僕はまた寝室へ・・・まだ身体中が痛いしだるいからもう一眠りするのだ。


ベネットおじさんは僕の家の中をあちこち歩き回っているようだ、何をしてるんだろう?、そんな事を考えているうちに深い眠りに落ちた。


・・・


・・・


「ふぁぁ・・・よく寝たぁ」


久しぶりに熟睡したから昨日より身体が楽になった気がする。


本当はお得意様向けのお薬を作らなきゃいけないのだけど、今回分は納期が遅れたからあと何日遅れても同じ・・・指定された本数を作るまではタダ働きだ。


ベッドから降りて寝室を出ると居間からとても美味しそうな匂いがした。


「おぅ!、起きたか、腹が減ってるんじゃねぇかと思って飯を作ってやったぞ」


ベネットおじさんだ・・・まだ帰ってなかったのか。


「王子様なのに料理もできるの?」


「普段は辺境で魔物や野盗相手に戦ってるからな、野営する事もあるし料理だって自然に出来るようになる」


「そうなんだ・・・」


「食材は俺が金を出して買って来てやったんだ感謝しろ」


「おじさんが来なければ僕はあの日美味しいお肉が食べられたしワインだってまだ保管庫にあった筈なんだけど」


「まだ怒ってるのかよ!・・・突然押し掛けて無理を言ったのは謝る、だが親父の命がかかってたんだ」


「分かってるよ、倒れるくらい魔力を使ってお薬を作ったのは僕の意思、大切な家族・・・サリー君が死にかけてるなら放っておけないからね」


ぽすっ・・・


おじさんが僕の手にパンを握らせてくれた、良い匂いの発生源はこれらしい。


「これは?」


「俺特製の肉挟みパンだ、ソースは市販の材料を買って調合したんだぜ、食ってみろ」


ぱくっ・・・


「あむあむ・・・美味しい・・・」


香草と一緒に焼いた鶏肉に甘辛いソースがかかってるようだ、パンも近所のお店で朝焼いたやつかな?、柔らかくて香ばしい。


「そうだろ、うまいだろ!、これでワインの件は許してくれるよな!」


「それとこれとは別の話だよ」


「なぁっ!」








あれから3日経った、ベネットおじさんはまだ僕の家に居る。


「帰らなくてもいいの?」


「今頃は親父の毒も抜けてるだろう、久しぶりにこの国に来たからちょっとした情報収集をやって帰ろうと思ってる」


情報収集だったら宿に泊まればいいのに当然のように居間で寝泊まりしてる、でもお部屋を掃除したり毎日3食美味しい食事を作ってくれるから文句は言えない。


今も僕の作業を後ろでじっと見てる、やりにくいなぁ・・・。


僕は作業台に向かってお得意様向けの薬を作っているところだ、薬を入れる瓶を水で洗って加熱消毒、瓶の中に魔法で生成した魔法薬を注ぐ・・・。


とぽとぽっ・・・


「これで準備完了だよ、あとは僕の魔力を注入するだけ」


「1度に2本しか作れねぇのかよ」


「うん、これ以上になると使う魔力が多くなって首輪が反応するの」


僕に嵌められている首輪は魔女に大規模な魔法を使えなくさせる為のもの・・・二度と人間に反抗しないよう一度に多くの魔力を使うと身体中に激痛が走るようになっている。


「全く使えなくすると薬が作れねぇから都合が悪い、だから僅かな魔力を使える余地は残してる・・・か、まるで魔法薬を作る便利な道具って扱いだな」


「でも最低限自分の身を守れるくらいの魔法は使えるよ」


「それも人間達の勝手な都合だろ、誰かに襲われて簡単に死んじまったら国の損失になる」



・・・


「薬液生成・・・魔法陣起動っ!」


ぱぁっ!


しゅこぉぉぉ・・・しゅわわわぁ・・・


「はい、魔力の注入終わりっ!、お得意様への納品分は残り10本かぁ・・・」


「タダ働きだけどな」


「おじさん何でそんな酷い事言うのっ!」


「本当の事じゃねぇか」








あれから更に5日経った。


おじさんは相変わらず居間で寝泊まりしている、この前言っていた情報収集をしているのか出掛けてしばらく帰って来ない事もある。


最初にここへ来た時に使っていた馬と二度目の時の馬はお店の裏庭に繋いでいるから時々鳴き声がする。


「庭に放して生え放題になってる草を食わせてるから餌代がいらねぇ」


いつものようにおじさんが作った美味しい朝食を食べ終わった直後、衝撃的な発言を聞いてしまった。


僕は慌てて裏庭に走る、急いでいたからあちこち身体をぶつけて何度か転けた、でもそれどころじゃない!。


「あぁぁぁ!、僕が育ててた薬草がぁ!」


「なっ!・・・庭に生えてるやつ雑草じゃなかったのかよ!」


「わぁぁん!、苦労して苗を手に入れたのに全滅だぁ!」


庭に膝をついて手探りで薬草を確認すると根元だけ残して綺麗に無くなっていた。


ふるふる・・・


「ぐすっ・・・えぐえぐ・・・」


「すまねぇ、伸び放題だったから雑草かと思ってた・・・怒ってるか?、怒ってるよなぁ・・・許してくれるなら何でもするぜ、俺に何かして欲しい事あるか?」


ん?、今何でもって・・・でも薬草は大損害だけど根が残ってるみたいだからまた育てればいいか・・・事前に薬草だって言ってなかった僕も悪いし。


「今日から3日間・・・ディアズさんのところの極上ステーキセット持ち帰り、とりあえずそれで許してあげようかな」


「ディアズって誰だよ?」


「うちから少し離れた所にあるロカっていうレストラン・・・それからいくつかお使いをお願い」


「お・・・おぅ、分かった、任せろ!」













「ベネットはまだ戻らないのか?」


「はい」


「今日の親父の様子は?」


「毒が完全に抜けたようで医師の話だともう心配ないそうです、薬の服用も既に止めていて・・・陛下の強い希望で明日から政務に復帰されたいと」


「そうか・・・引き継ぎもあるし午後から親父のところに行こうと思う、宰相も一緒に来てくれ」


「はい」


私の名前はタダーノ・ブライアス、ここブライアス王国の王太子だ。


この前起きた国王暗殺未遂事件の容疑者が先日捕まった、親父の側近の一人でセコヴィッチ・ドワルスキーという男だ。


巧妙に隠蔽されていたが奴の家は隣国であるアルファ王国と繋がりがあった、ごうも・・・いや、尋問の結果どうやら今回の事件はアルファ王国が裏で糸を引いているようだ。


他にも確実に協力者が居るだろう、だがそれを聞き出す前にセコヴィッチの奴は地下牢で死体になっていた。


おそらく始末されたのだろうな。


それにファビオラ姉様の薬を使い始めてから親父の様子がおかしい、今までは激しい痛みで起き上がるのがやっとだったのに翌日には立ち上がり身体を鍛え始めたのだ。


いくら姉様の薬が優れているといっても効き過ぎだろう!。


「薬の事を調べて来いと命じたベネットからは何の連絡も無い、何をしているんだ?」





コンコン・・・


「親父、私だ」


昼になったから親父の部屋を訪れた、宰相も後ろに控えている。


「入れ」


がちゃ・・・


「親父、具合はどうだ?、明日から執務に復帰したいと言っているようだ・・・が・・・」


ごごごごご・・・


ソファに座って偉そうに足を組んでいる親父の身体からは紫色の魔力が湯気のように出ている。


親父は若い頃猛将として他国から恐れられていた豪傑だ、体格も良かった・・・だがこれは何だ、何があった?。


・・・


ふうおぉぉ・・・


「ふはー!」


「お・・・親父?」


くわっ!


「ははは、タダーノよ、ファビオラ姉様の薬はよく効くのぅ、まるで生まれ変わったように調子がいいぞ、今朝も庭園を100周してしまったわ!」


むきっ・・・みしっ・・・。


喋る親父の口からも魔力が煙のように出ている。


見た感じ身体が一回り大きくなったようだ、腕の筋肉も凄い、事件の前まで愛用していたであろうシャツの胸のところがパッツンパッツンでボタンが弾け飛びそうじゃないか。


それに目がキラッキラで眼光がやばい!。


「・・・調子は・・・よさそうだな」


みりっ・・・めりっ!・・・


先程から時々聞こえる不穏な音はどうやら躍動する筋肉が軋む音らしい・・・。


「ふしゅぅぅ・・・」


親父はまた口から魔力の煙を吐いて私に答えた、いや気持ち悪いのだが!。


「あぁ、調子はとてもよいぞ、今にも走り出してしまいそうだ・・・それで何の用だ?、私は食後の鍛錬をしたいのだが」


めきっ!・・・


拳を握ったら凄い音がしたぞ、今の親父なら素手で岩を握り潰せそうだ。

読んでいただきありがとうございます。


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