005 - しぬほどつかれてるからおこさないでね -
005 - しぬほどつかれてるからおこさないでね -
俺の名前はベネット・ブライアス37歳独身だ。
9日前に訪れたアルファ王国に再びやって来た、目的は魔女・・・奴の安否を確認する為だ、来た早々クソまみれになっちまったがな!。
干していた服も乾き俺はようやく全裸じゃなくなった、奴はというと俺が丸洗いしてやった後も凄ぇ顔して何度も便所に駆け込んでる、本当に大丈夫かよ。
いや大丈夫じゃねぇだろう、今も「お得意様用」に用意してた秘薬を3本一気飲みして便所に篭ってやがる。
時々便所の中で「あぁぁぁ・・・」って呻いてるが俺は聞こえないフリをしてる、早くあの薬の事を聞きてぇが今はそれどころじゃなさそうだ。
バタン・・・
「あぅ・・・もうやだ・・・」
死にそうな顔をして奴が居間に入って来た、俺は小腹が空いたから冷蔵の魔道具の中を漁って見つけたハムの燻製やチーズをソファに座って食ってる。
きゅぽんっ・・・
とぽとぽ・・・
「ごっごっ・・・ぷはぁ!」
チーズと一緒にワインも置いてあったから拝借した。
「おじさん何してるの?、何か飲んでるみたいだけど・・・ってまさか僕のワイン?」
「あぁ、凄ぇ美味いぞ、これ高いやつじゃねぇのか?」
「わぁぁぁ!、大事に取っておいたのに!」
ごろごろっ・・・きゅるる・・・
「あぅ・・・またお腹がぁ」
とてとて・・・
「落ち着きの無ぇ奴だぜ」
それからどれくらい経ったか・・・もう真夜中だ、やっと腹具合が落ち着いた奴は俺の前に座って頬を膨らましてる。
どうやら俺が大事なワイン飲んじまったから怒ってるようだ、悪かったよ、今度ブライアス王国の良いワインを送ってやろう。
「それで、おじさんは僕の無事を確認したから帰るんだよね」
「おじさんいうのやめろ、俺はまだ若い!・・・帰る前に一つ確認しておきたい事がある」
「何かな?」
ようやくあの薬について聞けるぜ、あれを飲んでから親父の様子がおかしい。
「親父があの薬を飲んだ後奇声をあげた、その後毒の痛みが殆ど無くなったと言っている・・・あの薬は本当に「魔女の涙」なのか?」
「・・・」
「いや何か言えよ」
「サリー君の容態が分からなかったから今の僕に作る事が出来る最高の薬を渡したんだけど・・・ちょっと効果が強過ぎた・・・かも?」
「普通の「魔女の涙」じゃねぇのか?」
「うん、僕が100歳くらいの頃まで「魔女の雫」って名前で売ってたかなぁ・・・昔の事だしよく覚えてないや、あれ作るの大変だから600年以上作った事無いし首輪のせいで効果が落ちてると思う」
「「魔女の雫」だと・・・神話に出て来る幻の秘薬じゃねぇか!、死んだ人間でも急いで飲ませたら生き返るって聞いたぜ」
「さすがに死んだ人は蘇らないよ・・・あれ、生き返ったかな?、でも魂は抜けてるからアンデッドみたいになって・・・」
「待て、それ以上聞きたくねぇ!・・・で、その超ヤバい薬は過剰に飲んでも大丈夫なのか?」
「身体の毒はすぐに抜けないだろうからそれまでは飲み続けても害は無いかな・・・ただ・・・いや何でもないよ(ニコッ)」
「ただ何だよ!、途中で話を切るんじゃねぇ、気になるじゃねぇか!」
「噛まれてもうすぐ30日でしょ、僕の予想だとあと10日もすれば毒も抜けると思う・・・それに尿を鑑定して毒が抜けたら飲むのをやめるようにって書いた紙を入れてあったよね」
「紙って何だ?、そんなの入ってなかったぜ」
「え・・・入れた筈だけど?」
「ちょっと待ってろ」
俺は居間を出て作業場に向かった・・・これか?、作業場の隅に紙切れが落ちてたから気になってたんだ。
バタン・・・
「これ作業場に落ちてたぜ、確かに書いてあるな・・・毒が抜けたら飲むのをやめて余った薬は何かあった時のために冷暗所で保管してください・・・か」
「おかしいなぁ、箱に入れたと思ったのに・・・」
「で、毒が抜けても飲み続けたらどうなる?」
「本当に害は無いよ、前より・・・ちょっと元気になるくらいだと思う?」
なんかこいつの言ってる事が急に胡散臭く思えて来たぜ・・・まぁ害が無ぇなら大丈夫か。
「僕はもう寝るけどまだ夜中だよね、明日の朝出発するなら夜明けまでこの居間を使って良いけど」
「俺もこことブライアス王国を何度も往復して疲れた、明後日くらいまで泊めてくれ、前来た時に預かって貰ってる馬も大通りの宿に取りに行かねぇと・・・」
「そう・・・じゃぁ僕は寝るけど明日はずっと寝てると思う、死ぬほど疲れてるから起こさないでね」
「分かった・・・」
どんどんっ!
「うるせぇな!、誰だよこんな朝早く」
あれから俺も疲れて居間のソファで寝ちまった、朝日が昇って教会の鐘が一つ鳴ってる時に客が来たのか誰かが店のドアを叩いてやがる。
昨日俺は裏口のドアを蹴り破って入ったから店の正面は鍵が閉まってる筈だ、俺が出ていいのか迷ったが俺みたいに扉を蹴破られてもアレだから出る事にした。
がちゃがちゃっ
がちゃ・・・
「誰だよ、今日は臨時休業だぜ」
店の前には貴族っぽい男が立ってやがった、一応庶民みてぇな格好してるが貴族だろうな、姿勢が良いし立ち居振る舞いにも品がある。
「おや、ここには魔女様お一人で暮らしておられる筈ですが?」
男が不審者を見るような目を俺に向ける、嫌な感じの野郎だぜ。
「俺はこの店の客だが昨日魔女様が腹を下してな、便所に何度も駆け込んで大変だったぜ、夜遅くに一人で放置するのも心配だったから俺が泊まって看病してた・・・もちろん魔女様の許可は取ってあるぜ」
適当に言ったが嘘はついてねぇ。
「・・・私はとある貴族家の使いの者です、お約束の期限になっても薬の納品がありませんでしたので私が取りに伺った次第で」
「そいつは残念だな、薬は29・・・いや26本ぐらいあるがここ数日作れる状況じゃなかった、それだけでも持って帰るか?」
こいつが秘薬「魔女の涙」をまとめて買ってる王国の奴なのかは分からねぇが恐らくそうだろう、俺の直感がそう言ってるぜ。
「・・・困りますねぇ、契約はきちんと守って頂かないと、ではある分だけ頂けますかね」
「おぅ、ちょっと待ってろ」
がしゃっ
「ほらよ」
俺は作業場に置いてあった作りかけの秘薬が入った木箱を男に渡した。
「ふむ・・・26本ですか、では残りの分もお早くお願いしますよ」
「おい待てよ、代金置いて行け」
「何を言っているのです?、納期に遅れたのですから今回分のお代はお支払い出来ません」
「何だって!・・・いつもこんな感じなのかよ!」
「魔女様は納期にほとんど遅れた事がありませんでしたので・・・ですが私の前任者の時に何度か納期遅れがありまして、その時もお代はお支払いしていないかと」
「ちょっ・・・ちょっと待ってろ!」
どたどた・・・
ばんっ!
「おい!、起きろ!」
ばさっ!、ごろごろっ!
「ぴゃぁぁっ!」
ごつっ!
「痛ったぁぁぁい!」
布団を引き剥がしたら勢い余ってベッドの下に転がり落ち、テーブルの角に頭を強打した・・・凄ぇ痛そうだ。
「お得意様とやらが薬を取りに来てな、納期遅れだから代金は支払わねぇって言ってるぞ、いいのかよ?」
「うりゅ・・・頑張って作ったのにタダ働きだぁ・・・」
頭を押さえて泣き出したぞ・・・
「いつもこんな酷ぇ扱いなのか?」
「ぐすっ・・・だいたいこんな感じだよ・・・」
「何で文句言わねぇんだよ、こんなの働き損じゃねぇか」
「でも僕は首輪でここの国王に命を握られてるし・・・まだ本当に酷い被害は出てないから僕が我慢すればいいかなって・・・」
「うちの国に戻って来いよ」
「ダメだよ・・・この国が僕を手放す筈ないし、戦争になっちゃう・・・」
「・・・」
「でも本気で僕を怒らせた時には・・・多分この国滅びると思う、街の人達は親切だからできるだけ滅ぼしたくないし・・・ね」
最後にとてつもなく不穏な事言いやがったぞこいつ・・・。
「帰りやがったなあの野郎・・・」
ぶつけた頭を押さえて眠そうなファビオラと一緒に店に戻った時には男は帰った後だった、本当にあのクソ高価な薬をタダで持って行きやがったぜ・・・。
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