011 - やべぇやつだった! -
011 - やべぇやつだった! -
翌日、情報組織「悪の華」の総帥、ロドリゲス・オコスナーが城にやって来た、親父の新しいシャツを仕立てるから馴染みの商会に採寸させるって名目でな。
ここは王族のプライベートスペースだ、天井裏には影が潜んでるし扉の外には信頼できる近衛騎士が2人立っている。
ファビオラが昔作ったらしい防音の魔道具も設置されていて盗み聞きされる心配は無ぇし普段はここでお袋が画商や宝石商なんかと商談してるから不自然には思われねぇ筈だ。
俺たちの目の前に居るのはロドリゲスらしき仮面の男と・・・偽装の為だろうな、でかい鞄を持った女が一人、紫色の魔力が煙みたいに身体から出てる親父や兄貴の姿を見ても表情ひとつ変えねぇ。
「ククッ・・・陛下、この度は我がローマネスク商会にご用命頂き誠にありがとうございます」
「久しぶりだなロドリゲス、ここは人払いが済んでいるからもう演技はしなくてもよいぞ」
「そうですかい・・・では」
ふぁさっ・・・
ロドリゲスが帽子と仮面を外した・・・息子より胡散臭ぇ顔だなおい!。
「ここに居るのは私の孫でしてねぇ・・・おいクラウディア、陛下達に挨拶しろ」
「貴族じゃ無ぇから礼儀がなってないのは許してくれ、クラウディア・オコスナー、今アルファ王国に居るエンリケスはあたしの親父だ」
娘も顔が胡散臭ぇな・・・。
「座って話そうじゃないか、息子達とは初対面だったな、だがお前の事だからこいつらの女の趣味から下着の色まで把握済みだとは思うが・・・」
俺は思わずズボンを押さえて今日履いてる下着の色が何だったか思い出そうとした、こいつの組織はそんな事まで知ってんのかよ!。
「ケケケ・・・王太子殿下は今の王太子妃様が好みのド真ん中で、第二王子殿下は彫りが深く目鼻立ちの濃い巨乳の熟女がお好みではないかと」
隣で兄貴が頷いてるな、それに俺の好みも正解だぜ畜生!。
「で、何故ここに呼ばれたか分かっているな?」
「アルファ王国の馬鹿な企みと・・・白銀の魔女についてですかい?、この情報は高いですぜ陛下」
すっ・・・
親父が無言でテーブルに紙切れを差し出した、おそらく情報料が書いてあるんだろうな。
ロドリゲスが紙に目を通し、数字を書き込んで親父に返した。
「相変わらず欲深い奴よ・・・まぁいいだろう、話せ」
「あそこの国王や貴族連中が腐り切ってるのは知ってるよな、民衆は重税と搾取で疲弊して不満が爆発寸前だ、特に今の国王は民からの支持は殆ど無ぇ」
確かにな、歴代の王はそこまで酷くなかったが先代の王になった頃から税が上がりあちこちで不満が出てると聞いている。
「流石に今のままじゃまずいと思ったんだろう、ここでひとつ民衆の支持を上げようと考えた馬鹿王は閃いた」
「うちの国を攻め落とし属国化させる・・・か」
親父が呟いた、うちの国もそれくらいの情報は掴んでる。
「正解だ、暴動が起こるから今以上税を上げるのはまずい、だが金は贅沢な暮らしの為に欲しい・・・なら隣国から搾り取ろうぜってな、王や王太子を暗殺して混乱してる隙に攻め込む計画を立てた」
安易過ぎるだろ、向こうの王はそこまで馬鹿だったか・・・ブライアス王国が狙われた理由は周辺にある小国は既に属国みてぇなもんだし距離が近いのと国力が拮抗してて目障りってとこだろうな。
「確かにあの国は金だけはある、民衆の生活水準も高ぇから放っておいても発展するだろうよ、だが王や貴族どもは欲を出しちまった、自分の国にとんでもねぇ化け物が居る事も知らずにな」
ファビオラの事か、だが俺は呑気に店で居眠りしてるあいつがそんな恐ろしい化け物には思えねぇんだがな。
「白銀の魔女とは向こうに移住した時から組織の人間を近くに付けて情報交換をしてた、向こうの目があったから最初の10年は大人しくしてたな」
「それで、ファビオラ姉様は何をあの国に仕込んでる?」
・・・
「じゃぁ俺は帰るぜ、またな陛下・・・エンリケス経由でファビオラ姉ちゃん・・・いや、白銀の魔女にはやり過ぎるなって伝えといてやるよ」
ロドリゲスが仮面を付け帽子を被ってソファから立ち上がった、それから俺の方を見て口を開く。
「ベネット王子、息子と仲良くしてやってくれ、次の総帥はあいつがなるだろう・・・うちの組織とここの王族は遥か昔からの付き合いだ、今の陛下は見た感じまだくたばりそうにねぇし王太子殿下が王になる頃にゃ俺は死んでるかもしれねぇからな」
・・・
・・・
俺は自室に戻り、ロドリゲスがくれた情報を思い返してる、やべぇ・・・俺が思ってた以上にあいつはやべぇ奴だった!。
・・・15年ほど前にアルファ王国全域で謎の伝染病が流行っただろ・・・5日も寝込むと治っちまうが咳が酷くて苦しい・・・あの疫病はアルファ王国の貴族を中心に流行って民衆は無事だったよな、不自然だとは思わねぇか?・・・
・・・移住した最初の年から仕込み始めてたな、街を隅々まで歩いて住民と親しくなった・・・今じゃ気さくで優しい魔女様って人気だぜ・・・
・・・あの悪党どもは久しぶりの獲物だったが腕は衰えてなかったぜ・・・エンリケスの奴が隠れて様子を見てたがそりゃ見事な手際だったってよ・・・
・・・もうすぐ仕込みが完成するって言ってたな、現代最強の魔女様が30年の時間をかけて作った大仕掛けだ、俺もアルファ王国に渡って見物して来ようと思ってる・・・。
・・・被害の規模か?・・・向こうの貴族連中がどれだけ魔女を怒らせるか分からねぇから予測はできねぇ、体制が崩壊した隙に国ごと乗っ取っちまうってのはどうだ?・・・民衆への情報操作くらいなら引き受けてやるぜ・・・
「・・・こっ・・・断られただとぉ!」
「はっ・・・申し訳ありません、魔女が言うには自分は今でもブライアス王国の国民でアルファ王国の依頼を受けてこの王都に移住して来ただけであると・・・」
「それで、魔女の涙はどれくらいあの国に渡ったのだ?」
「50本と聞いております」
「50本が尽きるまで暗殺を繰り返せと言うのかぁ!」
「敵国も度重なる暗殺未遂で警戒を強めておりまして、こちらの手の者も次々と捕えられて・・・」
「・・・呼び出せ」
「は?」
「白銀の魔女を呼び出せ!、拘束しても構わぬ!」
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