010 - こぉぉぉぉ・・・ -
010 - こぉぉぉぉ・・・ -
どぅるるる・・・
「止まれ!、おい止まれデュラハァーン!」
ぶるるるるっ!、ふしゅー!・・・ふしゅー!
「本当にお前どうしちまったんだよ・・・」
俺の名前はベネット・ブライアス、37歳独身だ。
今俺はブライアス王国の王城に着いたところだ、急いで5日かかると思ってた距離を俺の馬は3日で走り抜けやがった。
あの薬草か・・・それくらいしか思い当たらねぇ。
一緒に走って来たもう一頭も目がギラッギラでやたらと荒ぶってる、夜並んで繋いでたらデュラハァーンを襲おうとして蹴られてた、ちなみにこいつはオスでデュラハァーンもオスだ・・・。
衛兵が伝えたんだろう、城に入った所で兄貴が出迎えてくれた。
ごごごごごご・・・
「・・・兄貴、何があった?」
俺は兄貴と一緒に親父の執務室に入った、アルファ王国での事を報告する為だ。
親父の様子も変だが兄貴もおかしい、俺が居ない間に何があった?、親父の隣で立ってる宰相に視線を向けたら逸らされたぜ畜生!。
ふしゅぅぅぅ・・・ふしゅぅぅ・・・
ソファに座る兄貴の身体から紫色の魔力が湯気みたいに出てやがる。
「ファビオラ姉様は無事だったか?」
兄貴が俺に尋ねる、喋ると口からも魔力が漏れ出てるぜ・・・。
「あぁ、俺が到着した日の朝に目を覚ましたらしい、9日ほど気絶してたみたいだが今は普通に仕事してるぜ」
「そうか、それは良かった」
「・・・」
「・・・」
何か言えよ!、怖いじゃねぇか!。
兄貴は元々温厚で表情も柔らかい、スッキリした顔立ちで女性にもモテていた、だが今の兄貴は・・・目つきが鋭いし表情も険しい、下手に顔が整ってるからそんな顔されたら俺でも恐怖を感じる・・・。
隣で座ってる親父もだ、身体から紫色の魔力が出てるのは兄貴と同じだな、体格が良いから兄貴より威圧感が凄ぇ・・・俺の家族揃って闇堕ちしてやがるぜ畜生!。
「実はな・・・」
ふはぁぁ・・・
気持ち悪いから口から魔力吐き出すのやめろよ!。
「お前が帰って来る4日前、食事に毒を盛られた」
「・・・」
そりゃ大変だったな、だが兄貴の口から煙みたいに出てる魔力が気になって話が頭に入って来ねぇぞ!。
「血を吐いて倒れ、一度心臓が止まりかけた」
「・・・」
「だが、ファビオラ姉様の薬で命が助かったのだ」
ふしゅぅぅ・・・
・・・
兄貴達の話をまとめるとこうだ。
親父は毒が抜けて毎日筋肉を鍛えてる、身体に力が漲ってじっとしていられないそうだ、この時点でファビオラの薬を9本飲んでいた。
その後兄貴が毒を盛られて倒れた、当日に専属医師の判断で3本飲ませた・・・無茶しやがるぜ、それから毒が抜けるまで毎日1本飲んでたらしい、飲んだのは全部で6本だ。
「ファビオラ姉様から余分に薬を渡されていなければ私は死んでいただろう、感謝しないといけないな」
兄貴が笑顔で言った・・・笑顔が笑顔になってねぇ、どこかの国を滅ぼそうと企んでる悪い王様みたいな顔になってるぜ!。
こぉぉぉぉ・・・
みしっ・・・みちっ・・・
「それでベネットよ、あの薬は何だったのだ?」
筋肉を軋ませながら親父が俺に尋ねた。
「親父の容態が分からなかったから今の時点であいつが作れる最高の薬をくれたらしい、大昔には「魔女の雫」って名前で売ってたようだぜ。
「・・・」
「・・・」
いや2人とも何か言えよ、怖いから無言で俺を見つめるな!。
「それから、向こうで「悪の華」の幹部が俺に接触してきた・・・そいつの情報によると・・・」
「やはりそうだったか」
「うむ・・・」
ごごごごごごご・・・
俺はアルファ王国で練られている計画を親父達に話した、胡散臭ぇエンリケスの情報だから真偽は未確認って前置きでだがな・・・。
「だが、その計画はすでに破綻しているだろう、我々は生きているからな」
「そうだな、あれから親父は庭を歩いてる時にも刺されたが死んでいない」
兄貴がとんでもねぇ事を言い出したぞ!。
「おい待て!、それは初耳だぜ」
「最後まで聞けベネット、親父は刺されたが無傷だ、ナイフが筋肉を通らなかったらしくてな」
「・・・」
「鍛えておいて正解だったな、やはり筋肉は全てを解決する・・・ふはははは!」
俺は意味不明な事を言う親父を無視して兄貴に言った。
「城の中には裏切り者が紛れ込んでるよな?、ならファビオラの薬で2人が助かった事・・・向こうは知ってるんじゃねぇのかよ?、今度はあいつが狙われる可能性があるぜ」
「おいベネット、ファビオラ姉様を呼び捨てにするな!、様か姉様をつけろ」
兄貴が魔力を吐き出しながら俺に言う、だから何で口から魔力が出るんだよ!。
「いや向こうも俺の事おじさんなんて言ってやがるから別にいいだろ!」
「だが・・・下手に狙われて姉様を怒らせたら面倒な事になるな」
「心配するのそこかよ!」
「ベネット、お前は姉様に会って・・・どう思った?」
親父が俺に質問する・・・
「親父達が言ってたような恐ろしい魔女には見えなかったぜ、あえて言えば人畜無害・・・いつもぼんやりして他の事になんて興味が無ぇって感じだったな」
「まぁ、そう見えるだろうな、アルファ王国も最初は監視していたが・・・10年を過ぎた頃には随分と警戒を緩めていた」
親父が楽しそうに言った、口から禍々しい魔力が出てるからそうは見えねぇがな!。
「って事は、見た目と本性は違うのかよ?」
「・・・姉様は我々と離れてアルファ王国に移住させられた事に腹を立てていた、両国の軍事力の差を知ってるから大人しくしてるが、移住して30年・・・裏で何を仕込んでるか分からない」
「・・・そういえばあいつ、本気で僕を怒らせた時にはこの国が滅びると思う・・・とか言ってやがったな、冗談かと思ってたが・・・」
俺がポロッと言った言葉に二人が固まった。
「・・・ベネット、それは冗談ではない」
親父が重々しく口を開いた・・・また口から魔力が漏れてるぞ。
「いや国を滅ぼすなんて無理だろ、あいつ首輪で魔力を封じられてるし、それに・・・」
「その力を封じられてる魔女が大勢居る悪党どもの首を一人で落としただろう?」
兄貴が俺の言葉を遮って言った、まぁ確かにそうだよな。
「ファビオラ姉様は基本的に温厚で人畜無害だ、だが彼女を本気で怒らせた人間は皆死んでいる・・・アルファ王国の貴族連中が怒りに触れて全滅してもうちは痛くも痒くもないが、関係の無い人間まで巻き込まれて死ぬのは心苦しいぞ・・・」
親父がとてつもなく不穏な事を言いやがったぞ。
「宰相・・・裏切り者に気付かれぬよう「悪の華」のロドリゲスを呼んでくれ、姉様があの国に何を仕込んでいるのか知っておきたい」
「はい」
ここ数日の間に随分と老け込んだように見える宰相が部屋から出て行った。
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