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蒼白で美しき雲は毒を吐く

今朝、母が首を吊った。

昨日だったのかもしれないけど、

私は見てない。


よく母は生きる意味を私に説いてた。

いつも長々とお話をして、

結局意味なんて無いって、

そうやって話を〆る。


私は生きる意味とか、

そう言うものは特に特色を持って考えていない。


前に小さな子どもが私に聞いた。

コバエやユスリカの様な、

生まれてからちょっと飛んで死ぬだけの生き物は

なんで生きているのかと。


そんな事は知ってなかったけど、

他の虫も、動物も、人間もそこまで変わらないと

自論だけ浮かんだ。


生きるために生まれて、

生きてもらう為、新しい自分達を生む。


そうとだけ説明した。


私は時々、ジッと雲を見ることがある。

グラデーション豊かなその浮遊物は、

どうしてかこう、グッと私を抑えつけ、

そして、目を奪った。


母はあの雲の上に行ったのだろうか……


母は神様は居ないと、

私が小さな頃から教えてくれた。


神様が居ないことの証明は、私の存在だと、

悲しそうな顔を言う。


だから、神社もお寺も行ったことがない。

時間の無駄だって。


その考えは私の思考の根底にひりついたけど、

そこまで気にしていない。


簡単な話だもの、

本当に神か仏がいるなら法律になってるし、

いないからこそ意味がある存在なんだから。


信じる事は今更無理だけど、

母は地獄に行っているといいな。


母の死体は三日放置した。


首の縄を解いて、地面に下ろしたら、

赤ん坊みたいに首が揺れた。


首の骨が折れていた。


母の腕には沢山の切り傷があって、

太ももやお腹にも沢山の赤い線が入っていた。


髪は結ばれてて、

手入れされていないボサボサの髪が手を燻った。


目はどこも見てなくて、目を合わせに行くと、

自然と瞼が落ちた。


沢山の母を見て、私は確信が出来た。


私は母が嫌いだ。


子供は親を嫌いになれないという迷信を信じ、

今日の今まで気づかなかった。


死んでもなんとも思わない。

逆に死んでくれて嬉しかった。


理由はない、ただ嬉しかったんだ。


いつも心は母に問を持ってた。

なんで私を産んだのかと。


聞けずじまいだったけどもうどうでもいい。


これで自由になったんだと思う。


お母さんへ死んでくれてありがとう、

産んだことを後悔してください。


やっと夢が追えるんだ。


私の夢『雲になる事』

本当になりたいんだ、雲に。


雲は水が蒸発して出来た水蒸気の塊。

人間の体は六十%が水。

なれないことはないと、私は思う。


私は考えた、うんと沢山の事を考えた。

でも、まだ考えはまとまらない。


そうする内、

私は強姦(レイプ)された。


母が狂ってたから、

娘の私は皆から嫌われている。


ただ、足を使って歩いていただけなのに、

頭を撃たれ、アキレス腱を切られた。


もう痛みが無くなるほどに殴られて、

いくつかの骨が折れるくらい蹴られて、

子供が出来なくなるくらいに壊された。


いつの間にか雨が降って目が覚めると、

両手の指が無くなっていた。


もうどうでもいいことだけど。


空から大きな粒の雨が落ちてくる。

ゴテゴテの体は水のように、

地面に吸い取られるみたいになる。


私は気付いた。

そして実行する。


足が動かないので這って、這って、這って。

目当ての場所に辿り着いた。


そこは砕氷の場所。

ここで肉塊になればきっと、もっと液体になる。

そして、海に捨てて貰えてばきっと、

私は雲になる。


雲ができる場所。


そこに落ちたらきっと私は雲になれる。


死ぬ。

執着はないよ。

私一人が居なくなっても地球は廻る。


もう感覚なんて無いんだ。

体の毒は皆壊れて死んだ。

生きているのは体だけ。


ごめんなさい……ずっと死にたかった。


死にたいとずっと願ってた。


ひたすらに生きるのが辛かった。

本当は母が死んだ事だって辛かった。


酷く喚いても泣いても、それでも愛をくれた。


本当は殴られるのも嫌だった。

痛くて、怖くて、抵抗も出来なくて、

謝ることもさせて貰えなくて怖かった。


本当は犯されるのも嫌だった。

人間としての尊厳を丸々潰されて、

ずっと涙が溢れてた。


本当は生きる意味はあると思ってる。

でも決してそれが目に見て理解できるものじゃないって分かるから、私は分からなかったけど、

死ぬ事ができるならもうどうでもいい。


本当は神様だって信じてた。

信じてずっと助けてもらいたかった。

結局何も起きなかったけど、

きっと天国があるんだってまだ信じている。




……本当は雲になんてなりたいなんて思ってない。

何も思ってない。

ただ、死にたい、死にたかった。

それだけ……ただそれだけ。


きっと報われもしないけど、

この生涯は意味のあるものだって信じてる。


この先きっと、私が死んでなにか変わる。


そうであって。

そうであってくれないと。


愛していますこの世界を。


そして、次は空から見守ります。


雲になって


《蒼白で美しき雲は毒を吐く》(~完~)
























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