セーラー服の神様
お話を書くのは初めてですが、ゆっくり更新できたらなと思います。
よろしくお願いします!
蝉時雨が降り注ぐ田舎道を歩いている。
昨日、地方に住んでいる叔父、幹也さんが亡くなったという報せを受け、母と車で半日ほどかけてこの土地にきた。
叔父といってもあまり関りがあったわけではない、思い出と言えそうなのは、まだ小学4年生ぐらいの頃に親戚の集まりに退屈した私が「お外で冒険してくる!」とひとりで飛び出していこうとするのを宥め、近くの辺りを一望できる公園に連れて行ってくれた事ぐらいだろうか。笑った時に目尻にキュッと皺ができ、穏やかながらもよく笑う人であった気がする。
そんなとりとめもない事を考えながら幹也さんの荷物の片づけを手伝っていると、
「透子ー!折角の夏休みなんだから、手伝いばっかりしてないで外にでもいってらっしゃい!」
と母に追い出されてしまった。
目的地はあの時の寂れた小さな公園。置いてある遊具は錆びて元の色も分からなくなった滑り台と鉄棒だけ、このあたりに住んでいる遊び盛りの子供たちもあの様な場所を遊び場にする事はないだろう。
なぜあの公園に?と聞かれても「なんとなく…」としか答えられない。強いて言えばあの公園にある、大きなイチョウの木を散歩のついでに見に行こうかな。という漠然とした理由であった。
八月中旬の蒸し暑いこの季節では、あのイチョウの木も見事に色づく為の準備中といったところかな。と幼い自分に足音を重ねるように歩く。
少し急な上り坂、木陰が揺れる階段を上るとあの時と変わらない、イチョウの木と公園が目に入った。
いや、あの時の記憶とは違うところがひとつ。イチョウの木の下で眼下に広がる景色をひとりで眺めていたセーラー服の少女が、この公園を訪れた私に気が付き、慈しむ様に微笑みかけてきた。
腰にかかるほどの美しい黒髪によく映える陶器のような白い肌が木漏れ日を浴びて消えいりそうに輝く。
思わず見惚れていると、少女は先程とは打って変わって真っ黒な瞳をビー玉の様にキラキラさせながら随分と馴れ馴れしく話しかけてきた。
「こんにちは!この辺りでは見ない顔だね。幹也の葬儀に参列しに来たのかな!あの子もまだ元気だったのに、熱中症とやらは恐ろしいものだ…。こんな田舎だと外で倒れても誰も気づいてくれないんだから、君も気を付けるように!」
ずいずい迫ってくる少女に気圧されながらもなんとか「は…はい…」と返事をしたがまるで聞いていない。
まだまだ少女は話し足りないようで更に続ける。
「幹也は僕の良い話し相手だったんだ。なにせ大抵の人間は僕がここにいることすら分からないからね。だけど!君が来てくれた!ということで君がここにいる間話し相手になって欲しい!あと僕の友達を助けて。」
ただの散歩だというのに大変なことになってしまった。「なんとなく…」でこんなことになるとは予想ができないだろう。そして美少女がおかしなことを言っている。知覚されない人間などこの世にいるのだろうか。この所おかしなことが起きていないわけではないが、あまりにも唐突な発言に混乱している私を急かすように少女は
「ねぇ。だめかな…それなら時々顔を見に来てくれるだけでいいんだ!おねがい!」
と必死に袖を引っ張ってくる。
それでも答えあぐねる私に痺れを切らせたのか少女は私の顔を覗き込みながら呟いた。
「君、僕の友達も見えているだろう?ほら、あの入道雲で首を吊った天使だよ。」
ああ、蝉の鳴き声が遠のいた気がした。