おまけ 拙者はネコイチロウである。
お友達を守ってね。
お約束。
そういわれて最後の糸を留められた。
優しい手が頭を撫でて、そっと飾られた。
ずっと、お友達が来てくれることを待っていた。
お友達ができたら、一緒に遊んで、一緒にいるんだって決めていたのに。
ずっとずっと。
でも、誰も僕を連れていってはくれなかったんだ。悲しくて泣いて眠っていたら、ある日明るい声が聞こえた。
あなたはネコイチロウ!
かっこいいサムライなの!
みんなをきょあくから守るのよ。おやかたさまから密命を受けてあくだいかーんと戦うの!
それでね……。
小さい子がたどたどしく語る物語は、いつしか本当かもと思える気がした。
僕、いや、拙者はネコイチロウ。サムライである。
そうだったら、いつか、おやかたさまに会えるかな?
それから少し経って、店から連れ出された。お出かけだよと連れ出したものは、ネコイチロウ、もうちょっといい名前なかったかなとつぶやいていた。
人の名前にケチをつける了見の狭さたるや許しがたい。
だが、喧嘩すると外に出してくれないかもしれず黙っていることにした。
店のものも優しく扱ってくれたが、時折訪れる小さいものがこう、ぎゅーだの、ぐいーだの、あ、落としちゃった、だの色々あって落ち着かなかったのだ。
同じように飾られていたキツネもクマも一緒だ。
誰と一緒だろうねとこしょこしょ話していたら、甘い匂いのするお店についた。椅子を用意して、人がするみたいにお茶の準備をして。
少し痛かったらごめんね、と足元をちくちくされた。
壊れたらすぐ戻っておいで、ちゃんと治すから。心配そうにそういって、彼はいなくなった。
それからちょっとして、少し人が増えて騒がしくなった。
拙者は誰にわたされるのかなってわくわくしていた。
困惑したように拙者を受け取った女性に、やつはこういった。
「いざって時は盾にして」
ひどくないだろうか。あまりにも、きゅーとでプリティな拙者にたいして、ひどいはなしではないだろうかっ!
受け取った女性はこまったように、ええ、と頷いていた。
それが御屋形様との出会いだった。さすがにお友達というには、大人過ぎた。が、サムライの主にふさわしい覇気をお持ちだったので、それはそれで天の采配ということだったのだろう。
たぶん。きっと。
時々、あぐれっしぶすぎてのぅ……と遠い目をすることになったりしたが。
紆余曲折あり、我が主は敵を成敗し、ふふんとご機嫌に帰還してきた。
拙者はもうお役御免と飾られる日々、とはならずちょこちょこと場所を移動させられた。みんなを見ててねと新たなる屋敷の監視任務が与えられたのである。
ちょっとしたご利益があると撫でられるのは悪くなかった、が、それはいきなり中断されてしまったのである。
小さい生き物にぎゅーだのあむあむだのされるお仕事がやってきた。
せ、拙者、誇り高きサムライ、うう、ああ、小さい生き物よ、泣くでない。いいぞ、捧げよう、拙者のしっぽ。
ううっ。洗濯は嫌であるぞ。水攻めはいかん。
子守がうまいとか言わんでください、御屋形様。くっ、笑うな、お主が。
……まあ、わが友が楽しそうなのは、いいのではあるのだが。
わが友よ、大きく育ち、拙者をあむあむするのを卒業するのだぞ。
その次はどこにでも連れていくになる? の、望むところだ。拙者はちゃんとお友達を守るのだ。
ん? んん? なんか、よくわからぬな。
守らねばならんと、頼まれた気がするのだ。よくわからぬよ。
うむ。頼まれた。
その小さい生き物が一番最初に口にした言葉は、ねー(猫の意)であった。
こちらでおまけの追加も終了です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。




