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守りの手袋  作者: あかね


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森の主

 グレースと入れ替わりに何人かの騎士が出ていくのが見えた。


「グレースを回収するまで関与するなと言われていてな。

 そこまでの大人数の面倒はみれん。面倒がふえるだけだと」


 王からそういわれて、グレースはこれを計画したのが王その人だと気がついた。確かに、来客の手を借りると言っていたではないか。


「戻ってはならんよ。

 致命傷になる。ほら、君の父が心配している」


 君の父という他人行儀な言い方が気になり、室内にいるはずの父を探す。

 ついっと思わず視線を外したくなる一角があった。めっちゃ怒られてる。それも、王弟殿下が。


「儂は、もうやられたあとだ」


 一国の王に説教する。父親の度胸に慄くが、そういえば大喧嘩もする関係だったと思い出した。

 思い出したところでいいところはないが。


「おや、グレース。

 無傷で何よりだ」


 そういいながらも表情が怖い。

 グレースは王弟殿下と一緒に説教された。指揮官が前線出てくるなというしごく真っ当な話に二人ともぐうの音も出ない。


「今後は慎んでくれ」


 父の説教はそれで幕を閉じた。大人しい、はい、以外の返事をしようものなら再開されそうな雰囲気に三人は素直な返事をした。いつの間にか王も巻き添えを食らっていたのだ。

 あまりにも長くて、同室にいた他の王族は別室に休みに行ったくらいだった。残ったのは王と王弟、グレースと侯爵、何人かの護衛だけだ。

 そのため、今日の成果を確認することになった。やり方に問題はあったにしても釣果は上々だったらしい。


 そちらの力が足りないためにうちの娘が大変な目にあった。婚約破棄したいが、体面があるだろうから結婚したときに約束したものを提供してくれれば黙っている、という強迫じみたやり方を円満な婚約解消というかは知らないが。

 さらに支援はしたけどただとは言っておらんよ、ただとは、と解消後にするらしい。


 悪徳高利貸しとよぎったがグレースは口には出さなかった。鉱山ぶんどったるとやる気な王をみてちょっとげんなりしただけだ。さすがにグレースには悪いと思ったのか利益の何割かは個人資産としてくれるようだ。

 その結果、グレースは国一番のお金持ち令嬢となる。


 侯爵家の一人娘、爵位付き、さらにお金持ちで若い。

 婚約解消後は婚約希望が殺到するだろう。グレースは先に婚約者及び結婚相手は自分で決めることを宣言した。結婚しなかったとはいえ政略結婚などこりごりだ。

 しばらくは結婚しないとつづけた娘を侯爵が疑い深そうに見ていたことに気がつかなかった。


 そんな話をしているうちにネコイチロウが帰ってきていた。ずっとそこにいました、と言わんばかりにグレースの膝の上を占拠している。


「おかえり。おつかれさま」


「うにゃう。にゃうにゃう」


 雑音の混じった音は意味のある言葉ではなかった。ただ、眠いとか言ってそうな態度ではあった。傷はないが薄汚れた感じにみえる。


「大丈夫だった?」


「うにゃぅ」


 大丈夫でござるよ、といったところだろうか。グレースはほっとした。

 もう一人、人間の方は大丈夫だったんだろうか。


「フィデル殿は、どうされました?」


「戻っているよ。

 すまないね。時間がかかった」


 清々しい緑の匂いと共に人が現れた。


「ご令嬢にお目にかかるのは、初めてだな。

 西方の森の主、名は、聞こえないから名乗らないよ。

 で、だ、捕獲したけど。どこに置いとけばいい? 手ごろな壺に詰めたんだけど」


 グレースからの挨拶を受けることもなく、即王に向かって言う。

 確かにそれはいつものフィデルらしさは少しもない。淡く緑の光をまとうところは幻想的でさえあった。


「壺にしまえたのかい?」


「幼児が入りそうなサイズには収まったね。

 本性は水でよかった。保管しやすい」


「……血肉は?」


「捨てさせた。そちらも確保して詰めた」


「なにに」


「こっちで処理するから」


 どこからどう聞いても不穏である。まさに殺人の証拠隠蔽のようだ。

 グレースは口を挟むか少し迷った。


 視線に気がついたのか、急に彼はグレースへ視線を向ける。


「ちょっと借りた。すぐ返す。反動で2、3日寝込むが身体的には問題ない。

 ちゃんと同意を取っているし、総合的に貸し借りなしの取引だ。

 ネコイチロウも、休めば戻る」


「本当、ですか?」


「元の状態に戻す。

 そういう決断をしたから、仕方ないね」


 そういって肩をすくめる。

 そして、疲れたと椅子にどさっと座った。

 

「なにか聞けることはあったかい?」


 気安い口ぶりの王を見ると以前から付き合いがあったらしいと思える。

 精霊使いが去っても、その精霊は残っていた。いや、精霊使いも残ってはいたのだ。誰も、そういわなくなっただけで。


「精霊の付き合いは精霊で片をつけた。

 が、それだけで納得せよというのも良くはないだろう」


 そういって彼は簡単に説明した。


 要は、聖域を侵された精霊が怒って、加護を取り下げ、その結果、王太子も王もささやかな悪意の積み重ねでああなった、だけの話であること。

 死んだあとは、次はそういうまずいことをするような王はいらんと使いやすそうな相手を選んで口出しをしたというところ。

 国内でしていればいいのに、こっちまで手を出すから。


 そういってにこりと笑う。無邪気と言えるが、グレースはぞくりとした。


「感謝はいらないから、余計なことだけはしてくれるなよ。

 友の子孫の行方を見ていてくれという願いをなんとなくしているにすぎない。飽きたらどっか行くよ。あんまり、当てにすんな」


 風が部屋に巻き起こり、いつの間にか開いていた窓の外に出ていった。


「お帰りになったのですか?」


「王都観光して、知り合いと遊んで帰るって言ってたからまだいると思うよ。

 ここしばらくは強風が続く」


 やれやれと言いながら王は窓を閉めた。

 フィデルはと言えば小さく唸っていた。


「……頭痛い」


「大丈夫?」


 声をかければ頭をあげて、驚いたような顔をしていた。なぜ、ここにいるのかわからないと言いたげにあたりを見回して、はぁとため息をついた。

 あの野郎と呟いていたのできっとここに来るつもりはなかったのだろう。


「大丈夫?」


 もう一度、声をかけるとようやくもう一度グレースを見るが、今度は少し困ったように眉を下げている。


「すみません、よく聞こえない……。

 ちょっと休ませてもらいたいです」


「もちろんよ。

 手配するわね」


 グレースの態度に背後の三人がざわついたのだが、彼女が気がつくことはなかった。


 城内の医師がやってきた時点でグレースは部屋から追い出され、いつの間にやら来ていたメイド長に寝かしつけられた。

 そして、翌日、自宅に帰される。フィデルの状況については何一つ教えてもらうこともできず。

 数日たって、ようやく状況を聞くことができた。


「負傷して歩けなくなった?」


「完全にというわけではなく、多少引きずる感じらしい。このまま退役することになるそうだ。

 家業を手伝うということで、心配はいらないと伝えて欲しいと」


 そう告げた父は気まずそうだった。


「見舞いに」


「不要だそうだ。仕事なので、負傷も織り込み済みだと言ってな。

 その、な、気落ちせぬように。こういうことは、たまにある。護衛されるというのは、こういうことでもあるから」


「私から、見舞金を送ります。それは、いいでしょう?」


「それで気が済むなら。

 しばらくは護衛もつかない。屋敷を出ぬようにな」


「承知しております」


 部屋を出る気にもなりそうにない。

 グレースは自分の部屋へ戻った。いつもはしないような乱暴な扉の開け方をして、部屋でくつろいでいたネコイチロウが飛び上がる。


「なななにごとですかっ!」


「全然、大丈夫じゃなかったじゃない!」


「どうなさったのです?」


 慌てているネコイチロウにグレースは先ほど聞いた話をした。ネコイチロウはうむうむと頷く。


「フィデルなら、そうするでしょうな。

 退役しても、実家で仕事するだけの話で問題ございますか?」


「私のせいで」


 そういって、グレースは黙った。そうでないことは気がついている。

 仕事だから、グレースの護衛をし、任務を果たすために負傷した。負傷しては続けていけないと退役する。

 どこもおかしくはない。


 おかしいのはグレースのほうだ。


「御屋形様のせいではございません」


「わかってる。

 メイドとして雇えばいいのかしら」


 泣き出しそうな気分を押し込んでグレースはそうつぶやいた。

 ミラとしてなら、問題なさそうな気がした。控えめに笑う姿を思い出して、さらに泣きたくなったが。


「いやぁ、さすがにそれは嫌だと思います。

 正直、あわない仕事しているより、家業の手伝いのほうがいいと思うのですよ。のんびりするのがいいと思いますよ」


「……そうね」


 落ち着いたら、お見舞いにいくことくらいは許してもらえるだろうか。

 その時に何をいえばいいのかさっぱりわからないが。

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