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守りの手袋  作者: あかね


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乙女の準備

 平民(仮)として暮らすので、メイドの仕事を覚えている。というシュリア。メイドの仕事をメイド長についてしている、という体でグレースの部屋で隣国の情報提供をしていた。

 シュリアは訪れた部屋に見慣れぬものがいることに気がついたようで視線を止めた。


「新しいメイドかしら?」


「前からいるわ。すこし用事を頼んでいたの」


 ミラは一礼する。その姿を見てシュリアは少し考えていたようだった。もしかしてバレたのだろうか。フィデルとも面識がある。


「所作がきれいね」


 ミラは嬉し気にもう一度、一礼した。言葉で礼を言う代わりにだろうが、グレースは少しむかっとした。


「早く終わらせましょう。

 時間が無くなってしまったの」


「ああ、夜会がございますものね。その肌とくま何とかしないとだめですわよ」


 シュリアにすら指摘されてしまった。かなり心配そうな口調がグレースの心に刺さる。さらに後方でミラがうんうんとうなずいていた。

 ここにも味方はいないらしい。味方をしてほしい父も血色悪いですねと餌食になっている。おっさんがぷるぷる肌になってどうするのだと嘆いているらしい。


「そういえば、昨日、騎士の一人が美容に詳しいとかで連れ去られていったのですけど、あれ大丈夫でしたの?」


 大丈夫じゃなかったが、グレースは知らないわと微笑んでやり過ごした。ご実家が薬屋というその騎士は肌の手入れの専門家だった。家業の手伝いでというより、憧れのお姉さんの悩み相談に乗っているうちに……ということらしい。残念ながら、お姉さんは他家へお嫁に行ってしまった。

 その傷跡がある技術を使えるものは使えるしとフィデルが有効活用している。

 というのが昨日の話である。

 メイド長は技術の実践と試した結果、今日のお肌の調子は絶好調らしい。朝からとても上機嫌で周囲からは何事かとみられている。

 グレースは今日この話が終わった後に試されてしまうのだ。

 なんだか怖いのでシュリアも巻き込むつもりである。死なばもろともだ。


 そうとは知らぬシュリアは広げた大きな紙を見てふむと呟いた。


「もうこれ以上は出てきませんわ。

 こんな頭使ったことないくらい絞り出したんだから、有効に使ってくださいね」


 シュリアはそういった。元々は側妃、あるいは王妃を狙うように育てられた女性である。引き出せる情報は多く、本人も捕虜ですしと開き直ったのか隠し立てはしていないようだった。か弱いわたくし脅されて仕方なくと情感たっぷりに言った後に、普通の表情で、それで何が知りたいんですの? と言い出したところは肝が据わっている。


 この紙面にあるのはお嬢様のお嬢様による勢力図だ。家の思惑ありで仲が良い風でも内情は違うことはある。対等に見えて上下関係は出来上がっている場合も。

 内部にいたものにしかわからないとても貴重な情報である。複数のご令嬢からの集合知であるので、見解が違い2パターン書かれていたりするが、概ね見解は一致していた。

 これは隣国の勢力図と微妙に重ならない。

 意外ともいえるし、当然でもあるかもしれない。家の都合と自分の都合がかみ合わないことだってある。

 その他、好きなもの、流行りのもの、贈り物に最悪のものなど小さな情報も積み重なっている。


「ありがとう。今後の友好に使うわ」


 シュリアはどうだかと言いたげに視線を向けたが返答はしなかった。本当に今後の付き合いに使うつもりなのだが。グレースは苦笑した。

 お隣は王太子が決まって、それで終わりではない。治世が安定してもらわねばならない。自分たちでもちゃんとしようとはするだろうが、余裕がないと極端な対処になりがちだ。

 そうやってぐずぐずに内戦などされては困る。なんだかんだと戴冠まで口出しすることになるだろう。仮想敵国との防波堤は強固な方が良い。


 まあ、王太子に決まった時点でグレースは縁切り予定だが。


「今後はどうすればいいのかしら」


「しばらくメイドね。キルシ殿も無事就職となったし」


 キルシはもう年だしと退役するつもりでいたらしいので、グレースはうちで働きなよと勧誘、父の口も篭絡し、無事手に入れたのである。


「その後は?」


 自らの犯した罪の重さがどの程度か、シュリアが気にしているのはそこだろう。

 公にしなければ、なにもない。ちょっとお手紙のやり取りをしただけ、という話にもできる。それはグレースの心づもりで決定できる範囲になっていた。

 でもねぇとシュリアを眺める。意外と嫌な手紙を送ってきたのだ、彼女たちは。傷ついていないわけでもない。

 水に流す、という気持ちにはならない。


「シュリアさんは、文才がおありよね」


「嫌味?」


「いいえ。この先考えていることはあるの。そこまでは保留。

 堅物な大人を篭絡しておきなさいな。若い娘と飛びつかない良識があるから優良よ」


「そ、それは、そうしますけど……。

 家は、どうなりますの?」


「没落するけど、命は大丈夫、程度ね。立ち回りがうまければ、もっとましになると思うけど」


 望み薄のようにグレースには思える。派閥替えをしていいように使われた。何かあったら切り捨てるために招き入れたくらいの話であってもおかしくはない。

 シュリアはため息をついた。


「寛大な処分ありがとうございます。ところで、亡命して、家族を呼べますの?」


「役に立つかどうかによるわね」


「親と兄はどーでもよいのですけど、妹と弟がいます。成人前なので、保護して養いたい」


「では、夫を捕まえないとね」


「いいえ、お仕事をください。わたくし、役に立つところをみせますわ!」


 グレースは驚いてシュリアを見た。確かに役に立つかどうかとはいったが、それは隣国に対しての知識などの提供として考えていた。

 働きたいと言い出すとは思ってもみなかった。


「誰かに決められた通りなどしません。もう、好き勝手に生きます。

 グレース様への償いが済んだ後、ですけど」


「そう、それなら、これからつき合ってくださる?」


「え」


 シュリアも説明されていない美容コースに道づれにした。

他国の家への処分に口出しはしないけれど、侯爵家ともなれば他の国とも取引があり、うちと揉めたのよね、あの家と付き合いたくないわといえば、さぁっと人がいなくなる程度の権力と実行力はあり。という方向でじわじわ没落します。家業ありの貴族なので家業の伝手で潰すことが有効に。

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