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守りの手袋  作者: あかね


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11/31

おかしなおかしな

 侯爵と話をした翌日、フィデルは騎士の正装で姿を現した。略装をややラフに着ているのがいつものことだが、何かあったのかとグレースは身構えた。

 本人はあくまで軽い調子でこういった。


「三日くらい不在にします」


「そう、気を付けてね」


「……どうしたの? って聞いてくださいよぉ」


「聞いて任務をぺらぺらしゃべるような男じゃないでしょう? 時間の無駄」


 グレースは軽口が返ってくると思っていた。

 しかし、そんなことを言われると思っていなかったように、目を見開いてこっちを見ていた。


「なによ、その顔」


「へ? あ、心臓止まるかと思った」


「さっさと準備に行けば?」


 さっさとよそに行けとグレースは手を振る。

 あんな一言で、心臓が止まるように思えるとは、よくわからない。短い期間だが、軽い態度の中にもきちんと真面目なところがあるのはわかっている。

 任務に対しては真摯に対応しているものが、余計なことは漏らしはしないだろう。

 と言えば、なんだが調子に乗りそうだから、言わないが。


 言わないが、察しはするのがこのフィデルという男だ。にこにことした表情は誰が見てもわかるほどの上機嫌だ。同じ部屋にいたメイドたちがはっと目を見張るほどに輝いている。


 グレースは嫌そうに顔をしかめた。


「グレース様に評価されてうれしい」


 本当にうれしそうに笑うのはいいが、頬に両手を当てる必要はあったのか。


「……どこか行ったら?」


 じろりと見て言う。

 その乙女っぽいポーズを決めるのをやめろというべきだったかもしれない。ミラを演じるようになってからちょっとそう言うところがある。くねっとした、というわけではないが、小動物(無害)です、私、みたいな感じがある。

 腹が立つのは、あなた、かわいいんじゃないの、とちょっと思ったところだった。


「いえ、今日はこちらにいます。引継ぎもありますから。

 数日は先日、先日御者をしていたものがつきます。先輩は王都暮らしの貴族の次男で、名誉を重んじる方です。家名に恥じるような行為はしないでしょう」


 グレースがますます眉間にしわを寄せたのを見てフィデルは態度を改めたようだった。

 前に御者が騎士団のものだったということは周りに知らせていない。それを今言うのは迂闊なのか、意図的なのか。


 思えば、わざわざいないと大っぴらに言うというのもおかしい。

 グレースの知らないところで、大罠を仕掛ける準備でも始めたのかもしれない。昨日の父の怒りようを見ればさもありなんといったところだ。実の娘を生餌にするなとはグレースも申し立てたいが。


「先輩の売りは、体格を生かした格闘戦です。

 巻き込まれないようにしてくださいね」


 そうして、離れたところで、攫われろとでも示唆されているのだろうか。グレースはじろりとフィデルを見るが本当に心配そうな表情だった。

 人となりを知らねば、騙されそうなくらいの。


 フィデルは、善良だが、嘘つきだ。必要であればぺらぺらと嘘を仕立て上げる。それを覚えて、短期的に破綻させない技量は詐欺師向き。

 改めてグレースはフィデルを見上げる。


 濃い金髪と栗色の中間の髪は、王都民の大多数と同じ。顔立ちは悪くもないが、とびぬけて良いというわけでもない。体格も騎士という立場から考えれば華奢に見えるくらいだ。

 服装を改めれば、とても、普通の男に見える。その普通、というのは、どこにでも紛れそうな普通さ。


 誰にでもなれそうな男。

 使い勝手は良さそうだなとグレースはいまさら思った。


「そんなみられると照れます」


 フィデルは真顔でそんなことを言ってのけた。

 ただ、ちょっとだけ、耳が赤いのでほんとに照れたのかもしれない。


「ほんとうに、気をつけなさいよ」


「ええ、俺じゃないとダメって言われちゃったんで、すぐ片付けて戻ります」


 へらりと笑って、そういった男は、約束の三日を過ぎても戻ってこなかった。



「フィデルは、元気でやってるんで大丈夫ですよ」


 不在、一週間。

 臨時護衛とされたクリスという名の騎士はそういう。


「べつに、気にしてないわ。

 ほら、将軍が死ぬわよ」


「げっ」


 呻く大男を見てグレースはため息をついた。

 ボードゲームは一通りこなすということで、グレースは付き合ってもらっていた。異国から伝わったという駒取りゲームは、成り上がりという。

 カードと駒を両方使うもので盤上の領土を各種駒を使って取り合う遊戯だが、最初の自分の駒は1兵卒である。それが、引いたカードの効果により、強化して、領土を増やし王になるのが目的だ。将軍は王の一つ手前の状態である。

 この遊技は時間がかかるので途中でやめるか、中断したままのテーブルをおいて置けるものだけがやる。

 これは4日くらいかけた結果だ。


「断頭台。いつ手にしたんです」


「2日目くらいに」


「……あの、ずーっと、捨てなかったカードですか。くっそ、全捨てさせりゃあよかった」


「ふふっ。勝ちね」


「感服しました。

 こりゃ、妹とも戦えそうですね」


「妹さんもいらっしゃるの?」


「ええ、ちょいと引っ込み思案なところもあるけど、可愛い妹です」


 照れたようにそういうから、クリスは妹と仲が良いのだろう。グレースは微笑ましく思うが、少し羨ましい気もした。兄弟がいるというのは、どういう気持ちだろうか。一人娘として育ったグレースにはわからない。


「勝者にはなにを捧げればよろしいですか?」


「そろそろ、なにをしているのか、教えてくださらない?」


「……まあ、構いませんけどね。

 事後になりますし」


 少し気が進まないような顔でクリスは、話し始めた。


 簡単に言えば、王の誕生祭が近く、浮かれた雰囲気に乗じて、人さらいをしたのだ。

 攫ったご令嬢は5人。例の脅迫状を送り付け、謝罪の手紙を先日送ってきた者たちだ。今は彼女たちはそれぞれの隠れ家で匿われている。

 全員危機的状況を飲み込んでいる、というわけではなく、逃げ出さないように監視も必要で手が足りていない。フィデルはそっちの対応に忙しいというわけである。どこに出入りしても目立たないから。


 なお、家族にも、本人にも同意なく連れ去っているのでまぎれもなく犯罪である。


「……言えないわけね……」


「保護してるんだよ、ということで納得した言質は取れましたのでようやくお話できます」


 ほっとしたように話しているが、犯罪者に脅されてという言い方もできるわけだ。

 指示元が自分でもあるのでグレースはそれについてとやかくいうことはやめた。あとはいい感じに話をまとめれば良い。


「悪人ね」


「公正に裁けば、監獄行きなので寛大と思いますがね」


 自国のご令嬢への嫌がらせなら、揉み消しもできるが、他国の王家に近いご令嬢への嫌がらせである。国際問題として落とし前をつけるなら、そうなる。あるいは罪に怯え、死を選ぶことにも。

 余計なことを言わぬよう、さっさと自殺に見せかけて殺す、が一番相手方が簡単な方法でもある。


 グレースはその余計なことを言わせるために、保護し、懐柔する。その結果は家を潰し、自分の国の国益を損なうことになる。

 そうなったときに、彼女たちは誰を恨むのだろうか。


 気が重いが、やり始めたのはグレースではない。自らの判断を悔やんでもらいたいところではある。


「レイラ嬢は?」


 何気なく尋ねたことにクリスはびくりと反応した。


「あー、えー、言っていいのかな。

 秘密にしてくださいね。って言ってもバレるんですけど」


 グレースは、頷くが、前置きがすでに嫌だ。


「消えました。

 滞在していた家の人たちも、そんな人いなかったとこちらがおかしい、という扱いをされ、精霊に化かされたという感じですね。

 精霊使い、なんてのはおとぎ話に置き去りにした話ですが」


「4代前にはまだいたわよ」


 もう遠い昔、と表現してもよい年月だが。


「5人のご令嬢は、皆覚えているの?」


「それが様々で、シュリア嬢が一番覚えていて、手紙もきちんと提供してくれました」


 怪訝そうな表情のグレースにクリスは何とも言い難い表情で床を見た。


「その、ですね。捕獲する前に、勝手にこっちに来ちゃったんです。彼女」


「はい?」


「わたくし、あの方に嫁ぎますの! それで世界一おいしいお菓子をつくっていただきますの、って押しかけ嫁が」


「……はあ!?」


 昨今で一番訳が分からないできごとだった。

成り上がり。

まず、マップを用意します。一枚15cm角の絵をかいてあるものを4~9枚ほど設置します。地形はランダムで封入されており、最悪の砂漠マップというものも存在するらしいです。

追加キットもあって延々と増やすことも可。

各キャラが出発地を決め、カードを各5枚配り、順番決めのサイコロを振ってスタート。

すごろくのように各イベントが書いてあるものがマップ事に5つ書いてあり、コンプリートでそのマップを占拠できます。

さて、邪魔をしないと楽しくないですよね、という風に妨害カードが多種用意されております。

起死回生の一番いやなカードは断頭台。ある程度成長したときに特攻。クーデターを疑われ即死。もちろん対処するカードもありますが、手持ちできるカードは5枚。持ち続けるかどうかは人それぞれです。


という嘘ゲームです。たぶん、とってもめんどくさい。そして、コレクターがいる。部屋を一室専用にするようなドはまりマニアがきっといる。

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