悪役令嬢らしいので実証しようと思います!
頭ゆるゆるで読んでください!!設定ゆるゆるです(•▽•;)
ざまぁは緩めです!
初断罪物なので温かく薄目で読んでください…(・–・;)ゞ
「メイフェリス・スペンサー!この時を以て貴様との婚約を破棄する!」
ざわりと異質な空気がダンスホールへと広がってゆく。
今夜は年に4回開かれる、王家と公爵家が主催の夜会である。この国に公爵家は4家。そのうちのひとつ、クリューガー公爵家と王家によって催されたものだ。
そして今、高らかに婚約破棄を叫んだのはクリューガー公爵家嫡子、ハリスである。珍しいピンクブロンドの髪の可愛らしい女性の肩を抱き寄せ、鼻孔を広げた顔は品位の欠片もない。確か女性の方は子爵令嬢だったかしら。
それにこの方、解っているの?この夜会は公爵家主催、ではなく、王家と公爵家の共同主催だと言うことを。
当然、この場には国王一家揃い踏みである。
そして王侯貴族の子息、息女達、もちろん私も通う学園の生徒もそれはそれは沢山参加されているのに…。
よく見なさいな。皆様ポカーンですわよ。ポカーン。
アホの突き付けた指の先にはひとりの女性がスンとした表情で立っていた。そう、私である。
自分で言うのも何だけれど、私は美しい。白銀の艶やかな髪にサファイアを思わせる瞳。出るところが出ていて引っ込むところはきゅっと引き締まっている身体。そして動きやすくシンプルながら流行りを取り入れたマーメイドラインのドレス。私の美に皆釘付けである。当然。
「…理由をお聞きしても?」
それはさておき、このけしからんアホから話を聞かなくては。
「白々しい!私が知らないと思っているのきゃ!?貴様、公爵令嬢の立場をひけらかし私のアーシャを苛めていたじゃないきゃ!この悪女が!貴様などアーシャの足元にも及ばぬ!私達は真実の愛に目覚めたのだ!」
ちょっと、今「いるのきゃ」て言わなかった?なに「きゃ」て。噛んだの?この場面で?やだぁ…ダッサ…。
白けた目でアホ…こほん、ハリス様を眺めて居ると後ろからクイクイとドレスを引っ張る小さな手が見えた。あん、やだ、可愛い。
「どうなさいましたの?」
「おねぇさま、あの…私…」
おろおろしてる可愛い可愛い天使ちゃん…なんて尊いのかしら。
扇で隠した口許はゆるゆるである。
「おい貴様!聞いているのか!?」
「あ~ハイハイ。聞いておりますわよ」
適当に答えたのが癪にさわったのかハリス様は唾を飛ばす勢いで罵詈雑言を吐き出し始めた。
「思い返せば貴様は初めての顔合わせの時から生意気だった!まるで私を馬鹿にしたように無表情であまつさえ私に口答えする有り様だ!女なら弁えたらどうだ!?その後も茶会の度に勉強をしろだの菓子を溢すなだの茶器の音を立てるなだの母親のようにグチグチと!あげくの果てには私の愛しいアーシャを虐めるなどと…っ!恥を知れ!!」
「ちょっとよろしいかしら」
「なんだ!?」
「具体的にどのような苛めでしたか?」
ここ、肝心な事なのでしっかりと聞いておかなくては。
「はぁ?!どんなって…教科書を破いたり、ドレスを引き裂いたり、鞄ごと噴水に投げ込んだり、後は…そうだ!階段からアーシャを突き落とそうとした!これは立派な殺人未遂事件だ!!」
ふむふむ。教科書を破いたり、ドレスを引き裂いたり、鞄ごと噴水に投げ込んだり、階段からアバズr…こほん、アーシャさんを突き落とそうとしたり、ですか。
うん。ムリですわね!
「わたくしではございませんわ」
「はぁ!?まだシラを切るつもりか!?」
「ですから、わたくしではございません」
「いい加減にしろ!この悪女が!」
アホには人の言葉が解らないのかしら?
あと王族の皆様をちゃんとご覧なさいな。冷気と殺気がビシバシ飛んできてますわよ。
「……わたくしの話をちゃんと理解しやすく、粉砕してお話ししますのでよくお聞きを」
ニコリと微笑めば周囲はうっとりとしたように溜め息を溢した。
「そもそも、わたくしは『メイフェリス・スペンサー』ではございません」
「は…?」
「やはり勘違いしておりましたのね…。10歳の頃、わたくし、貴方様と初めてお会いした時、言いましたわよね?………………あら?言ったかしら?……あぁそうそう、そうでした。貴方様はわたくしを見るなり『こんな女はイヤだ!ママに言ってかえてもらう!』と叫ばれてわたくしの話など一切聞かれないまま走り出したのでしたわ」
周囲から「え…ママ呼び?引くわ~」とそこかしこからヒソヒソ聞こえる。気になるのソコですの?
「さすがにこれはマズイと思ったので一応家族には話しましたが…。あ、そうそう、どうしてわたくしか貴方様と初顔合わせなんてした理由でしたわね。それは顔合せ当日にわたくしの可愛い義理の妹が体調不良で寝込んでしまい、お断りと謝罪に私が赴いたのです」
「え…?義理の妹…?」
「そうです。わたくしの可愛い義妹です」
ハリス様は何が何だか解らないのか、おかしな顔で傍らのアーシャさんを見返した。アーシャさんの顔色も中々に面白い事になっている。
「そう言えば、初対面時から名乗らせてもいただけなかったので改めて名乗らせて頂きますわね。わたくし、スペンサー公爵家が嫡子ロランド様の婚約者、マリアベル・ゼクス・ザインリヒトでございます」
私が名乗るとダンスホール内は俄にざわめき出した。それはそうでしょうね。貴族教育を受けた者なら、在校生を含め私の名前に気がついたでしょうから。
カーテシーもせず名乗りをあげると、ハリス様はハッとし血を上らせた真っ赤な顔でまたもや噛み気味に騒ぎ出す。
「にゃ!にゃんだそれは!?公爵家の私に録な挨拶もできないなんて!さては貴様!下級貴族だな!?」
私を指差し、なおも口汚く罵り出したハリス(もうこいつに敬称はいらないわ)は周囲のざわめきには全く気が付いていない。自分の世界に酔っているのね。それともただのバカかしら?
「何故わたくしが自分よりも下の者に頭を垂れなくてはならないの?」
「…!……!!」
私の言葉に返す言葉に詰まったのか、ハクハクと池の魚のように口を動かすハリスの顔を見たのか、プッと小さな笑い声が背中から聞こえた。
そう、彼女こそ先程から名前のあがっていた私の可愛い可愛い義妹、メイフェリス・スペンサー。
はふぅぅ…笑い声まで可愛いなんて、なんて、なんて罪な子…!
「お姉さま、ここはひとつ、わたくしも名乗っても?」
「あら、いいの?」
「ええ。それに、私ちょっと思い付いたことがあるの」
にっこりと微笑む彼女の表情は何故だかわくわくと高揚しているようにも見える。
「ハリス様。こうして顔を合わせるのは初めてでございますね? 初めまして、メイフェリス・スペンサーでございます」
私の横から一歩前へ出たメイフェリスはにこりと微笑んだ。
もうそれだけで花が咲くような柔らかな雰囲気がまるで波紋のように広がり周囲もほっこりと頬を緩めた。
─メイフェリス・スペンサー。公爵家のご息女。私の婚約者ロランド様のみっつ下の可愛い可愛い妹。
……今から10年前。私はお見合いのためこの国に来た。当時私はまだ7歳。ロランド様は8歳。年齢と身分的に私達の婚約は妥当だと言えた。
しかし当時の私は偏った情報の中で生きてきたせいで政略結婚、つまりはこのお見合いに乗り気ではなかった。要するに私は恋愛結婚がしたかったのだ。決められた結婚なんて、そんな味気無い未来はうんざりなのだ、と当時流行りの恋愛小説を読み漁っていた私はもやもやとした鬱憤を溜めたままスペンサー公爵家へとやって来た。
ところが初めて顔を合わせた瞬間、私だけでなく、なんとロランド様もお互いに恋に落ちてしまったのだ。
優しい心遣いや笑顔。彼の笑顔は育ちのせいで私の若干ひねくれた私の心のトゲを全部落としてしまった。
彼と結婚する。直感でそう思ったのだ。
そんなある日、ロランド様が珍しくお茶会に遅れてきた。
やって来た彼は何だか歩きずらそうに片足を引きずっていたので「もしやお怪我でも!?」と焦ったのだけど、よく見ると彼の太股に小さな手が絡み付いていたのだ。
「遅れてごめんね、マリー…。えっと…その、ね…」
と、彼は背後を振り返り、「ほら」と促すように優しく声を発した。すると彼の背後から小さな女の子がひょこっと顔を覗かせた。
ロランド様には妹がいると聞いていたけれど…。
私と同じ…と言うかロランド様もだけれど、女の子も同じようなふわりとした銀髪で目は溢れそうな程に大きく可愛い。幼子特有のむちっとしたほっぺたに、ちっちゃなお鼻に、可愛いお口。全てが可愛らしい。
そんな女の子が私を見上げ、じ~~…と見詰めてくる。
(あ、あら…?これはもしかして『お兄様は渡さないわ!』的なやつでは…!?)
恋愛小説の読みすぎでちょっと夢見がちだった当時の私は『兄離れ出来ない義妹が義姉を虐める』と言うシチュエーションを想像してごくりと息を飲んだ。
「どうしてもマリーに会いたいって言って聞かなくてさ…」
困った妹だよ、と言いながらもロランド様は優しい日だまりのような笑顔で妹さんの頭を撫でる。
そしてその女の子はトテトテとこちらへやって来るとガバッと私にしがみついた。
「え!?な、ロ、ロランド様…!?」
どうしていいのか解らない私はロランド様に助けを求めたけれど、彼はにっこりと笑って大丈夫だよ、と頷いて見せた。
視線を下に向けると女の子も私を見上げるように顔を上げた。
「えっと…」
「おねぇさま…メイのおねぇさまになってくれるの?」
キラキラと期待するように女の子の瞳は瞬く。
(かっっっ…わい…!!)
心臓に矢が刺さる、なんてありきたりな謳い文句は小説で沢山見てきたけれど、自分が当事者になるだなんて思わなかった。なんて攻撃力なの…!
「もちろんよ!」
私は舌を噛みそうな勢いで頷いた。何なら吐血していたかもしれないわ。
それから私は兄妹そろって尊い存在に屈し、ロランド様との婚約式と同時にスペンサー家へ移り住むことにした。だってこんな至高の兄妹からどうやって離れろと言うの?私に死ねってこと?
─こほん。
そんな過去を経て私はこの兄妹に魅入られ共に過ごすようになった。
そんなある日可愛い義妹のメイフェリスに婚約の話が舞い込んだ。当然、私とロランド様は相手を見定めるべく計画を立てた。何処の馬のカス…もとい骨かも解らない男に可愛い義妹を差し出すなんて死んでも嫌よ。
まず顔合わせ当日にメイフェリス本人ではなく私が登場。そして見定める─はずだったのだけれどまさかの癇癪我儘お坊ちゃんママの元へダッシュ。
生まれて初めて人間をゴミのように見たわ。
いくら幼くとも貴族は貴族。アレは無い。
私はその足で別館でお茶をしている愛しの兄弟の元へ向かった。一言一句間違えず正しく全てを知らせた時のロランド様は、最近流行りの大衆小説の氷の魔王様のように冷冷として、怜悧な微笑みは別館を一瞬で真冬にしてしまった。素敵すぎて惚れ直したのは言うまでもないわ。
それなのに何を思ったのか相手方のゴリ押しで婚約は調ってしまった。
そして初見だからアレだったのかしら?と思ったバカ坊は2度目も駄目だったので、なんならいっそメイフェリスには会わせない方向でいこう…とロランド様は決めた。その間、アホハリスの相手─と言うか出迎えは私が引き受け、当然その都度内容をロランド様に事細かに報告した。
この様子では婚約破棄は早いでしょう。
その頃には私とロランド様の心はひとつになっていた。
可愛い妹ですもの。素敵な殿方と結ばれてほしいと思うのも当然よね。と零すと、ロランド様は「僕の可愛いマリーに『こんな女』と言い放ったゴミは廃棄しないとね」ととてもいい笑顔で仰った。……ステキ!
メイフェリス本人はと言うと、「お兄様とお姉様がダメだと思う方には嫁ぎたくありません。おふたりが素敵だと思う殿方じゃなければ」とハリスの事は私達に完全にお任せしてくれている。なので私とロランド様はハリスの有責で婚約破棄に持ち込めるよう画策したのだった。ロランド様は最後までアホに私を会わせるのを渋っていたけれど、愛しい兄妹の為だもの!些事よ、些事。
「か、可憐だ……」
メイフェリスを見つめたままハリスが熱に浮かされた様に呟く。
そしてハッと我に返り、突然喚き出した。
「なっ!?どっ、どういう事だ?!彼女は皇国の皇女だろう?!」
あらあら。やっぱり勘違いしていたのね。
思わず扇子で隠した口角が上がる。
学園でも常に行動を共にしていた私達2人を勘違いで覚えている者も少なくなかったのは知っていたけれど、別に正す必要も無いため放置していた。
スペンサー兄妹と私、同じ髪色を持つ私達は知らないものから見れば血族に見えるのもあるけれど。
まぁ、私の身分故に近付いてくる者も居なかったし、それに関して訂正もしなかったし、都合も良かった。
なので何も言わず放置した。
相当の馬鹿でなければ態々口にせずとも自ずと気がつくことですもの。
そう、相当のハリスでない限りは、ね。
「わたくしが皇女?そんな畏れ多い…わたくし等お姉さまに比べれば道端の石のようなものですわ」
眉を僅かに下げて微笑むメイフェリスはまるで儚げな妖精を思わせる。
可愛いわ…!控え目に言わなくても世界一じゃないかしら!?
貴女が道端の石ならハリスなんて馬h…コホン。失礼、そっちの方がハリスより価値がありそうですわ。
「それで…えぇと…。教科書を破いたり、ドレスを引き裂いたり、鞄ごと噴水に投げ込んだり、階段突き落とそうとしたり…でしたか?」
続けてメイフェリスが発した罪状にハリスがハッと我に返った。見惚れていたのよね、可愛いメイフェリスに。解るわ。けど見ないで頂戴。お前のような下水みたいな汚れた眼に可愛いメイフェリスは過ぎたものよ。身の程を知らないって本当に罪よね。
「ケリー。居るかしら?学園の教科書を用意して貰える?」
「はい。既にご用意しております」
スッ、とどこからか執事服の少年が数冊の学園で使われている教科書と学生鞄を手に現れた。
「鞄も持ってきてくれたのね!さすがケリーだわ」
にこりと微笑むメイフェリスにケリーはほんのり口角を上げる。
「あとは…ドレスね」
「ドレスなら当館に置いてある王家の物を使うといいよ」
あらあら、良いタイミングだわ!
メイフェリスに向かって歩み寄る姿を背中越しに捉えていたけれど…。
「まぁ…!アルお兄さま!」
振り向いたメイフェリスが花が綻ぶように微笑みかける相手─。
「─あっ、申し訳ございません…その…幼い頃よりの癖が未だに抜けず…お恥ずかしいですわ。アルノルト王弟殿下」
─実に良いタイミングよ。マルグリット王国国王の実弟、アルノルト・ハイデン・マルグリット王弟殿下。
扇に隠した口角がにんまりと弧を描く。
ヒーローの登場だわ!なんたって彼は国王の一回り年下で現在24歳。独身婚約者なし性格良しの優良物件。更に言うなら可愛い可愛いメイフェリスの初恋相手!現在進行系よ!
「良いよ。メイの好きに呼んでくれて」
にこりと微笑みを向けられたメイフェリスは僅かに頬を薔薇色に染めてはにかむようにアルノルト王弟殿下を見上げた。
「それで、どのようなドレスをご所望かな?」
「あ、はい!…えぇと…」
メイフェリスがハリスの横に侍るピンクブロンドの女を一瞥しうぅん…と悩むように小さな手を顎に添える。そんな姿も可愛いわ!
ドレスのグレードを見て同等のものを用意してもらおうと口を開きかけた瞬間、既にケリーがトルソーに掛けられたドレスを用意していた。しかも同等のグレードもののドレスを。さすがケリー。早すぎてちょっと引くわ。どんなにメイフェリス至上主義でももう少し自重した方が良いのではないかしら。
「それでは…準備が整いましたので実証─始めたいと思います!」
さっきまでは阿呆ハリスの茶番で胡乱げな視線を集めていたが今ではメイフェリスの可愛らしい雰囲気に周囲はほんわかして成り行きを見守ってくれていた。
「えぇと、アーシャさん…?だったかしら。先ずは鞄を噴水に投げ込んだのでしたわよね?わたくし一体どこからか噴水に鞄を投げ込んだのかしら?」
「え?!え〜っと、そう!あ、あそこよ!噴水広場のベンチから!」
「そうですのね。では教科書はどのように?」
「ま、真っ二つよ!中心からっ!」
「ではドレスはどんな風に破られておりましたか?」
「裾…いえっ、胸元から裾にかけて引き裂かれてたわっ!」
「それは刃物で、でしょうか?」
「いいえ!あれは…そう!ち、力任せに引き裂いた感じよ!」
あらあら、アーシャったら…視線を左右の頭上を彷徨わせながら必死に考えているわね。若干声も上ずっていて冷や汗も…いろんな意味で大丈夫かしら。
「わかりました!ご協力感謝いたしますわ」
にこーっ!と笑って礼を口にしたメイフェリスにアーシャは頬を引き攣らせる。
「それでは…」
「お嬢様、噴水からベンチの距離は凡そ6メートル程です。鞄にはお持ちした教科書を3冊入れておきました」
人差し指を顎に添えたメイフェリスにすかさずケリーが報告する。
「ありがとう、ケリー。ではわたくし力一杯鞄を投げるのできちんと測定してね」
「はい。お任せ下さい」
ジャッ!とメジャーを引き出し構えたケリーの目が光る。1ミリ単位も見逃さない勢い…こわ。
「いきます!せーの!」
遠心力を使ったメイフェリスの手から学生鞄が宙を飛──ばなかった。
「…あら?」
ぽすん、と落ちた鞄を見てメイフェリスが首を傾げている。それもそのはず。メイフェリスの投げた学生鞄はたった3冊しか教科書が入っていないにもかかわらず、1メートルも飛ばなかったからだ。
「91.3cmです」
「おかしいですわね。3メートルは飛ぶはずでしたのに…」
本当に不思議そうに首を傾げるメイフェリスを見ていた周囲の者も私と同じ事を思っているに違いない。そんな細く華奢な腕で3メートルは無理なのでは?と。
「もう一度やりますわ!」
ムン!と拳を握ったメイフェリスの手に再び学生鞄が渡される。何食わぬ顔でケリーがサッと学生鞄を差し出したように見えたけれど、私は見ていたわよ。一瞬で鞄を拭き消毒までしていたのを。こわ。
「えーい!」
再び宙を舞─わなかった学生鞄はまたしてもぽすん、とメイフェリスよりほんの少し離れた場所に落ちた。
「91.6cmです。さすがお嬢様!」
ケリーがメジャーを構えメイフェリスを振り返る。
何を目を輝かせているの貴方。こわ。
「ふむ…これでひとつは実証されたんじゃないかな?メイに学生鞄を投げるのは無理だって事が」
王弟殿下がニコニコと笑みを浮かべてうんうんと頷く。そんな彼を見てアーシャがアワアワと狼狽え始めた。
「えっ、あっ、違っ!も、もっと近くで投げ込まれ─」
「おや。王族の前で虚偽を口にしたと?凄いね、君」
「う…ぐぅ…!」
何も言えなくなったアーシャを周囲の視線が取り囲む。それでも諦め悪く「けど教科書は本当に…!」とハリスにしがみついた。
「解っている。君が嘘なんてつかないことは…!」
「ハリス様ァ…!」
とか何とか茶番を繰り広げている阿呆2人を空気扱いして検証は続けられていく。
教科書。中心からビリッ!─どころか裂け目も出来なかった。
ドレス。胸元から裾にかけて力任せに引き裂─けなかった。胸元に縫い付けられた宝石ひとつも千切れなかったわ。
─ま、解っていた事だけど。
恐らく自作自演でしたのでしょうけれど、メイフェリスは公爵家のお嬢様。蝶よ花よと育てられた彼女の本気の筋力が肉食獣のアーシャと同等な訳が無いでしょう。大方自分で成した事柄でしょうけど、教科書を真っ二つに破るだなんて、本当にゴリラじゃないの?
「さて、と…。では最後に『階段から突き落とした』…だったかな?─まぁこれまでの結果からしてメイには難しいだろうね」
そう口にしながら王弟殿下はクスクスと笑っている。それを見たアーシャの顔が真っ赤に染まるのを周囲は当然と言わんばかりの侮蔑の視線を向けた。その視線を感じたのか狼狽えだしたアーシャとハリスは寄りにも寄って最悪の選択をしてしまった。
「ちっ!違…!!やったのはそっちの女で…!!!」
「そ、そうだッ!やったのはそいつだ!!」
そうして私を指さした瞬間、先程からビシバシ飛んできていた冷気と殺気の塊が王太子の背後から静かに一歩を踏み出した。
そう。私の愛しい婚約者様よ!
「私の婚約者を侮辱するだけでは飽き足らず、その上冤罪をかけようとは…余程死にたいようだね」
─きゃぁぁぁぁ!!!んもぉ!カッッッッッッコイイ〜〜!!!!きゅ〜〜〜ん!ですわよ!さすが私の婚約者ロランドしゃま!!はわわ…!鼻血が出そう…!
柔らかい微笑み、声色。瞳も髪の色も愛しい義妹と、そして私と同じ。緩くサイドで結んだ絹糸のように綺麗な長い銀髪。見るもの全てを魅了する神が丹精込めて創り出したであろう美しい顔。
宝石の様な瞳が一瞬私とメイフェリスを捉え、甘い蜂蜜のような微笑みを浮かべる。そして再びハリス達を見返した。その眼に一切の甘さは無く、ただただ冷やかに鋭利な刃物のようだ。笑顔なのに。
あぁ…ほら、王太子殿下がビビってピルピルしてるわ!
「同じ公爵家のくせに何だその上からの物言いは!!」
うん。やはりこいつはアホだった。
「何か…思い違いをしているようだけど、うちは筆頭公爵家。─君のクリューガー公爵家は序列で言えば一番下だよ?」
おかしなことを言うね?と小さく首を傾げたロランド様の仕草…絵に残したいわ。
「へ?」
間抜けな表情を晒したハリスが慌てて両親を振り返るが、その両親がサッと視線から逃れるように顔を背ける。大方うちが一番だとかふざけた事を吹き込んでこの愚物を育てたのでしょうね。まぁ視線を逸らすあたり公爵家としては最下位だという自覚はあったのかしら。
それ故に許しがたい。
「これはどういう事かな、クリューガー公爵」
「はっ?!へ?」
まさか名指しされるとは思わなかったのかクリューガー公爵家当主であるハリスの父は挙動不審げに視線を彷徨わせ脂汗がどっと湧き流れる。
いつも人当たりが良く春の日差しのようにニコニコしているロランド様の魔王モード!やっぱり素敵…!
ニコニコと微笑んでいるのに魔物の蔓延る荒野に裸で置き去りされたような恐怖と悪寒…。
次期宰相にと国王夫妻が望まれているだけのことはあるわ。
まぁ王太子殿下がちょっぴり小動物系だから心許ない、という親心もあるんでしょうけど。
「申開きがあるなら聞こうか」
「えっ、あ、その…っ」
「おや。顔色が優れないようだが、どこかお悪いのかな?ならば早々に帰宅されよ。そして、─大人しく沙汰を待つが良い」
背後の一言の瞬間、彼から放たれる冷気は最高潮に達し、クリューガー公爵夫妻、そしてハリスとその横に侍るアーシャの周りを剣の形をした氷柱が取り囲んだ。瞬きの間に取り囲んだソレに戦いたのか4人は腰を抜かし無様に震えている。…あらあら、夫妻に至ってはお年なのかしら…下が緩いみたいね。
「ひっ、ヒィィィ!!わたッ、私は悪くないわ!悪いのはこの人よ!貴女と婚約破棄したいから協力してくれって!そしたら私の事新しい婚約者にしてくれるって言うから…!!」
「なっ?!お前もあの女が嫌いだからと言ってたじゃないか!」
「はぁ?!人のせいにしないで!!私は公爵夫人になりたかっただけよ!!」
蹲っていたアーシャが「失敗よ…!失敗した…!」とブツブツ呟いていたかと思うと突然発狂し出した。
それからはお互いの詰り合いが始まる。お前が俺を身体で籠絡した、から始まり、アンタなんて良いところ顔と家柄だけじゃないの、と……褒め合っているのかしら?何だか可笑しくなってしまって私は扇に隠した口元が緩み小さくプッと吹き出してしまった。んん…はしたないわ。けれど一度ツボに入ってしまったモノは仕方がない。
「マリー。どうかした?」
ホールに降りてきたロランド様が横に並び顔を覗き込んでくる。その瞳は私を映し蕩けるほど甘い。
「いえ…なんてお似合いのおふたりかしら…と思いまして…ふふっ」
「そうだね。とても低レベルのふたりだ」
「そうでしょう?ここはおひとつ国王様に祝福して頂くのはいかがかしら、と」
「それはいいね」
うっそりと微笑むロランド様に私も笑みを返した。
今はっきりと解る。私達の心はひとつだと。
─さぁ、私の愛しいメイフェリスを軽んじた罪を償う時が来たわよ。地獄に堕ちなさい─
きっとロランド様も同じ事を思っているはず。
「マリアベル皇女殿下…!」
振り返るとお待ちかねの人物が顔色悪く王妃と息子である王太子と共に困惑し立ち尽くしていた。
「この度は我が国の者が大変な不敬を…!」
3人共に頭を垂れる姿を見てもまだ己の罪が理解できないのかバカふたりはポカンとこちらを見ている。
「お顔をお上げくださいまし。後にわたくしもロランド様に嫁ぎこの国の国民となるのですから、その様に畏まらずわたくしの事も斯様に、とお願いしたではありませんか。良きお付き合いを、と我が兄も望んでおりますわ」
「しかしこの様な…」
なおも納得のいかない表情を浮かべる国王に「それならば」とロランド様が口を開いた。
「実妹との婚約を破棄する程の相手…真実の愛とやらに目覚めたこの2人に祝福を」
「そうですわね。お似合いのおふたりですもの。永遠の祝福を授けてくださいませ」
にっっこり笑うロランド様と私。今の意味を理解できたなら現皇帝の兄はこの国を見直すでしょう。─属国とするか、同盟国とするか。
バッと顔を上げた国王は「これは王命である」と切り出し言葉を続けた。
「此度の騒動、クリューガー公爵家の瑕疵とみなす。寄って爵位を伯爵へと褫爵。そして息子であるハリスと子爵令嬢アーシャの婚姻を命ずる!これは我が名を以て祝福するものであり、破棄は認めぬ!生涯添い遂げるそなた等へ永遠の祝福を贈ろう!」
国王の声がホール全体を震わせた瞬間、それを超える拍手と歓声が響き渡った。
対するバカふたりは顔色が面白いことになっている。今や罵り合い憎み合っているおふたりに心からの祝福を…。
「─ざまぁ…」
私の呟きは轟音の様な拍手と歓声に溶けて消えた。
さて、その後どうなったかと言うと─…。
今日はお天気が良いのでサロンでお茶をいただくことにした。勿論ロランド様と。
「無事にご結婚されさそうね。よかったわ。本当に。心から」
「そうだね」
にっこり笑う私の傍らでロランド様が頷く。
クリューガー公爵家は伯爵家へ落ち、王国の西に位置する領地がほぼ荒野へと居を移された。その嫡子であるハリスも王命である婚姻から逃げることはできず、あのアバズ…こほん。アーシャと籍を同じくした。
何でも二人には誓約魔法がかけられているらしくお互い以外の異性に触れることは出来ないらしい。つまり永遠に浮気は出来なくなったという事だ。まぁ真実の愛のお相手らしいし?良かったのではないかしら。
王の判断が厳しすぎると声を上げた者も居たようだけれど、居ても居なくても変わらないクリューガー公爵家より、筆頭公爵家とそこに嫁ぐ私の価値を天秤にかけたらどちらに傾くかくらい幼子でも解る。
現皇国の皇帝は私を溺愛する兄なのだから、むしろ国王の判断を褒めるべきよ。属国にされなかっただけ有り難いと王家もそう思っているはず。
兄は王家よりもロランド様に一目置いているし、ロランド様共々皇国に居を移してはどうかと何かとせっついてくる。
要するにロランド様が居なければこの先の王家に未来などないのだ。
なのであの時の国王の判断が間違っていたら今頃ロランド様が国王に…なんて事になっていたかもしれない。
それはそれとして国王になったロランド様を見られなかったのは残念だわ。正装をされたロランド様の格好良さは天元突破!神も嫉妬しそうな美しさなのですもの!はぁ…残念…。
「お姉さま!お兄さま!ここにいらしたのね」
そこへ可愛いマイスイートシスターメイフェリスが現れた。はン!可愛い!
「二人で仲良くされるのは結構ですが、たまにはわたくしも仲間に入れてくださいませ!」
そう言うとメイフェリスは私たちの間にぽすんと腰掛けた。
「お兄さまばかりお姉さまを独り占めするのは許せません!」
「ごめんごめん」
ぷ!と小さく頬を膨らませたメイフェリスに優しい眼差しを向けるロランド様は今はお兄様の顔をしている。私に向ける蜂蜜のように甘い眼差しではない。
「ふふふっ」
頬を膨らませていたメイフェリスが突然小さく笑い出す。
「とうかした?」
「いいえ。やっぱりわたくしお兄さまとお姉さまが一番大好きだなぁと、改めてそう思ったのです」
なんて可愛いことを言うの!歓喜に震える私にロランド様が腕を伸ばす。そして2人まとめてギュッと抱きしめてくれた。
「私も、メイとマリーが一番大好きだよ」
「〜〜〜〜!!!」
声もなく感激する私とロランド様の間でメイフェリスが「もう!」と声をあげる。
「そこは、『一番大好きなのはメイ』で『一番愛してるのはマリー』でしょ!お兄さま!」
メッ!とぷんぷんとしたメイフェリスに私とロランド様は瞠目し、次には二人揃って真っ赤にさせられた。
これからも3人仲良くしましょうね!と今度はメイフェリスに纏めて抱きつかれた、いつもの愛しいくも楽しい日々がこれからも続いていくのだ。
余談ではあるが、あの婚約破棄騒動の後、メイフェリスと王弟殿下は………ご想像にお任せしますわ!
おしまい!
最強のシスコンのお話でした…
ざまぁって難しい…
誤字脱字がありましたらお知らせください(ㆁωㆁ)