表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/38

12 札幌 2007年1月17日 (再建計画案 第2稿)


挿絵(By みてみん)


(再建計画案(さいけんけいかくあん)第2稿)


年も明けて、およそ2週間後。


その日は、農林銀行(のうりんぎんこう)札幌支店に藤沢ら白銀水産(しろがねすいさん)の面々を迎えていた。

社長以下、藤沢を含めて3名。みなそれぞれ大きなカバンに資料を抱えている。藤沢は風呂敷に重箱のような資料を携えている。


私的整理(してきせいり)ガイドラインに基づく再建計画(さいけんけいかく)は、債権者(さいけんしゃ)集会(しゅうかい)によって認定される。その債権者集会には、銀行などの債権者の他、3名以上の第三者(だいさんしゃ)(税理士など)の参加が必要となり、すべて議事録(ぎじろく)が作成される。当然、テーブル(がい)の交渉はできなくなり、イチかゼロかの話になってしまう。


そのため、現実に私的整理(してきせいり)ガイドラインに基づく再建計画の策定を目指す場合は、債権者集会前の非公式(ひこうしき)打ち合わせにすべてがかかっている。どんな金融機関でも、これだけは許容(きょよう)できないといった性質のものも持っているし、表座敷(おもてざしき)では言いたくないが、できればこれを解決してほしいなどといったニュアンスのものもある。


再建計画を可決するためには、白銀水産(しろがねすいさん)の立場ではすべて飲み込むしかないのだが、多くの場合、メイン北和銀行(ほくわぎんこう)身銭(みぜに)を切る話と直結する。そのため白銀水産(しろがねすいさん)に経理部長として出向している藤沢は、各行の意見要望を聞きながら、メイン北和銀行(ほくわぎんこう)許容(きょよう)できる範囲を模索していくことになる。


山本は、藤沢の風呂敷包みの資料を見ながら、ふと「薄氷を踏みながら匍匐前進(ほふくぜんしん)で前に進んでいる」と言っていた藤沢の言葉を思い出した。


来客は、総務部の女性行員(こういん)により、支店長応接室に通された。


当然、山本は会議室に椅子とテーブルを用意していたのだが、支店長の(つる)の一声で、会見会場は支店長応接室となった。先方は経営再建計画の説明だと言っているのに、ふかふかのソファの支店長応接室で支店長は待っている。


山本は頭を抱えた。端的(たんてき)に恥ずかしい。この応接室の飾りの小さなテーブルに、白銀水産の皆さんはどこに資料を置けばよいのだ、そんな山本の思いなどお構いなしに、その日の藤沢は、至極ゆっくり丁寧に説明を行っていた。


「次に資料編の78ページをご覧ください。先ほどご説明した赤字部門の廃止に伴う資産処分およびこれまで保有してきた有価証券など処分方法およびその工程表(こうていひょう)をお付けしております」


藤沢はゆっくり丁寧に、説明を続ける。


「最後に、本文編38ページに経営責任についてご説明します。ことここに至る経営責任として、創業一族(そうぎょういちぞく)は経営から退き、私財処分(しざいしょぶん)による資金拠出(しきんきょしゅつ)も明記しました。細かな内容は資料編82ページにお付けしております。大変お時間頂戴しましたが、以上で経営再建計画案(さいけんけいかくあん)はすべてとなります。ご質問、ご意見を頂戴できればと思います」


経営再建計画(さいけんけいかく)本文40ページ、資料編83ページ計123ページの説明には、1時間半を要した。

経営再建の教科書に載せたいぐらいの力作だ。北和銀行(ほくわぎんこう)威信(いしん)をかけたといっても過言ではないだろう。ただ、一般的な銀行員がどう感じるかはまた別の話である。


農林銀行(のうりんぎんこう)札幌支店長曰く、質問その1。


「加工工場の扱い(あつかい)については、メイン北都銀行(ほくとぎんこう)さんのおっしゃることは、わたくし個人としては理解できるのですが、うちの本店サイドには伝わりづらい面もあるかと考えてまして、何か良い説明の材料はありませんかね。」


同じく課長曰く。質問その2。


「当行は、メインの北和銀行(ほくわぎんこう)様らと平仄(ひょうそく)をとり、10年前から返済猶予(へんさいゆうよ)及び元金(がんきん)優先弁済(ゆうせんべんさい)を行ってきました。ほかの金融機関は、延滞扱い(えんたいあつかい)として、名目上(めいもくじょう)遅延損害金(ちえんそんがいきん)を加算して債権残高(さいけんざんだか)を算出しておりますが、納得できません。再建に協力してきた点を評価していただき、債権放棄(さいけんほうき)のシェアを下げていただきたい。」


などと、山本にしてみれば、この人たちは何語を話しているのか、それは相手様に聞く話なのか、話していて恥ずかしくないのかなどと感じる意見要望が次々とだされた。


穴があったら入りたいとは正にこのこと、と思いつつ山本が見やると、人柄が良い副支店長は、終始、眠そうにしていた。


山本がふがいない気持ちをかみしめている面前で、藤沢は、あくまで穏やかに説明を繰り返している。


おそらく同様の対応を他行にもしてきたに違いない。だが、藤沢は、それらを粘り強く解決し、再建計画の方向性に支障が出ない範囲で計画を加筆修正してきたのだ。


(けん)を見ては(ひと)しからんことを思い、不賢(ふけん)を見ては内に自ら(かえり)みる」

心の中で唱えながら、山本はたたずんでいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ