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* * *




 ――雨の音がする。


 ソレに、思考はない。しかし、遠い、遠い記憶。遥か昔に、今と同じに細雨が空から降り注いでいたことは微かに記憶している。


 雨が地を濡らすとき、ソレは少しだけ存在が乱れる。生者であれば動揺とよるべきその反応は、かつてソレが人間としての生を終えた時のことを想起させるからだ。


 たくさんの悲鳴があった。たくさんの嘆きがあった。中には理不尽に命を奪われることへの怒りを叫ぶ者もあったが、ほとんどは恐怖に泣き叫んでいた。


 だけど、小さな人間の慟哭など嘲笑うように。巨大な炎は、何もかもを呑み込んだ。


 恐怖も、怒りも、悲しみも。すべてを腹のうちに飲み下し、狐は呪いに取り込んだ。


 だからソレはすべてを忘れたが、同時にすべてを覚えている。自分が何者かわからず、何を嘆いたのか知らず、何を悔いたのかも思い出せないががないが、激しい怒りと悲しみだけは常に腹の底に沈んでいる。


 だからであろうか。

 ソレは、大通りを行くとある人間に惹かれた。


 その者には、消えない悲しみがあった。その者には、果てない怒りがあった。幾星霜越えても衰えることのない強い感情は、静かに、それでいて激しくその者の中に渦巻いている。


 同じだ――などという感情はない。だが事実、反応として、それは消えかけたボロボロの足を踏み出した。


 雨の音がする。千年前と同じ、誰もいなくなった通りを虚しく叩くだけの、悲しい雨の音が――



 そうしてソレは、周光通りから姿を消した。




* * *



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