脱出 4
和夏とコォンはこれで三度目の戦い。しかし、これまでの二つとは異なる戦闘スタイルであった。和夏は素手から巨大な鎌を持ったスタイル。しかし和夏にとってはこれが通常の戦闘スタイルであった。
それに対し、コォンは素手。これまで刃が柔らかい中国剣を用いていたのが通常スタイルであったが、ここに来て武器ナシである。
お互いの魂の色、精神の指向性は知っている。だが、戦闘スタイルの違いによって、相手がどのように攻撃してくるのか分からなくなってしまった。ゆえに、これまで以上の警戒をして二人は睨みあう。
(これまでは俺の方が格上だっていう所で、少し余裕があったが……今は分からんな)
最初の戦いなどを思い出せばコォンは魔力の適格な操作に、魔力を移動させる速度は和夏と互角か、それ以上であった。しかし、それだけだった。魔力量、基礎となる素の肉体、そして使える魔法の幅は和夏が上であり、圧倒的格上と断言出来ていた。
だが、覚醒した今は―
(もちろん、油断はできないが、こっちもようやく武器を使っての、本来の能力をフル発揮出来るんだ。負ける要素は何処にもないはず!)
和夏は冷静に分析し、そのうえで油断さえしなければ。本気で行けば勝てると確信し、より一層、彼の表情は引き締まったものへとなる。
しかしながらコォンは逆に楽観的な思考へと至っていた。
(奴が格上だっていうのは充分に理解している。だからこそ!俺は今度こそ、がむしゃらにいってやる!もう失うプライドも、未来も、何もない!!)
それは、自暴自棄に近いものだった。ゆえに、それは誰にも止められないほどの力にもなっていた。
これまで思考までもが同じであった二人。それはコォンが和夏に匹敵するほどの実力者であったからこそである。だがここに来て真反対なものへとなった。
それどのような結果を生み出すのか。
この戦いの結果は当事者である二人にも、それを見届けようとしているサグメと下級兵にも予測不可能、分からないことであった。
まだ、二人は睨み合っている。
緊張の時間が、一刻、また一刻と過ぎていく。
ダッ!と地面を蹴る音が響く。
それは最初に動き出した和夏のものであった。
鎌を大きく構え、コォンに二メートル手前辺りまで接近すると高く飛び上がり、ザン、と振り下げる。それは、剣や槍とは違い、湾曲になっていることを最大限利用した斬り方。まるで扇風機のファンのように回転させる斬り方であった。
コォンを刃が通り過ぎると、再び最初の斬り下げる前の位置へと鎌が戻る。
だが、斬れた手応えは確実にあった。
しかし—
「効かねぇよ!!」
今度は和夏に衝撃が奔る。
それは攻撃した後の隙を突いたコォンの掌打であった。完全に腹部にその一撃が入り、ズザザ、と足の裏と地面を擦らしながら数メートル後方へ下がっていく。
「ッ!」
こんな痛み、感じたこともない。
身体中に残る余韻。まるで、水に石が落ちて発生する波紋のように、波打ってそれは体の中を反復して残り続けていた。
確実に、ただの掌打ではない。
魔法の可能性が高い。しかし、その動作はなかった。無論、掌打を放った手に魔力は込められていた。だが、それはなんらおかしな話ではない。単純に打撃の威力を魔力エネルギーで上げているからだろう。
(なんだ!?奴の仕組みは、この攻撃は……!)
何かが引っ掛かる。
和夏はこの原因の答えを読み解ける、そういう確信がある。しかし、体の痛みがその思考を邪魔してくる。
和夏は追撃を恐れ、すぐさま痛みをこらえ鎌を構えるが、そんなことはなかった。コォンは冷静に、拳をいつでも放てるような態勢ではあったものの、接近してくるような気配はなかった。
(コイツ、カウンター狙いの攻撃方法に変えたのか?それとも、単純に警戒してのことか?)
だが、追撃してくる気配がないのなら、この機会を利用しないわけにはいかない。このまま数秒、和夏は痛みが完全に引くまでその場から動くことはなかった。そして続けてあの掌打の効果について考察を再び始めるのであった。
(奴の魂の色は水色……つまり奴は液体操作や生むのが得意であること。そして、指向性は乱水……。そうか!そういうことか!!)
和夏は答えに辿り着く。
人間の体というのは半分以上が水で構成されている。それどころか、七十パーセントは水であるという。そして、そこを利用してきた攻撃なのだ。
(水は水圧によって簡単に人を殺せる威力にもなれるほど、自由自在に変化する。奴は俺の体内水分だけを強く振動させて、その負荷でダメージを与えたのか!!)
そうとなれば、どうすれば良いか、答えは簡単。
奴に触れなけれいい。
それだけの話。だが、答えは簡単かもしれないが、実行は難しい。
(遠距離攻撃で仕留められれば良いが、俺の絶大魔法の中に遠距離魔法なんてないぞ。上級魔法じゃあ今の奴を倒すのは心もとないしな……)
結局は、接近戦しかあるまい。
そう考えている中、コォンはニヤリ、と嗤う。
(やはり気づいたか。体内水分を利用しての攻撃だと。だが、それで良い。お前を正面からねじ伏せなければ意味はない。さぁ、来いよ。遠距離か?近距離か?とにかく、お前には攻撃していくしか道は無いんだからな!!)
再び、睨み合いの時間が続く。
そして、またもや最初に動き出したのは和夏であった。
(一旦、小刻みに攻撃する!反撃されても避けるか、鎌で受け止めるか出来るように余地を作っておく。とにかく、奴の攻撃に対処可能な状態にして攻撃するしかない!)
和夏は威力よりも、とにかくスピードで攻撃を開始する。
より遠心力をつけて、回転させるように連続で、しかしながらある程度、変激されても対処可能な余地を作ることを意識して攻めていく。
(魔法は使ってこないのか?まだ小手調べの段階なのか?)
そのように和夏の攻撃を見切り、軽々と避けながら思っていた。