破壊工作 7
コォンも蹴られた程度で怯むことはなく、すぐさま攻撃に戻る。
バスッ!バスバスッ!と何度も、何度もその炎を纏った灼熱の剣で和夏を斬りかかっていく。それを和夏は華麗に、無駄な動きなくしっかりと避けていく。
だが、コォンの動きも無駄がない。上から下へと斬り下げた瞬間、刃を上に向け、今度は下から上へと一気に斬り上げていく。簡単にその動きは見切れるが、だからと言って避けるのが簡単なのかと言われると別の話。
華麗に避けていても、和夏の方が未だ押し負けているのが事実だ。
ここは一度、場をリセットしたいところだ。しかし—
(距離を取りたいが……そのタイミングが無ェ!!)
とにかく、動きを見て避ける。それしかできない。
そのうえ、剣に纏わり付く炎の温度がさらに上昇しているうえ、どんどん空中にその熱い光が散っていく。
和夏の皮膚にもその光は触れ、チリっ、と焦がしていく。
(ちぃッ!ここは肉を斬らせて骨を断つ!それしかない!!)
とはいうものの、この和夏の考えはもっとひどいものだ。どちらかというと、骨を断たせて肉を斬る、と表現した方が良いのかもしれない。とにかく、その手法でいかなければ、反撃の隙すら貰えない。
和夏は斬り上げられた刃を紙一重で躱わす。そして、今度は斬り下げの攻撃が来る。その時—
「何ッ!?」
思わずコォンは驚く。
和夏はもう一度、真っ黒に焦げたひどい腕を掲げる。しかし、今度は魔力は感じない。いや、感じはしているのだが、微弱すぎる。つまり、その腕を守ろうとしていないのだ。
(罠か?)
それしか考えられない。だが、少しでも止まれば、反撃の余地を与えてしまう。それに、ブラフの可能性だってある。
ここは、相手が何を考えているのか、を考える必要はない。
斬るか、斬らないか、その二択。
……迷ってはいけない、いや、迷わない。
(お望みなら、斬ってやるよッ!!)
ズバッ!と一瞬で肉を斬り裂いていく。しかし
「ッ!?」
切断できない。
硬い?
いや、しかし肉は—
「そういうことか!!!」
刃を受け止めていたのは、骨。
和夏は腕全体にではなく、骨に魔力を集めていた。だから、肉は斬り裂けても、骨は切断できずに、止まったのだ。
「捕まえてやったぞ!!」
和夏は食いしばりながら、ボンッ!と空いた片手で思いっきり殴る。だが、顔面ではない。
それは、剣を持っていた手であった。
「ッ!」
思わずコォンは剣を落とす。
手から魔力の供給が行われていたようだ。数秒も経たないうちに炎が掻き消え、熱が冷めていく。
そこからさらに和夏は素早く、ダンダンダンッ!と拳を三つ、叩き出す。
一つは胸部、一つは首、一つは顔面、と的確に、人間の急所や怯む箇所を狙って打ち込む。
「ッ!」
この攻撃を喰らったコォンもさすがにくらくら、とフラついてしまう。
ここから反撃のチャンスではある。しかし、和夏はそこをあえて距離を取り、彼自身、呼吸を整え、魔法陣を展開、そこから回復術の魔法を唱え、肉体の治癒を優先に行なっていく。
(ここで反撃しても、それほどダメージは与えられないだろうな)
和夏はそのように思考する。
身体中傷だらけで、体力も消耗しすぎた和夏がどれだけ攻撃しても、きっと無駄ではないだろうが、倒せるほどの負傷は与えられないだろう。だからこそ、まずは自分の体力を戻すことに尽力する。
「上級魔法〈天使のかけら〉」
さきほどまで見るに絶えなかった火傷のあとは、完治とはいかなくても、まだマシな姿へと変わっていく。
「ちぃッ、上級レベルの魔法も発動可能なのか……」
意識がハッキリし始めたのか、コォンは和夏が回復していく様子を見ながら……いや、睨みながらと言うのが正しいだろう。そうして彼はその足でしっかりと立ち上がる。
(これで、奴と互角以上の戦いが出来るぐらいには落ち着いたかな)
和夏は両腕を伸ばし、背伸びをする。
「さて、終わらせるとするか」
和夏は魔力を肉体に覆わせなが言う。
「まだ…俺に勝てるとか抜かすのか、貴様は」
落とした剣を拾い上げ、コォンも構える。
お互い、すぐには動かない。
(これ以上、戦いを引き延ばすわけにはいかない、ならば—)
和夏はどのように動くべきか、考える。
(奴の力は計り知れないのが事実、であれば—)
コォンも、同様だった。
そして二人は同じ結論へと至る。
((次の一撃で確実にトドメを刺す!))
お互い、次の動きは決まった。だからこそ、すぐには動かない。
これは、どちらが素早く動き、攻撃を仕掛けられるのか、の勝負だ。
避けられれば、終わり。
敵の攻撃に当たっても終わり。
……静寂がその場を支配する。
「ッ!!」
和夏は反応する。
先に動き出したのはコォンだった。
彼が動き出した瞬間、彼の目の前に三つの魔法陣が展開される。
(再び剣に魔法を付与する気か!?)
今回は何なのか。またもや炎なのか、それとも電気か、冷気か。何の効果を持った魔法なのか。分からないが、知った所でだ。
魔法が発動してしまう前に、コォンを叩く!
和夏もまた魔法陣を空中に展開させ、拳にその魔法人の中をくぐらせる。
(奴も魔法を使ってくるか!?〉
コォンは警戒するものの、またもや和夏と同じ思考へとたどり着く。
(アイツからの攻撃を喰らう前に俺の一撃でぶちのめす!)
コォンの剣も空中に発動させていた三つの魔法陣のうち、一つ目をくぐらせる。すると、剣が冷気に包まれる。そして、空気中の水分が結露し、瞬く間にそこに水が生まれる。その水はぐるぐると剣の周りに渦巻いていた。
それに対し、和夏が発動させた魔法は魔力エネルギーを電気エネルギーに変換させるというものであった。そして、その電気を帯びた拳を振り上げる。
続いてコォンは二つ目の魔法陣に到達。それにより、彼の動きはより速くなり、最後の三つ目で威力が底上げされる。
「死にやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
コォンは叫ぶ。
「テメェがぶっ倒れるんだよォォォォォォォォォォォ!!!!」
和夏も負けじと、腹から声を出す。
そして、とうとう二人はぶつかり合う!
電気のバチバチという音にそのとてつもなく眩しい光。そこに水が揺れる激しい音と、ぶつかった水は電気の光を邪魔するように周囲に散っていく。
結果は―
「くッ……」
和夏の体は渦巻く流水によってボロボロになっており、あちこちから血が流れ出ていた。だが、血まみれではあるものの、肉に到達した程度。内臓や骨などに大きなダメージは入っていなかった。
それに対しコォンは、
「……ァ」
コォンの顔面に、思いっきりぶち当たっていた和夏の拳。拳の入った個所は、電気の熱によって焦げており、鼻と口から勢いよく血を噴射させる。
「また、俺の勝ちだな!」
和夏も無傷ではないため、ふらふらの状態ではあったが、なんとか自分の足を使って立ち去るのであった。