破壊工作 6
和夏は自分の体の上に乗っかった瓦礫をガラガラ、と退かし、立ち上がる。
喉にはっきりと、裏側まで見える穴が空いており、そこから絶えずどんどん血が流れ出ていく。また、呼吸しようと鼻から酸素を取り入れ、二酸化炭素を出そうとする。が、うまく喉の筋肉が作用せず、肺まで上手くいかない。
「グぅ…あァ…ちィッ!!!!」
喋ることも出来ない。口からも鉄の味が広がり、気分が最悪だ。
下級魔法で治癒し続けているが、完治するのに数十分はかかるだろう。だが、最初から完治などは目指していない。とりあえず、戦闘に支障が出ないほどの癒やされれば問題はない。
だが、そんな時間を与えてはくれないらしい。どんどんその血まみれの剣で和夏に何度も突きの攻撃をしていく。それをバリアを展開して防いでいく。
「結界術と治癒術の並行使用か!?」
魔法の並行使用はそこまで珍しくはない。だが、それは同じ系統というのが常識だ。中級と上級の結界術の魔法二つを並行使用。上級二つの攻撃魔法を発動、などだ。
だが、まったく異なる系統の、しかも等級も違うと見ていいだろう。
「テメェは俺の常識をことごとくぶっ壊してくれるなァ!!」
コォンは刃を下に向けピタリ、と動きを一時的に止める。それは、大きな攻撃をする前の溜め。
和夏は治癒を一時中断し、攻撃に転じようとする。ここで相手を倒せれば……いや、倒せなくても先ほどまで反撃する暇すらなく、一方的に負けていたのだ。ここで相手にもある程度、ダメージを与えておかなければ、もっと追い詰められる。
そのように判断したのだが―
ザンッ!かなりの威力の斬撃が和夏の胴体に入る。
「ッ!!」
服全体に自身の血が付着し、鉄のにおいが鼻に付きまとう。また、痛みでその場から動けなくなってしまうが、倒れるわけにはいかないと必死に立ちとどめる。膝をがくがくさせながら。
早く態勢を立て直さなければ―
脳がかつてないほどのスピードで思考していく。だが、それに身体が明らかに追いついていない。
分かっている、距離を取る、結界術を展開する、反撃をする……。なんでも良い。とにかく、このままでは追い打ちをかけられ、やられてしまうと。
しかし、胴体に入った傷はかなり深いモノであったようで、脳の命令に反して身体が上手く作用してくれない。ずっと痛みが身体を支配している。
そして、とうとう二撃目が放たれようとしていた、
コォンの剣を中心に二つの魔法陣が展開される。
「上級魔法!」
今度は突きの構えを取りながら、魔法を唱えようとしている。
(ま、まずい!)
目の前の状況を理解している、自分が何をしなければ判断出来ている。というのに体が動かないこの状況にもどかしさと悔しさがどんどん心の中で積みあがっていく。
「〈ヒートライズ〉!」
そのように唱えると、空気中の熱がどんどん剣に集まり始め、刃が赤く染まっていく、
だが、それだけでは終わらない。
「〈エナジーディフュージョン〉!」
二つ目の魔法陣も起動を始める。
それは、剣の熱が空気中の三酸素に伝播し、燃焼を始める。
炎を纏った剣。
死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
そのとてつもない気迫が込められた剣が和夏にトドメを刺そうと襲い掛かっていく。
(う、動けッ、俺の体!!」
腕に魔力を纏わせる。だが、それが出来ても肝心の腕が上がらない。
剣先が和夏に到達するまで、あと二メートル……、一!
その時、ザンッ!と剣先が肉に到達する。
んだが、それはコォンの狙っていた和夏の東部ではなかった。濃密にありえないほどの量の魔力を纏った腕の肉であった。それは、皮膚を切り裂き、肉に到達したものの、骨まで達することはなく、途中まで斬り進んだものの、威力は完全に殺されてしまっていた。
普通であれば、腕が一瞬で切断されてもおかしくはない威力。それを、魔力を纏っただけで止まらせて見せたのだ。骨に到達する一歩手前で。
だが、そこからさらに炎が和夏に襲い掛かる。
「くッ!」
直接、太陽に触れていると感じるほどの熱。さすがに魔力をも貫通し、皮膚を無残にもこんがりと焼かしていく。みるみると見るに堪えない色へと皮膚が変色していく。
最初は赤く、血が混じっていた。だが、血は蒸発し、肉が焦げ、真っ黒な不気味な気味の悪い色へと。
だが、この程度のやけどなら、後で魔法で完治することぐらい可能だ。
今は痛みに耐え、目の前の敵を倒すことだけを考えなければ。
「さすがだァ、この程度じゃあキサマは倒せないよなァ!!」
コォンは嗤いながら叫ぶ。まだ、楽しませてくれるよな、と言っているかのように。そして、この絶えない湧き出る怒りを全て受け取ってくれるよな、と。頼んでいるようでもあった。
だが、和夏はそんなことは知らない。
コォンに殺される気はないし、出来れば殺すつもりもない。
とにかく、任務の遂行、それだけだ。
和夏はコォンの腹部にめがけて蹴りを入れる。コォンはその衝撃でヨロヨロ、と後方へ二、三歩下がる。それにより和夏の腕に入っていた刃が引き抜かれる。その時も、鋭い痛みが一瞬だけだが、感じてしまう。だが、このひどいやけどの痛みに比べれば、まだまだ、だ。