破壊工作 5
二人の戦いが終わるころには、燃えるものがなくなったようで、炎はある程度まで収まっていた。といっても、煙はまだ濃いうえに、魔力を解けばものすごい熱量に襲われるだろう。
「さて、お互い終わったな」
和夏は一撃喰らった腹を軽くさすりながら、倒れた警備長を見下げているローブの者へと近づいていく。
「ああ、そうだな。やはり戦うのは楽しいが……こうも実力差があって、勝つのが分かっている戦いであり、すぐあっけなく終わるのは良くないな」
和夏の目をまっすぐ見ながら言う。それはまるで、良い獲物がここにいるなぁ、ようやく戦えるなぁ、と訴えているかのようであった。
「そうだな…そこまでして俺と戦いたいなら良いが…少し待ってほしい。聞きたいことがあるんだが」
和夏は今すぐにでも飛び掛かってきそうなローブの者の前に手を広げ、まだ待てと静止させる。
「さっきそこに倒れている言葉が聞こえてきたんだが……お前、サグメって奴なのか?」
「そうか、まだお互い名前を言ってなかったな。私の名前は天野サグメだ」
こいつがサグメか!
和夏はもう一つの任務は、サグメのスカウトをすること。
どのタイミングで見つけて接触するべきか、考えていたがこれは運が良い。
「アンタを探していたんだ。サグメ」
「ん、なんだって?」
彼女は聞き返す。
そりゃそうだ。今まで和夏のことを偽札を追ってやってきたニュー・ラスールの兵士だと思っていたのだ。のにも関わらず、「今までお前のことを探していんだ」なんて言われたら、驚いて思わず聞き返すに決まっている。
「なにゆえ私を探してたんだよ?もしかして、世界中あちこちで暴れている自覚はあるが、さすがに指名手配されるとは思っていなかったぞ?」
「いやいや、指名手配とかそういう話じゃない。俺はアンタに―」
その時だった。
何者かが熱風を切り裂き、こちらに魔力を纏って突進してくる。
それは、和夏の後方からやって来た。
和夏はすぐさまその気配を察知するが、振り返る暇もなかった。気づいたときには、喉元に見覚えのある中国剣が突き刺さっていた。
そうして、ようやく視認する。
それは、ナクチュ地区、区長のコォン・シーザイであった。
「ぶち殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!」
彼の勢いは止まず、そのまま押し飛ばされていく。
偽造局の壁を全部、貫通し、そこからさらにあった全ての建物を破壊。しかし、止まらない。
百、二百、三百メートルと、どんどん距離を伸ばしていく。
さすがの和夏も意識が飛びそうになる。だが、このままでは確実にまずい。
両手に魔力を纏わせ、剣身を掴む。しかし、相手のパワーの方が強かった。
(力で押し負けている!?)
前の戦いでは明らかに単純なパワーでは和夏の方が上だったはずだ。しかしながら、今はこうして単純なパワーで押し勝てない。一体、何が原因で押し負けているのか?
それは、和夏には理解できない……いや、そもそも理屈で説明できる原因ではなかった。
それは、心から湧き出る力。怒りや復讐など言った感情から生まれ出るもの。根性、気力といった、言葉や理論では説明不可能で、頭ではなく心で理解する力であった。
だが、こっちだって死にたくはない。必死に抵抗してこの危機を脱しなければならない。
喉に刺さった剣を押し戻せないのであれば、へし折るまでだ。
中国剣はしなやかで、柔らかいという特性がある。ゆえに、本来の剣とは違い、斬るというより突くという攻撃方法が常套になるのだが、今はその話は良い。
ここで重要なのは、柔らかいということだ。
魔力で強化していようと、本来のその性質は変わらない。
(このまま、力づくでへし折ってやる!!)
そうして、どんどん手の力を強めていく。そのことをコォンも察知したようだ。剣を素早く引き抜き、腹部に向けて強く、鋭い蹴りを入れる。
和夏は民家の壁に背中を叩きつけられる。どうやら民家の壁はその衝撃に耐え切れなかったようだ。壁はすぐに壊れ、その瓦礫の中に和夏は埋まっていく。
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
コォンは強く息を吐く。その気迫に、身体に満ちるパワー、まさに鬼神の如しだ。