破壊工作 3
和夏は残った左側の監視長へと視線を向け、拳を構える。
「おいおい、武器もなしに素手で俺に勝てると思っているのか、ニッポン人如きが」
「人種差別もそこまでにしておけよ。じゃなきゃ、あの世に行って後悔することになる」
和夏はより一層、体内から練り上げた魔力を体外へ放出。拳に魔力を纏わせる。
監視長もそれに合わせ、魔力を刀へと流し込む。
二人はすぐに動かず、睨み合う。
……数秒の間、緊張が奔り、静寂がこの場を支配する。聞こえて来る音は、燃え盛る炎の音だけ。
「ッ!」
先に動いたのは和夏の方であった。
ダンッ!と強く地面を蹴り上げ、一瞬で監視長との距離を詰める。
(は、速い!)
見切ることの出来ない異常なスピードでの高速移動。さらに、そのスピードに乗せて拳を放つ。多大な魔力量が込められていると同時に、その速さに乗せた拳。
それは、思考で動いたものではなかった。このままではまずい、という本能に近い動きであった。
ガギン!とぶつかり合う。
「チッ!」
この一発でさっさと終わらせるつもりだった和夏は思わず舌打ちをする。
ぶつかったのは、刀の刃。
刃と言っても鋭い部分ではなく、平らな側面にぶつかったため、和夏の拳には一切の傷はない。
だが、それでは終わらない。和夏は止められた拳を引かず、そのまま残った威力をも利用して強く押していく。
(と、止まらない!)
両手を用いて、何とか押し止めようとするが、和夏の方が圧倒的に強かった。
和夏の拳がある刀の側面の反対側の側面が彼の顔面にぶち当たる。そして、徐々にもっと力を入れていき、最終的に監視長は数十メートルほど後方へ吹っ飛ばされる。顔全体には刀の側面の跡が強く残っている。
歯が数本折れ、鼻から勢いよく血が吹き出す。そして、背中が壁に叩きつけられる。
和夏は追撃しようと、再び地面を蹴り上げ、急接近する。
「中級魔法!!」
監視長は咄嗟に魔法を唱える。また、魔力を用いて空中に魔法陣を描き上げる。
「〈炎弾〉!」
魔法陣を通して魔力は熱へと変換。その熱は空気を燃焼し、炎となって飛び出ていく。その熱量は、中心が黄色く、最高でも三千五百度ほどあることが分かる。
さすがに魔力で体を守っているとは言え、これほどの炎を直撃すれば全身火傷程度では済まない。しかし、威力からしてバリア程度で守れるとは到底思えない。
和夏は足を止め、その炎をとりあえず冷静に躱わす。
その直後
「ッ!」
腹部に激しい痛みが奔る。
「ハハァ!舐めるなよォ!!!」
そこには、刀で和夏の腹に斬りかかっている監視長がいた。
どうやら、〈炎弾〉を放った直後にすぐに走り出し、和夏の躱した直後の隙を突いて攻撃してきたようだ。
だが、和夏の魔力がその刀の刃を肉まで到達しないように防いでくれていた。だが、皮膚に鋭い斬り傷が出来ており、血が多少だが流れ出ていく。また、刃の色をそれらが真っ赤に染めていく。
だが、刃が入っていないからとは言え、ダメージが軽減されたことはない。衝撃が襲いかかる。どれだけ魔力という鎧で身を覆っていても、魔力に奔った衝撃が体にも浸透していく。
「全然刃が通らねぇ!どれだけの魔力でこのバカは身を守っているんだ!しかも、密度も高けぇ!」
そこで、彼は青ざめる。
痛みは慣れている。
この程度のダメージ、魔法を使う必要がなければ、心配する必要すらない。
そして、相手から距離を詰めてきた。反撃するには申し分ない距離。
「……ッ!」
ギロリ、と鋭い眼光。
すぐに腕を引き、刀を大きく振り上げる。
「てめ—」
強く振り下ろそうとしていたのだろうか。
今となっては、そんなのはもうどうでも良い。
和夏は、今度こそ直接、顔に強く一発、拳をぶち込む。
「っっらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
和夏は叫び、腕にもっと力と魔力を入れ、頬にどんどん拳がめり込み、そのまま地面に叩きつける。
監視長は白目を剥いて、気絶していた。
「ふぅー、確かに中級程度の魔法が使えるレベルの実力だったみたいだが……ったく。日本人だからって油断していたのか?それとも……まぁ良い。ここにある結果が全てだからな」
こうして、圧倒的な勝利を出した和夏であった。