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アウトサイダーウィザード  作者: リノエ
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破壊工作 2

 「はぁ…はぁ……!」


 コォンは自分の腹を抑えながら道を歩いていた。


 その表情は痛みに必死に耐えている苦痛のものであり、敗北したという怒り、自分の情けなさ。そして、相手のとてつもない強さを思い知らされたものであった。


 口からポタリ、ポタリと血が垂れていく。


 「この俺が、魔法も使う暇もなく、負けただと……!」


 あの剣での一撃で相手を押し切り、そのまま魔法と剣撃で倒すつもりだった。だが、真正面から受けきったうえで、威力を逸らしてみせるとは……。


 トルコ方面でニュー・ラスールでの活動が確認されたという情報。そして、あの少年の強さ。


 これで確定した。


 「く、クククッ」


 ニュー・ラスールは国連の部隊。だが、非公式であり、あらゆる大国の悪行を阻止してきた奴らだ。平和に生きる民たちには感謝されるだろうが、一部の者にはとてつもなく嫌われている組織だ。


 戦争を糧に生きる死の商人、自国を覇権国家にせんとする各国首相に軍関係者。そんな奴らにニュー・ラスールの兵士を生きたまま捕らえたとなればどうなるだろうか。


 あの少年を、絶対に捕まえなければ―


 「このままじゃあ絶対に終われない……絶対にぶっ殺してやる。いや、殺してはダメか。クカ、クカカ、ハハッ!!さっさと傷を治して、行かないとなァ!」


 彼は、回復術の下級魔法〈治癒能力促進〉と〈断面縫合〉の二つを用い、徐々に破壊された細胞に内臓、そして折れた骨を治していく。


 それでも、まだまだ完全治癒にはほど遠い。歩くたびに、傷口が開き、血が溢れ出ていく。だが、足を止めている時間はない。痛みで悶え苦しみ余裕なんてない。


 「あのガキに痛い目みせて……あのガキを使って昇進、名声を得て……ククク」


 復讐に近い心と他人の命を使って向かう最高の地位にいる将来の自分を夢見ながら、ゆっくり、牛歩で、しかし確実に歩いて行く。


 そんな中、ドォン!と爆発音が区内に響き渡る。


 「そこに…居るのか。カカカッ!」


 音のなる方へと、向かっていく。



 「う、うわぁぁぁぁぁ!!」


 「退避、退避ぃぃぃぃぃ!!」


 そこは、偽札。つまりスーパーノートの製造局周辺では、ドッカンドッカンと爆発が起こると同時に、多くの兵士がその場から逃げていく。


 「迷わず進め、ここで奴を仕留める!!」


 逆に魔法がある程度使える優秀な兵士たちは爆発に巻き込まれても全く問題ないほどの魔力量を肉体に纏わせて真っ赤に燃え盛り、煙を吐き出す偽造局内部へと入って行く。


 その爆発の中心では、二人の戦士がひたすら機器を破壊し、壁を木っ端みじんにして、天井にも穴を開ける。そして、積まれた偽札は盛大に燃やしていく。


 「ったく、魔力使える程度の兵士じゃあ相手になんねぇなぁ」


 ローブの者は気絶した敵兵の胸倉を掴んで言う。


 「いやいや、魔法が使えても相手になってねぇじゃねぇか」


 その言葉に和夏が反応しながら、武器を持って向かってくる兵士を素手で殴り倒していく。


 振り下ろされる剣の刃を横に避け、そのまま拳を顔面に放つ。突いてくる槍は、尖っている先端以外はさほど危険ではない、ゆえに、槍はそのまま右手で掴み、奪ってやろうと引っ張る。


 相手も奪われないように、離さないようにがっちり両手で掴む。のだが、和夏の力の方が強いようだ。身体ごと引っ張り出され、拳の届く範囲内まで来ると、余った左手で思いっきり顔を殴る。


 そうしてひるんだ隙に槍を奪い、そのまま敵兵に何度も、素早く突き刺していく。


 「お前……容赦ねぇ……」


 「大丈夫だ、急所は外した。死んでない!」


 そういって、どんどんやってくる敵兵を奪った槍で薙ぎ払っていく。


 戦いながら、手も足を止めず、しかしながら二人は会話を成立させていく。戦いに慣れている、というのもあるのかもしれない。だとしても、問答無用で命を狙って来る複数の相手を物ともせず、まるで機械のようにたんたんと作業をこなしていく。


 「しかし、本当に良かったのか?俺の任務の手伝いなんかしてよ。いわゆる、裏切り行為ってやつだぜ?」


 「良いんだよ、どうせ暇してたしな。それに、中国出身でも育ちでもない。この国になんか想いみたいなものはこれっきりも存在しない。とにかく、楽しそうな場所に赴くまま身を置くだけさ。それに、さっさとお前と本気で戦ってみたいのさ!」


 「どれだけ俺の強さに信頼をしているんだよ」


 「なにせ、お前、ニュー・ラスールだろ?」


 「……」


 この区に入って一切、ニュー・ラスールという単語を喋っていない。格好だって、侵入時は私服だったし、今は中国軍の制服だ。そんなに分かりやすい格好をしていない。なのに、なぜこうも簡単にバレてしまっているのだろうか。


 「ああ、喋らなくて良いよ。認めようと、しなかろうと、お前が強いのは確定事項だからな!そして、来たぞ……」


 敵兵の数も少なくなり、ようやく区内部に配属された魔法師を全滅させたかと思っていた。が、まるでこちらの戦う様子でも見ていたのか。他の者に比べ、遅くゆっくりと炎を掻き分けて中に入って来る二人の兵士。


 そこら辺の兵士に比べ、纏う量の多い魔力。


 「あれは巡回兵をまとめ上げている警備長と区内部の一般市民を監視している監視長の二人だ」


 ローブの者がそのように解説してくれる。


 「お前が侵入者だな。短時間でここまでの被害を出すとはな。だが、ここまでだ」


 和夏から見て右に居た警備長がそのように言って、何処からともなく武器を取り出して構える。取り出した武器は剣で、刃に魔力を纏わせていく。


 「というか、裏切ったのか。やはり、どれだけ優秀とは言え日本人を起用するのはやめておいた方が良いと思っていたんだよ。負け犬の人種だからな。だろ?」


 そうして、左側にいた監視長は刀を構える。


 刀というと、日本刀を思い浮かべてる者が多いと思うが、彼の持っている刀は刃の部分が広く、重量があり、遠心力でより強い威力を出すことが出来る柳葉刀というものであった。


 「区長より強くはないが、油断してると痛い目を見るぞ」


 そのように和夏へと助言してくれるローブの者。


 「俺が負けると思っているのか?」


 「思っちゃいないが、その後、私との戦いが残っているんだ。変に負傷してみせろ。ぶちぎれるぞ」


 「……こわ」


 こいつ、一体どこまで狂っているのか。


 「私は右の警備長をやるから、お前は監視長だ!」


 そういってローブの者は発言通り、警備長の方へと駆けていく。


 「非常に残念だ……ほんの短い間とは言え、共にこの区を守り、国のために働いていたお前を殺すことになったことは!」


 そうして、警備長は持っていた剣を持って、接近してきたローブの者に向かって上から下へと剣を強く振り下ろし、素早く斬りかかる。

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