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アウトサイダーウィザード  作者: リノエ
16/30

破壊工作

 「お、遅いなぁ……」


 下級兵はしっかり合流地点だった場所に、時間きっちり戻ってきていた。


 既に夜は明け、朝の時間だ。だが、ここが路地裏だということもあり、まだ暗く、冷たい風がヒューと流れ込んでいく。


 そして、その場にいたのは彼一人ではなかった。


 「本当にこの場所での待ち合わせだったのか?」


 そのように言ってくるのは、ローブの者であった。


 そいつは何度も腕にはめていた時計を見ながら、下級兵に言う。


 それは、別に脅しているつもりもないし、圧をかけている感じでもない。だが、時間がどんどん過ぎていくのにイラついている。下級兵はいつ、怒りの矛先がこちらに向くのか、とびくびくしている。


 軍に入って多くのパワハラを見てきた。少しでも機嫌を損ねれば怒鳴られ、間違った意見を述べれば暴力にも合う。上の者たちに気に入られれば、まだ変わった対応がされるが大体はそんなものだ。


 このローブの者は案外、心はそこまで狭くはなく、戦闘狂というだけで、別に兵士にパワハラをするような人物ではない。だが、この下級兵がそれを知るはずもない。


 「な、何か…あったんで…しょうか、ねぇ」


 下級兵はか細く、不安定な声で言う。


 しかし、本当に時間になっても来ない。


 まぁ、敵地ど真ん中に出て行って、敵兵を掻きまわし、逃げ回っているのだ。まだ兵士から逃げ切れていなかったり、最悪捕まっている可能性もなくはない。


 「あと十分だな。それで来なかったら、こちらも行動するとしようか」


 「こ、行動ですか……というと?」


 「探しに行くなり、巡回兵と捕まえて奴がどうなったか、情報を集めたりするんだよ。ま、我々がまだ裏切ったことに気が付いていないから、捕まえなくても、真正面から尋ねればきちんと教えてくれると思うんだがな」


 そのように考えていると、コツコツ、と足音が聞こえてくる。先ほども述べたように、ここは暗いため、相手の姿がはっきりと見えない。だが、服装からして中国軍の兵士のようだ。


 「ちょうど聞けそうな奴が来たんじゃないか?」


 そうしてローブの者は構えていると―


 「なんでここにアンタがいるんだ」


 それは中国軍の服を着ている和夏であった。


 「おいおい、なんでそんなダサい下級兵の服を着ているんだ。強いお前にふさわしくないぞ」


 「俺の任務は戦うことじゃない、潜入任務だぞ。侵入時には私服で入ったが、そのあとはちゃんと敵から服を奪って行動していたさ。まぁ、軍関係者から見れば一発で侵入者ってバレるだろうけど、地元民の目ぐらいは欺けるからな。俺の話は良い、問題はなんでアンタがそこにいるんだよ?」


 「だってこれでお前の任務は終わりだろ?」


 彼女は懐から拳銃を取り出し、こちらに銃口を向けて構える。だが、引き金を指にはかけていない。戦う意志を表しているだけで、すぐにこの場で、というわけではないようだ。


 「いいや、まだだ。というか、お前、俺の任務について言ったのか?」


 和夏は鋭く下級兵に向けて睨む。


 あれほど裏切ればどうなるか、言っておいたのに……。


 「いや!いやいやいやいや!!!俺は何も言ってない、俺は特になんも関与してませんよ!!」


 必死に否定する下級兵。


 「そうだな、この雑兵はなんも言ってないよ。だけど、偽造局に侵入、写真を撮って、実物も盗む。その時点で何が目的か、大体分かるでしょ」


 「お前……」


 和夏はもう一度、睨む。


 喋っていない、とはいえ、全ての行動が見られているじゃないか。これじゃあ、意図的ではないにしろ、目的を教えているようなものではないか。


 まさか、喋らなければいい、裏切らなければいい、などと思っていたのではないのだろうか?


 「すいません、すいません、すいません、すいません!!い、命だけはぁぁぁぁ!!」


 「……はぁ。ま、脅して使った奴だし、ある程度のミスは許してやるか」


 そうして和夏は下級兵の持ってきた手柄をしっかり懐に入れる。


 「さて、俺の任務も最後も最後、あと一仕事ってやつだよ」


 「まだ何か残っているのか?」


 ローブの者は言う。


 「ああ、偽造局の破壊だ」

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