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アウトサイダーウィザード  作者: リノエ
15/30

区長 3

 コォンは背中を強く地面に叩きつけられる。しかも、なんども地面にバウンドしながら、数十メートルほど吹っ飛ばされ続ける。


 その間に和夏は距離を取る。


 「クッ、クカカカカカカカ!!」


 やられた側であるコォンが何故か笑いながら、なんともないように立ち上がる。彼の体は無傷であった。やはり、その後も素早く的確な魔力操作で身体を守っていたに違いない。


 「良いねぇ、さすがだ。単純な魔力量、パワー、反応速度は確実にそちらが上だな。だが、小手調べもここまでだ。ここからは全力で行かせてもらうぞ」


 和夏と同様の分析をコォンはしていたようだ。その時点で兵士として、いや、戦士、と言うべきだろうか。戦いの中に身を置く者としてはかなり優秀な者だと分かる。


 そうしてコォンは腰につけていた鞘から剣を引き抜く。


 だが、それは皆が思うような西洋剣ではない。それは刃の部分がかなり薄く、しなる柔らかい剣……中国剣であった。


 和夏はより一層、警戒しながら相手の出方を伺う。


 身体全体をより一層、魔力で覆い、構えを取る。それは、誰がどう見ても、突きの構えであった。そして肉体強化をすると、そのまま和夏に向かって全力で、単純に一直線に襲い掛かっていく。


 どれほど脚に力を入れていたのであろうか。先ほどまで居た場所には、くっきりと足の形が残っており、蹴っていく地面には強く抉られていく。


 その力強さに、ものすごい気迫。


 (正面から向かってくるのか!?)


 もう少し考えて来るかと思えば、そのまま真正面からだとは。ゆえに、油断した。


 避けることは出来ない。時間がない。受けるしかない。


 これは、さすがにバリア程度では守りきれない。、結界術の魔法、しかも中級以上の魔法でなければ身を守れないだろう。だが、展開している時間もない。


 これは、確実に一撃を喰らう覚悟でいかなければ—


 だが、モロに喰らうつもりもない。


 まず、和夏は普通にバリアを展開する。これで数秒は時間は稼げるはず。それに、簡単に破壊されたとしても、威力は確実に弱まるだろう。それが、微々たるほどのものであっても。


 次に、魔力を右手に集める。それは、全体的に多く、などの話ではない。肉体内部、外部にある魔力。纏ったものも全て、右手に集めていく。


 その頃には、すでにコォンは目の前にまで接近しており、剣先がバリアに触れる所であった。


 ザクッ、と刃先がバリアに入る。そして、一秒も経たないうちにバリアにヒビが入り、二秒後には完全に破壊されてしまった。だが、想定内だ。


 バリアを突破し、もう一メートル距離はない。


 そこに、右手を前へ出す。


 今度は剣先は、和夏の右手へと直撃する。


 「とてつもない魔力量……いや、これじゃ層か!?」


 先ほどのコォンと同じだ。右手にしか魔力がないため、その威力を完全に殺し切ることは出来ず、足にも踏ん張りが効かないすぐに強く吹っ飛ばされてしまう。


 本来であれば。


 (正面から受けず、徐々に力の向きを逸らす!)


 バァン!と剣は上へと向く。


 「そう来るのか!!」


 コォンは驚く。


 自分の攻撃が逸らされた、というその結果。考えれば、悔しがる。または怒りなどでも良いかもしれない。だが、喜びの方が強く感じられる雰囲気であった。それは、まるで勉強させられたような、そんな。


 だが、感心しているコォンとは違い、和夏は次の行動へと移ろうとしていた。


 その多大な……自身の魔力全てが込められた右拳をコォンにめがけて放つ。


 コォンも慌てて魔力を狙っている箇所へと集める。だが、魔力を纏っただけで、身を守れるだろうか。


 和夏の全部の魔力を込めた拳と、多めとはいえ魔力を纏っただけの防御。


 答えは簡単だ。


 「グァッ!!!!!!!!」


 コォンの魔力を貫通し、拳がコォンの腹部へと到達する。そして、肉の細胞を壊し、一部、骨を砕き、内臓に強烈なダメージを確実に与えていく。


 思いっきり口から赤く、あったかい液体が飛び出し、辺りを真っ赤に染め上げていく。


 「さ、さすがだな。だがまだ―」


 コォンは何かしようとする。しかし


 「ッ!」


 さらに、腕を引き、もう一度、いや、倒れるまで何度もその拳を打ち入れていく。


 一体、何をしようとしていたのか。魔法でも使おうとしていたのか。分からない。だが、こっちは敵を倒すことが任務じゃない。戦闘も長引かせるわけにもいかない。だから、問答無用で叩きのめす。


 「ッガ!グッ!オッ、オガッ!」


 体を蝕んでいくその激痛。


 脳に響く嫌な音。


 肉がつぶれる音、ぐちゃり。


 骨が折れる音、バキ。


 血が流れる音、びちゃり。


 それらが、脳に響く。無駄に大きく、地震のように強く。


 「ッ—」


 そして、とうとう力が尽きたのか。彼は白目を向き、ばたり、と地面に仰向けで倒れる。


 「ったく……自分の力を信じすぎだ。それに、アンタ。かなり強い部類の人間だが、同時に裕福な家庭出身だろ?コネかなんか使って少将なんかになったんだろ?弱くはないが、相応の地位じゃないな。もっと自分を客観的に見つめなおすことだな」


 聞こえているか分からないが、和夏はそのように述べる。


 そうして、武器もなく、応援が来るまでというタイムリミットがある中で、そこそこの強さを持つこの区長であるコォンを倒して見せ、そのまま立ち去っていく。

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