第7話
よろしくお願いします
「次は僕の番」
そのうちファンナはスタスタとスターシスの方へ歩いていき横に並ぶ。
「さっきは僕 いや俺がハッシュロックって言ったのはこういうこと」
2人の後ろにいるシリンダーが透けて、中が見えてきた。
人、それも巨漢の男が入っている。胸板は厚く、張出したた三角筋から上腕筋へ、更に前腕筋群まで隆起している。足の大腿筋も隆々としている。ただバランスが良いのか鈍重には見えなかったりした。
ただ腰の丹田から下、腕の関節から先が黒い靄に覆われている。皮膚との境目が蠢いて進退があるようだ。
僕の声が低く掠れた大人の声に変わった。
「どうも向こうの術者にタチの悪いカースをかけられちまって。どうも俺の持つ魔力を喰って俺の体に浸透するやつみたいでなぁ。スターシスに手伝ってもらって、なんとか一進一退なんだよなぁ」
ネイチャーを肩に載せたスターシスが豊かな胸を揺らしてエッヘンと自慢している。
「こんなシリンダーの中だと体を動かすのを忘れそうだからかな、頭とファンナを繋げて動いてもらって体を動かすことを頭が忘れないようにリハビリしているんだよ」
ファンナは両手の人差し指を口に差し込み、左右に引っ張っている。ちょっと痛そう。
「いひゃあいよぅ」
「ごめんな。こんな具合」
一人芝居してる。
シリンダーの中、微かに目が開きシィーを見つめて、
「このファンナの体は人造のホムンクルスで、人間じゃあない。マギークラフトなんだよ」
マギークラフト。魔法使いなり術者なり探求者が己の持つ全てを注ぎ込んで作られた逸品もの。最先端の技術や古代の叡智を結集して作られていたりする。スターシスが作り上げたのか僕である。ちなみに2号です。1号はネイチャーね。
「魔力もたっぷり持っているし、体のバネもある。色々と遊べて何気におもしろいんだよなぁ」
ファンナは手を前から上に上げ、そのまま後ろまで回して後転、更に跳ねてバク転、もう一度跳ねて2回後転しつつ捻りを混ぜて着地する。両手を上にピンと伸ばして軽く片足を引いてポージング。てを回しながら体を捻って向きを変えてポージング。拍手はない。
「まあ、シアターには、もう少しかかりそうだと伝えておく。もし会うことがあったら、話を合わせておいてくれると助かる」
手をひろげ、片手を前に回して胸の前に持っていってお辞儀をする。
「あれっスターシス?」
そばにいたはずの彼女がいなくなっていた。周りを探ってみると、壁寄りのテーブルに座り、ファンナのバックパックからランチパックを取り出し蓋を開けて食べ始めていた。早速蒸した川エビ包を平らげ、満足そうな顔をしている。
「うまっ うっ まぁい ゾォー」
ネイチャーが吠えていた。
ファンナはまだ低い声のまま、
「人の話を聞かずに食べ出しやがって。おい、それなぁ」
ファンナはシィーに手を向けて
「こちらに座すシィーに教えてもらいましたあ。他にも教えてくれたよ」
これは僕の声だ。
スターシスもネイチャーもシィーに注目して手元と彼女を交互に見て
「なにー」
そんなこんなでスターシスの屋敷から帰ることにした。
「シアターには美味かったぞと伝えておいてくれ。次も頼むぜともなぁ」
出入り口にしている小屋までネイチャーはフヨフヨと階段を上がっていく。
そのうちに僕の頭にポフンと座ってきた。
「ネイチャー 重いし、なんか臭うよ」
ネイチャーは慌てて飛び上がり、自身の手や服の匂いを嗅ぐ仕草をする。
多分地下でもスターシスが同じことをしているはず。
はっと気づいたネイチャーは僕をキッと見て、その短い手と足で叩く蹴るをしてきた。
もちろん僕も応戦する。しばらく戯れあっていた。
「じゃ ファンナ シィー また来てな」
ネイチャーは小さい人形である自分の手を振りながら見送ってくれた。
ありがとうございました。