第4話
衛士の副長は、一頭引の2輪荷馬車のカートを手配してくれた。
御者はファンナが務めています。隠してる特技のひとつだよ。
シィに任せたら手綱を思いっきり引いて、馬を二本足立にさせた。
なんと全力でしか走らせることができないらしい。荷車は潰れるし、どこにぶつかるかわかっちゃこっちやない。
仕方なくファンナが手綱を引いている。
隣には鎧を脱いでリラックスしているシィーが座っている。明るい色の生地でできたデコルテから脇までフロッグボタンで止める七部袖のチュニックに濃い色のスリムズボン。足先は僕があげた草鞋だったする。
荷台には脱いだ鎧で一山できている。ガントレット ソルレット ブレストプレート ショルダープロテクターetc etc
脱ぐのも大変。シィーひとりでは出来なくてファンナが手伝って、なんとかできた。くる時にはどうやってきたんだろ。シィーは頭をかいて無言だったよ。
通りを進むと河岸にでた。大河ナハシェである。川幅が広く流れもゆったりしている。この川の向こうに、この国の貴族の宮殿がいくつかある。そこに行くには橋を渡るしかない。橋の高欄の端にある親柱の片方に橋守の詰所らがあり数名がお勤めしている。そこにランチボックスの配達が、今日の最後のしごと。
「青鷺の枝束亭です。毎度、ご贔屓に」
仕事を片付けて、
ファンナは首に掛けていた通行証である木札を引き出して橋守に見せて、橋を渡ろうとした。
「お願いがあるのですか」
ファンナは橋守に頼んでみる。
「この先は刀剣の持ち込みは禁止でしょ。この大刀を預かって欲しいんだけど」
橋守たちは、意匠の凝った大刀に驚き、ファンナの後ろにいるシィーが英傑のひとりであると認識してしまうとパニックになってしまった。
なんとか宥めて、刀を預かってもらった。
橋を渡る間、コツコツと馬の爪先の蹄鉄がリズムを作る。カラカラと車輪がメロディーを重ね奏でる。川面に吹く風が歌を口ずさんでいる。
ゆったりとまったりくる時間がすぎていった。
橋を渡り切ると、今までとは趣の異なる風景となる。
橋から真っ直ぐに広い道となる。溶岩石を切り敷き詰めたバーヴェグラニートとなっている。人が歩く部分と馬車が通る部分とではマス目が異なり区分けされている。その境には意匠のこらした魔法石街灯が一定の間隔で立っている。
往来には馬車がほとんど。貴族がつかうのは大型4輪のキャリッジや2輪のクーペ。御用商人やお抱え商人は4輪のコーチやワゴン。
「うわったったった」
煽られてふらついてしまった。
小さいカートなんかで進んでいると大型の馬車に煽られてしまい街灯にぶつかってしまう。
「貴族のかなぁ。大丈夫?」
隣のシィーを見ると手に持つ飲み物を溢したようで渋い顔をしていた。
「ドォアチンショーダ(覚えてろ) 紋は見たよ」
後が怖そうだ。シィーも一代爵位を持っていたりする。それも高位のを。
通りの行き止まりには、この地を収める侯爵様のシュロス様式の宮殿のがみえる。正面にアイアンワークの大門扉、そこから左右に高いアイアンワークのフェンスが張られていく。そこに至る通りの左右には侯爵を寄親とする貴族宅がレジデンス様式で辻毎に区切られて建っている。その一角を曲がり、しばらく進む。
フェンスでもなく外装でもない。木々がこんもりと囲む一角が見えてきた。奥に蔦に覆われた屋敷らしきものが微かにみえている。
ここが行き先、魔法使いスターチスの屋敷だったりする。
鬱蒼とした木の間を抜けて、奥にあるであろう屋敷に近づいて行く。
ありがとうございます。