第20話
間を開けてすみませんでした。
「ヒィニァああああ〜」
悲鳴がファンナの後を追ってきている。
稀に
「んぎゃいああ〜」
偶に
「あぎゃ、あグァ」
適に
「おヴェええいいウオ」
とか、聞くに耐えないような叫び声をネイチャーが叫んでいる。
堪らずに、ファンナが
「そんな叫び声はやめてくれるかな。走るリズムが乱れちゃうよ」
「仕方ない…、あっ、だろう。…いぅ、逆さに、いぃー。ひぃー、きずられぇー…てんだぁあああーん」
白狼の姿のホロケウに足を咥えられているネイチャーは、走りにあわせて頭をかなりフラれているから、叫びだろうとしゃべろうとも、上手につながらない。
メキョッ
「おヴェ」
振れた頭がどこかの屋根が壁にでも接触したのだろう。暫く静かになった。
ファンナは走りを少し緩めて、ホロケウに並んで走るようにした。
ホロケウに足を咥えられて、両手も流されるままに空を泳いでいる。
「仕方ないかね。アセナ神、足を離してもらって良いかなぁ」
ファンナは、隣を走る白狼を『アセナ神』と呼んだ。実は神獣と呼ばれる存在だったりする。
ホロケウは、ネイチャーの足を離した。その時にはファンナがネイチャーの胴体を抱え込んでいたので地に落ちることはなかった。
そのまま、うまい具合にネイチャーの体の向きを変えて、足先から背負っいたバスケットへ落とし込んでいく。
「主よ、我のことは、ホロケウと呼んでくれとお願いしたはずなんだが」
白狼が人語を喋りだす。そのことについてはファンナは、驚かない。
「やあ、やっぱりねえ、神様たる神獣に呼び捨ては、まずいっしょ」
走りながらも、手で後頭部を掻きながら、話していく。
「我は、お主を主とした。ならば名で呼んでくれてもかまわないのだが』
懇願の意思を乗せてホロケウはファンナに話しかける。
「でもね、僕は…」
ファンナは話を途切らせて、
「ちょっと寄り道するよ。 CALL! SPRITE seem」
自分に魔法をかけていく。
「exaction」
走っているファンナの周囲を淡い光の粒子が包んでいった。
するとまるで重さがなくなったと思えるぐらいに走っている勢いが増した。そして、そのまま、おもっいっきり跳ねる、ファンナは更に壁を蹴って屋根上まで跳ね上がってしまう。
'SPRITE seem'は体の重量を打ち消して、まさに微妖精のような軽やかに動くことができたりするんだ。
ホロケウも流石に神獣。苦もなくファンナの動きに追いついて屋根上まで跳ね上がっていく。
ファンナは脇目も降らずに屋根を走っていく、煙突があれば、それを足場に飛び上がり、家が途切れれば、屋根と屋根の間を跳ね飛んていく。
しばらく走っていくと、ファンナの前の景色が変わる。行き先に屋根がなくなるのだ。それも左右に一直線に切れている。
その先には建物と言えるものはなかった。砕かれ、燃え残った建材と、ほじくり返された地面の合わさったものが山積みになって、連なっていた。
それが視界の大半を占めているのである。
ここかつて魔王が率し魔物の軍団に侵入され蹂躙された跡である。この都市の実に3割強が壊滅し、軍団の下に下った。尋常でない被害と多大な犠牲との引き換えに軍団を引き戻させたのであった。
そこで動くものがいる。
ロックゴーレムと呼ばれる岩巨人型の魔法生物である。比較するものかないために、ちいさくみえるのだが、実際には大人3人の背丈を足しても足りない。王都にある城壁にも達する背丈と、それと同じだけの幅を持つガタイを持つ巨人。それがリッパ付きのドーザプレートを押して、廃材や土塊を大規模に除去している。
それらは意思をもたず魔法で制御し稼働していたりする。命じられるままに動いているだけのものだったりする。さらには魔物たちの軍団にも使えぬと打ち捨てられたもので、こちらで再利用していたりする。
瓦礫との境に立つ建屋の屋根の上でファンナは走るのをやめた。ホロケウもその横で止まる。
「アセナ神」
「ホロケウと呼べというに」
「まあ良いから聞いて」
ファンナはロックゴーレムを指し示し、
「あれはロックゴーレム。魔法で動く岩巨人なんだよ」
「我らもああいう奴らに、おいたてられたものじゃ」
ホロケウが吐き捨てるように言った。
「あれは、意思を持たないんだって、魔法で順序立てた事しかやらないんだ」
「確かに」
「実を言うと………」
ファンナはいい及ぶ、
「僕は魔法人形、あのロックゴーレムと同じ魔法生物なんだ」
ホロケウは静かに聞いている。
「他のところにいる中の人の意思で動くのが僕、ファンナなんだよ。背中にいるネイチャーも同じなんだよ」
ボヒュ
ホロケウは奇妙な嘆息をする。
「全く、異なるこというな主よ、我はお前の内に秘めたるものを主としているのに」
ファンナは自分の胸を示して、
「中の人のことでしょう。僕には意思なんてない。だから僕を主人なんかしないで、アセナ神。神様が魂持たぬ土塊に従ってどうするの?」
ボヒユ
再び、ホロケウは奇妙な嘆息をする。
「これ以上はせんなき事か、あいわかった。なんと呼べば良い」
「ファンナ」
「では、我はホロケウ」
「もうー、わかったよ。ホロケウ」
「それで良い」
ファンナは踵をかえして
「じゃ、帰るよ。ネイチャーを連れて行かなきゃ」
家たる枝束亭に向けて走り出した。ただし、一度振り返り、ロックゴーレムに向けて手を振って。
「ファンナ、なぜ手を振る?」
「だって魔法生物同士、仲間だと思ってるからかな」
「なるほどな」
ファンナはホロケウを伴って、微妖精よろしく軽快に屋根伝いに走って行った。
(意思持つこと自覚しない形代か、面白い)
アセナ神の心内は誰もわからない。
ありがとうございます。




