プロローグ
初心者です。ちょっとした記念日に投稿しました。
フッフッフッ
お日様も少し下がって影も伸びてきた通りをファンナは走って行く。一軒の玄関先に着くと
「ユーデットさん 枝束亭です。ランチパックの容器の回収にきたよ」
「あらあらファンナね。いらっしゃい。今日のも美味しかったわよ。ありがとね」
奥から出てきた初老の婦人より容器を受け取った。
「この容器は変わってるわね?どこに行けばあるのかしら?私もほしいわぁ」
「アジロニットて言うんだって、実をいうと僕のお手製だよ」
婦人は片手を頬に当て残念そうにため息をついている。
「時間ができたらつくってくるね」
「気ままに待ってるわ」
「では、次もギルドでのデリバリーランチはうちの枝束亭に頼んでねー ありがとうございました」
ファンナは容器を背中のバスケットにいれて走り去って行った。
「あの子ら2人とも、連れてかえらないと。確か、この先の辻にいるはず」
ここはスプラーデ皇国トリアーデ。皇都であるカプリットと国の玄関とも言える港湾都市エスリックの間に位置し両都市からの物流と他の都市へハブとして役割を持つ場所である。
都市の真ん中を流れる大河ナハシュの対岸に貴族が住まう宮殿街がある。川に近いところに職人街、商人街があり住宅街となって行く。都市の周りは大河の肥沃な土を使った穀倉地帯が広がる。
ファンナは格子状に張り巡らされている通りを走って行く。
住宅街から商工地区の境にある通りの交差点に、文字とイラストが書かれた布製のプラカードが立っている。あまり街路に重ならないよう建物にも張り付かないようにしながら。交差点を良く見渡すと同じようなプラカードが何枚か見られる。
ファンナはそのうちの一本に駆け寄っていった。プラカードには少女がしがみつくように立っている。プラカードは地面についていない。浮いているものを人が支えているのである。少女は肩下まで伸びたブルネットの髪、ファンナを見る青い瞳。まだ生まれてから10周期は過ぎていない背格好。
「お疲れ様ローザリンデ。お姉さんどこいったの?」
「ギルドに木札を届けに行ってる」
「もう、終わりかな。一緒に帰ろうか」
「うん! でもなんか、これ重くなってるの。フラフラするの」
確かにプラカードは揺れ、それを抑えようとしているのだがとローザリンデが引っ張られてフラフラしていた。
「浮遊の魔法の付与が小さくなってるね。もう少し我慢してね」
ファンナはプラカードの足へ手をかざし魂の言語と言われる呪文をつぶやいていく
「アクセプト ィゥラ ルチナ モヤ チッポ ダワィノ リヨ=モホラ セノソ・ト 」
フラフラしていたプラカードの動きが止まった。
「兄いは、ちゃんと魔法が使えるんだねぇ。うらやましいよぅ。私も使ってみたいなの」
ファンナは人差し指を立ててローザリンデに話しかけていく。
「たくさんお勉強をして、たくさんの経験と修行すればローザリンデならできるよ」
「ほんとー。兄い、おしえてくれるー。すごーすごいよ。おねがいね」
ローザリンデに煽てられて、ファンナは鼻の下を擽ぐる。
「少しだけだけど、ゆっくり話すから、一緒にやってみる?」
「うん!」
では
「アクセプト」
ローザリンデは続ける。
「アクセプト ィゥラ ルチナ モヤ チッ」
するとどうだろうプラカードを中心にして巨大な魔力が集まり始めるのをファンナは感じとった。
ぐんっとプラカードが身の丈より上に飛び上がってしまう。慌てて引き下ろしをした。
(なんか、めちゃ沢山の魔力だった。ローザリンデは素質があって大成するかも)
「スゴイ すごい」
ローザリンデは両手を上げて、飛び上がったプラカードを見て喜んでいる。自分が魔法を行使したと露とも思わずに。
すると、
「何を遊んでいるの」
後ろから声をかけられて2人して振り向くと、女の子がプンスカと手を組んでヘーゼルの瞳でこちらを睨んでいる。ローザリンデより頭ひとつ背が高い。
「おかえりローゼマリア」
「お姉ちゃん」
「ファンナもローザリンデを騙さないでね。あなたが飛ばしたのでしょう!」
頬を指先で掻きつつ、ファンナは曖昧な笑みをかえしていた。
(僕じゃないけどね)
「明日の仕込みがあるってシア姉が言ってたから早く帰ろ」
ローゼマリアは片手にローザリンデ 片手にプラカードの足を持ち、スタスタと歩いていく。ファンナはローザリンデと手を繋ぎ歩いてる。
陽もだいぶ地表に下がってきたようで3人の陰が並んで長く伸びていた。ローザリンデはふり返りそれをみながらニッコリしていた。
「うん!帰ろ」
実を言うと、歳は3人近いのだが血のつながった姉弟ではなかったりする。少し前に都市トリアーデに魔物の軍団が侵入してきたのだ。この国の勇者と英傑たちが組んで撃退し退けたのだった。仲間の1人と都市の3分の1の壊滅という犠牲の上に。魔王の1人を滅したことと軍団にかかっていた膨大な懸賞金を使い、時の皇子が壊滅した街に流れ出た子供たちの保護を理由に、片っ端からストリートチルドレンになりつつあった子供たちを確保してギルドに放り込んだ。
この女の子ふたりはギルドから青鷺の枝束亭という食堂へ派遣された形になっている。更にファンナは知り合いが女将に託した子供だったりする。
食堂に帰り着くと玄関に少し膨よかな、でも若い女将シア姉ことシアターが立っている。
「おかえりっ」
「「「ただいま!」」」
ありがとうございます。