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マッチングアプリと、iさん

 

「お兄、風邪引くぞー」


 風呂上がりに、髪もよく乾かす事もなく、ソファーの上で動画を見ていたら、寝落ちしていたようだ。そのせいで、部活帰りの苺愛にデコピンされて起こされた。


「お兄、何で連絡しないの?」

「……何のことだ?」

「あの後、どうなったのかって話っ!! 気になって、部活前のパンが喉通らなかったっ!」


 苺愛の部活は、地元では有名なバスケット部だ。練習もハードだと言うのに、呑気にパンなんか食ったら、吐き戻しそうなんだが。俺の妹は、実は大食いなのかもしれない。


「返事が来て、分かったことが――」

「大人の世界、訳分かんない〜っ!」


 俺の感謝の文が、いまだに理解できていないようなので、苺愛は相手のiさんの事が、本当に人間なのか疑い出した。


「……で、分かったことって?」

「臭豆腐が好きらしい」


 そう言ったら、苺愛は思いっきり自分の頬を引っ叩いた。


「動揺するな。お兄ちゃんに彼女が出来そうなのは、現実だ」

「そこじゃないから……。臭豆腐好きな人なんて、いるはずがない……」

「中国の人に失礼だぞ」


 そう苺愛にツッコんでおいて、俺は再びマッチングアプリを起動させると、iさんから返事が来てた。


「分かる~」


 俺が好きな、レッドアイズブルードラゴンの味が分かる人のようだ。


「苺愛。iさんも、レッドアイズブルードラゴンの尻尾肉が好きな人のようだ」

「……日本語に訳して」

「秋刀魚」

「普通に、秋刀魚って言えばいいじゃんっ⁉︎」


 普通に秋刀魚と言ったらつまらないから、俺はそう呼んでいるだけだ。鮮魚店で売られていた秋刀魚は、目が赤く濁り、まるでドラゴンの尻尾のように、細くて青く輝いていたから、呼んでいるだけだ。


「ところで相談なんだが、俺にはもう話題がない。会話を切ってしまったら、申し訳ないから、何かネタを提供してほしい」


 そうお願いすると、苺愛は不貞腐れながら、こう言った。


「今日は天気は良かったですねとかでいいんじゃない?」

「それは言った」


 そう言うと、苺愛は顔を真っ赤にして、再び自分の頬を引っ叩いた。


「今度こそ目が覚めたか?」

「お兄。まずは相手の事を探ろうよ。どんな人なのかは、プロフィールだけじゃ分かんないし、好きな事を聞いたみたら? 趣味とか休みの日に何してるとか?」


 その発想はなかったので、俺は苺愛に言われた通りに、iさんに聞いてみた。


『i殿は、この星で、どこが一番力を得られると思う?』


 そう打ち込んだら、苺愛がスマホを取り上げようとしていたので、俺も全力で死守して、何とか送信した。


「どうしてそんな発想になるんかな……っ!?」

「好きな事を聞いて、会話を広げろと言ったのは、苺愛じゃないか?」

「趣味とか、休日の過ごし方って、例を挙げたよねっ!?」


 趣味で、自らの力を高めにいく人だっているだろう。パワースポット巡りとか、四国のお遍路巡りとかあるじゃないか。


「ハチ公前?」


 すぐに返信が来て、まさか渋谷で力を得ていることに、俺は驚きを隠せなかった。


「確かに、ハチ公の前は、並々ならぬ力を得ることが出来る……! 苺愛、俺は、この人と会ってみたい」

「……これ以上にないぐらい、お兄の話に合わせることが出来る人だからね」


 遠回しに、苺愛もオッケーと言っているようなものなので、すぐに誘うとしたら、苺愛に右手を掴まれた。


「お兄。すぐに会いたがる人は、敬遠されるから」

「どうしてそうなる?」

「お兄は、学校の時に言われなかった? ネット上で知り合った人とは、むやみにあってはいけないって。何か犯罪に巻き込もうとしているか、へんな壺でも買わされたりとか。危険な物は付き物だって。恋人を作る事じゃなくて、違う事で利用している人もいるって事」


 それは、大高が昼に言っていたことになるのだろう。恋人を探すためのサービスを、別の事で悪用するのは、俺も許すことは出来ない。


「そうか。だけど俺は、この人と一度話を交えたい。テレビ電話でもいいし、一度顔を合わせてみたい。俺は、間違った事を言っているか?」

「ま、お兄が最終的に決める事だから。もし会話が途切れても、うちを恨まないでよね」


 そして、俺はiさんを誘ってみたら、すぐに返信が来た。


「いいよ~。週末とかは~?」


 そう書かれたスマホの画面を、苺愛に見せた。


「という事で、俺は週末にiさんと実際に会うことにした」

「……うち、大人の世界が分かんない」


 苺愛は、無表情になって、俺に力の無い拍手を送っていた。


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