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宿に三日分の宿代を払った一行はそれぞれの赴くままにジェルトの街を散策する事にした。
といっても別行動をとっているのはサイだけで時生、ハルレイン、マリー、ケビンの四人は固まって過ごし、露店をひやかしながら出店で売っていた串焼きを手に食べ歩いている。
「案外こうやって食べ歩くのも、いいものですねぇ」
「そうですね。ケビンが売り子に見栄を張って八本も買わなければ、ですが」
両手いっぱいの串焼きを頬張りながら得意気に語るケビンに対し、呆れながら嫌味で返すマリー。
「可愛らしい店員さんでしたから、上手いこと沢山買わされていましたね」
「そうなんですよ!流石は時生殿、男の性分というものを分かっておられる!」
時生がケビンがやり込められた事を庇うと、ケビンは時生の横に立ち歓喜しながらマリーへ指を差してこれで二対一だと自分の非を正当化を図る。
「店長……さっきの売り子、そんなに可愛らしかったですか?」
「ハ、ハル……?」
時生の隣から酷く冷たい声色で掛けられた言葉に、時生まででなくケビンも一瞬にして背に冷や汗を流しだす。
「店長も、ああいった可愛らしい店員がお望みなんですか?もしかして、私よりもあの子の方が店に欲しいとか思ったりして……」
ドス黒いオーラを吹き出しながら、段々と小声に呪詛を吐き始めるハルレイン。
マリーとケビンは既に姿を消しており、周囲の人達から見れば時生は女性を泣かす悪い男にしか見えない。
マリーはともかく、何故ケビンまで姿を消すんだと強い憤りを感じながら時生は慌てながらなんとか弁解の言葉を掛ける。
「いや!アレは、そう……言葉の綾だ!あの子は容姿を武器に食べ物を売っていたから、そういった才に溢れているんだろうなって!」
「かわいい……そうですよね、わたしとはちがってかわいらしい娘でした。それにわたしは店の椅子に座ってお客様を待つことしか出来ません」
「ほ、本意じゃないから!ハルの方が凄いしかわいいから!だから自分を貶めながら塞ぎこまないでー!」
なんとか宥めつつ、ハルレインの機嫌を取るような言葉を幾つも出している内に彼女の体がプルプルと震えだし、最後には笑い声と共に体を大きくのけぞらせた。
「あは、あはははっ、おかしい……ふふっ、ごめんなさい店長、でも、ふふふっ……あははは!」
ここで時生はようやくハルレインに人芝居うたれたと知り、恐怖からの解放と安心感から全身から脱力。
暫くの間、女好きのケビンを庇うことはやめようと、時生は堅く心に誓った。
「ひぃー、すみません。ついからかいたくなっちゃって」
「レインさん、とても素晴らしい演技でした。このマリー、ひどく感激しております」
「ありがとうマリー」
いつの間にか戻っていたマリーがハルレインを褒め称える。
「あれ、ケビンは?」
「具合が悪いとの事でしたので影へ引き込んで宿に戻してきました」
ニコリ、と笑うマリー。
だが口元から頬に掛けて見慣れぬ赤い何かが付着しており、時生はハルレインの演技同じく背筋が凍る。
「如何なさいましたか?」
マリーが頬の赤い液体をハンカチで拭いながら時生へ問いかけてきたので、時生はスッと彼女から視線を外し、
「いえ、何も……」
とだけ答えた。
「それじゃあ引き続き露店を見て回りましょう。何か面白い物があるといいですね、店長」
こっち側では既に成人の女性として扱われるハルレインだが、楽しそうに歩き出した彼女の横顔に年相応のらしさを感じ時生は離れないよう足早に傍へ駆け寄った。
「何か気になるものがあったら買ってあげるよ」
そう言って、ハルレインの隣に立つのであった。