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万屋とこしえ  作者: もどき
右の縁
90/146

9

「最後まで手伝ってもらい本当に助かりました」


「全然、俺は何人かの記憶を消しただけで殆ど聡太郎が頑張ってたでしょ」


 聡太郎はあれから数週間をかけ、組織に取り入れる新人候補の選別方法を都度改善しながらも無事に全員の反応を見終えることができた。


 聡太郎の選んだ異世界経験者の殆どは無事に組織の一員として迎え入れるらしく、逆に上にねじ込まれた人員の殆どは記憶消す結果となった。


 目標と設定された何かしら祟りを受けている人の生存率は約六割。


 異世界を経験する者、経験しない者のどちらからも様々な意見が出ていたらしく聡太郎としては大変満足のいく結果だったらしい。


 目標の死を見届けた新人候補の殆どは異世界未経験の者であった事を除けば、だが。


「これで時生さんの負担が少しでも減ると良いのですが」


「まだまだこれからだし、焦っても何もいい事はないよ」


「急いては事を仕損じると言いますしね。でも、なるべく僕の代で創れたらなとは思ってます」


 聡太郎からしてみれば何代もの間、隙間からあっち側へ落ちた人の捜索は時生にお願いをするという形であった。


 もちろん、それ以外の交友関係もありながらも最終的には適度な距離を保つ特異な関係。


 そんな間柄の時生から、異世界での隙間落ちした人の捜索を組織に任せようという提案をされたとなれば土台作りに注力しない訳がない。


 何かの心変わりか、それとも信頼の積み重ねか。


 どちらにしろ、主な面子は必然とあっち側を経験する者に絞られていた。


 上から、恐らくは異世界と時生についての情報を把握し干渉できないかと目論む者からの送り込まれた間者を弾くのに多少手こずりはしたが時生の協力によって結果問題はない。


 この平和な国で怪異的な死を見せられて正気を保てる人間は、少ないのだ。


「聡太郎、お父さんに似てきたね」


「そうですか?」


「余り口には出さないけど色々考えて用意して、なるべく後に負担の掛からない様にしてるとこなんてそっくりだ」


 懐かしいな、と感傷に浸りながら聡太郎とその父を重ねて懐かしむ時生。


「僕なんて父と比べればまだまだ。今回だって黒木さんへ負担を掛ける形となってしまいましたし、間違ってばかりで未だ人の助けを必要とする若造です」


「俺はそれでいいと思うけどな」


「そうですか?」


「一人で考えるより二人、二人で解決策を探すより三人の方がいいに決まってる。越内家である都合上頼れる仲間は少ないけれど、その壁は聡太郎のお祖父さんとお父さんが壊して昔よりかは頼れる人も多いでしょ?」


 壁を壊したせいで政府や組織の上から介入が増えて聡太郎に負担が掛かっているのだが、時生が盾となり手を出させない様にしているので今は控えよう。


 時代は変わる。


 昔の越内家は時生の為にその命を使ってきたが今は違う。


 彼らは今、己の子孫の為に命を燃やしている。


 我々の関係がようやく正常なものとなろうとしているのだ。


 異世界にこっち側の人間を送る事に対して時生が躊躇い続けていた理由は、こっち側の世界に信頼できる人間が極一部しか居なかったからだ。


 だが、越内家が何代もかけて解決してくれた。


 報いなければ時生の男が廃る。


「そうだ、聡太郎にあの模擬刀をあげようか」


「えっ、要らないですけど」


 心底嫌そうな顔を浮かべて断りを入れる聡太郎。


 実に素直でよろしい。


 けれど、もう遅い。


 模擬刀の名を呼んだ瞬間に刀は聡太郎の手の中に収まっていた。


「模擬刀も喜んでるよ?」


「はっ!?い、いつの間に!?」


 あっち側へ行くのなら最低限護身用に武器の一つや二つくらい持っておくべきだろう。


「後で蔵から何個か御札と武器になりそうな物を持ってくるから模擬刀と相談しながら選んでみて」


 任せて欲しい、聡太郎に相応しい物を選んでみせると言っているかのように熱を帯び始める模擬刀の鞘に、聡太郎は全身から冷や汗がブワッと沸く。


「と、時生さん!?ちょ、ちょっと待ってください!」


「善は急げだ。聡太郎の身に関わる事だから確りと準備をしないと……あぁ、他の新人さんにも要望が有れば何かしら準備するから安心して」


 聡太郎ほど贔屓はしないが。


 時生はそう思いながら、聡太郎の腕を引いて蔵の中へ早歩きで入っていった。

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