繋がれた縁
「ってな感じで、とても良い雰囲気だったぞ。やはり儂の目に狂いは無かった!」
高らかに笑い声を上げるのは立派な髭を蓄えた老人。
お茶を啜り、湯呑からある程度量が減ったのを確認すると俺はすぐさま急須からお代わりのお茶を注ぐ。
「エデンさん、まさか命を狙われていたとは思いませんでした。王都も中々に酷いですねぇ」
「全くじゃ!儂たちはもう滅多に地上へ手を出すことはないが、今回ばかりは腹が立ったぞ」
「王都は放っても大丈夫なんですか?余りに酷いのなら私が直接行きますが……」
「よいよい、さっきも言ったが側にいるテルという女性は奴と同じくらい強い運命を持つ。あれ程の運命を持つ者ならば、時間を掛けさえすれば王都などすぐ変わろう」
「あなた基準で時間を計られても困りますよ」
「お前も対して変わらんだろうに」
そんな事は無い。
俺は一日一日を大切に生きている。
いくら自分の時が止まっていたとしても周りは変化し続ける。
時間は残酷な迄に俺を過去へと置き去っていく。
そうさせない為に、俺は日々新聞を読み漁りながら時代に取り残されぬよう足掻いている。
「そうやって、時に縛られた心を癒やしておるのか」
俺は老人の言葉を聞き流し、ポットから急須へお湯を注ぐ。
「そっちの世界は相変わらず、科学でどんどん便利な世に進んでいるようじゃな」
「年を重ねるごとに技術の頭打ちな空気が流れるのですが……毎年何かしらの技術を発表し更に進化を遂げていますね」
「この前はなんじゃったか……ホログラム?を使った携帯が出たんだったか?」
「よく知ってますね。液晶脱却を掲げていたらいつの間にか物が出来ていたんだとか」
「そして、開発者は車に轢かれて寝たきり……変な話だ」
「えぇ、本当に」
互いにお茶を啜り一息。
「あまり、甘やかすんじゃないぞ」
「善処します」
「全く……何が善処しますだ」
老人はそう悪態をつきながら立ち上がる。
「お帰りですか?」
「儂はあやつと違って忙しいのでな。茶と菓子、美味かったぞ」
「いえいえ、お粗末様でした」
お礼を返し老人を店の裏口まで送る。
このやり取りも、数え切れないほど繰り返してきた。
彼と出会ってから、もう何年経ったのだろう。
彼女と出会ってから、もう何年経ったのだろう。
老人は店の裏口から一歩外へ踏み出し振り返る。
「また来るぞ、“トキオ”」
「次は美味しいケーキでも作って待ってますね、“神様”」
「クリーム少なめで頼む」
「はい、楽しみにしていて下さい」
老人はニコリと笑い、一瞬にしてその場から姿を消した。
神なだけあって、門を潜らなくとも自由に行き来することが出来る。
俺の生活を配慮しているのか姿を表すのは決まって店の外。
また、姿を消すのも店の外。
突然目の前に現れたりしないだけ良識のある神だ。
彼女とは大違い。
カランカランッ、と店の扉に付けてある鈴が澄んだ音色を奏でる。
「な、何だ!鳴子か!?」
どうやら客が来たらしい。
神様は特に何も言わなかったので普通の客だろう。
「はーい、いらっしゃいませー」
今は裏口に居るので声だけ出して存在を示しておく。
ハルが来るにはまだ早い時間。
店には俺一人しか居ないので接客は必然と俺がする事となる。
……少しハルに甘え過ぎなのかも知れないな。
「いらっしゃいませ」
「ここは、何だ?店なのか?」
「はい、雑貨屋兼、万屋です」
「ヨロズヤ?」
「なんでも屋という意味です」
ハル以外の従業員でも雇うかな。
なんて思いつつ、今日の業務を始めた。