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万屋とこしえ  作者: もどき
右の縁
83/146

2

 扉に付けられた鈴の音が店内に来客を告げる。


 コツコツと硬い靴音を鳴らしながらカウンターに近付く若い男性は、店主の姿が見当たらずこの場には居ないと判断すると遠慮無く店の奥へと足を踏み入れる。


 長い廊下を抜け、客間のある扉を通り過ぎ、一切の迷いのない足取りで向かうのは店の奥に存在するこの店の店主を務める男の居住空間。


 靴を脱ぐスペースの前まで辿り着くと、若い男性は踵を器用に使い靴を脱いで一段上の段へ上がると振り返り靴の向きを外側へ向け綺麗に並べる。


 実は壁沿いに扉のない下駄箱が有るのだが、中は店主の物と思わしき靴がみっちり置かれているので入れることは出来ない。


「時生さーん、居ますかー?」


 若い男性は居住空間であろう中へ向け、大声で自身の来訪を告げる。


「はーい!」


 すると奥から彼の声が返ってきた。


「どちら様ですかー」


 ひょこっと顔を出して来客である自分の顔を確認する。


「聡太郎か、久しぶり」


「お久しぶりです時生さん」


「聡太郎が来たこと全然気が付かなかったけどいつ来たの?もしかして待たせちゃったりした?」


「いえ、売り場に居ないのなら取り込み中だろうと思いまして。待たずにここまで一直線に来ちゃいました」


「あぁ、それ正解。面倒掛けてごめんね」


 頭を軽く掻きながら平謝りする時生。


「何かあったんですか?」


「前の仕事で使った道具の機嫌取りで忙しくてね。暫く振りに使ったら随分と我儘なお嬢様に育っていて困ってるんだ」


 まるで道具が感情を持っているかのような口ぶりだが、時生の言葉に間違いはなく、それが正しいと聡太郎も知っていた。


 何故ならこの国は八百万の神が存在しており、その国の神に寵愛されし店主と店はまさに神と現世と、異世界との繋がりを管理する希有な場所。


 廃れた常識が今もなお生き続けている店。


 そんな、人智を超えたものと関わりを持つ時生と何代にも渡って関わりを持ち続ける我が越内家が彼の言葉を疑う訳もなく。


「それっていつも使っている水盆ですか?それともあの模擬刀ですか?」


「勿論、模擬刀の方だよ」


 あー、と聡太郎は大層面倒くさそうな溜息と共に額に手を当てて瞳を閉じる。


 聡太郎には時生が手を焼いているという模擬刀に心当たりがあった。


 そして恐らくではあるが、我儘な理由や対価として求めているモノにも。


「……僕が、何とかしましょうか?」


「いいの?いま結構酷いけど」


 正直に言えば、やりたくない。


 だが、この時ばかりは模擬刀を鎮める力を持つのは時生ではなく聡太郎であった。


 今日は時生に用事があってこの店に来た手前、ありあまり余計な事に時間を使いたくない。


 ならばさっさと解決して用事を済ましてしまおう、そう考えたまで。


「大丈夫です。あいつも僕と久しぶりに会えて喜ぶと思うので」


「ごめん聡太郎、助かる」


 謝罪と感謝の言葉を述べる時生に聡太郎は言葉に返すことなく、和室へ向けて歩き出した時生の後ろを静かについていった。

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