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万屋とこしえ  作者: もどき
悪夢の縁
72/146

3

「いらっしゃいませ」


 門をくぐり抜けると、暗闇から反転して太陽の光が降り注ぐ小さな世界が視界いっぱいに広がる。


 その中には古い洋館のような、それでいて和の雰囲気も感じられる建物がドンと建てられており、大きなガラス窓から覗く商品棚とカウンターからここが店であると物語っている。


 屋根には大きく、「万屋とこしえ」と書かれた看板が飾られおり、私の推測をより確かなものとした。


 すると中から黒髪の女性が現れ、来訪を待ち兼ねていたか如く歓迎の態度を取り流暢な日本語を用いて私達を店の中へ招く。


 どうやらこの店の店員らしい。


「カダンさん、店長は客間にてお待ちです。ご案内いたしますね」


「よろしく頼む」


「あの、ここは?」


「ここは神と、それに連なる者が営む店だ。店主が言うには主に縁を繋ぐ事を生業としているとか」


 夢でなければ到底信じられる話ではない。


「縁を繋ぐ……神社か何か?」


「ははっ、店主とその庇護下にある者へ手を出せば神罰が下るからあながち間違いじゃないかもな」


 然も当然のように神の存在をほのめかすカダンに、私は少し目眩を起こす。


 別に神を信じていない訳では無い。


 だが、神が心の内から存在していると言い切れるほど敬虔な信者でもない。


 冠婚葬祭などの祝い事やお悔やみ事には神を頼り、縋り、日々の生活では神の介入を許さない。


 謂わば、日本人らしい混じり混ざった宗教観なのだ。


 だからこそ、当たり前かのように神の話をするカダンへ不信の目を向けざるを得ない。


 自衛として、訝しむことも仕方無いことなのだ。


「こちらです」


 女性店員に案内され、店の奥へ進み連れられたのは廊下の途中にある一つの扉。


「店長、お客様をお連れしました」


「どうぞー」


 扉をコンコンコンとノックし声を掛けると、中から快活な返答が帰ってきた。


 開かれた扉の奥には質の良い木材で作られた円卓があり、それを囲むように背もたれのある綺麗な椅子が等間隔に並べられていた。


 窓際には店主と思わしき男性がニコニコと笑顔を浮かべて座っており、後ろにはこれまた大きなガラス窓から桜の木が枝を伸ばし部屋を覗いている。


「桜……?」


 疑問を口にするがその問いに答える者はこの場に居らず、私の言葉は空気に沈み床の底へスゥッと染み込むように落ちて消えていった。


「本日はようこそいらっしゃいました。一応、事前にお話を伺っておりましたが……お隣の方はこれまた随分と厄介なモノを連れていますね」


「あぁ、力が強過ぎて俺の力だけでは祓いきれなくてな。済まないが頼らせてもらう」


「対価は既に頂いているので構いませんよ。どうぞ座って下さい」


 カダンは店主に促されるまま椅子に座り、私も後に続く。


「ハル、台所の方からお茶とお菓子を持ってきてくれるかな。紅茶はハルのお任せで」


「分かりました」


 女性店員へ指示を出す店主。


 女性の名前はハルと言うのかと考えながらチラリと彼女の方を見れば、満面の笑みを浮かべ軽やかな足取りで扉を開け廊下へ出ていくのが見えた。


 想像よりも可愛らしい人なのかも知れない。


「自己紹介がまだでしたね。私の名前は常代時生。ここ『万屋とこしえ』の店主をしています」


「えっと、桐谷みちるです」


「……カダンだ」


「桐谷さんと、カダンさん、本日はよろしくお願いします」


 店主は何が面白いのか、初対面である筈なのに堪えるように笑みを殺して挨拶を交わしてきた。


 私に何か粗相があったか、それとも隣で急激に不機嫌なオーラを纏わせるカダンが原因か。


 二人は面識があるようなので恐らくはカダンに原因があるのだろう。


 後でこっそり聞けば教えてくれるだろうか。


 この思考の散らかり方、夢の中とは不思議なものだ。


「先ず、みちるさんの状態についてなのですがカダンさんの予想通り、十中八九憑れているか魅入られている事は間違いないかと思います」


「あぁ、俺一人では祓いきれない程の強力で、みちるに加護を与えても意味をなさない」


「みちるさんから透けて見た限りでも相当強い念を持っているのでしょう。覗くのも恐ろしいほどに」


「……みちるを襲っていモノの正体は分かるか?」


「分かりません。実際に現場へ行かなければ正体を掴むことは難しいかと」


「そうか……俺は普段人前に出られるような姿をしていないし、今はもう夢を伝って行けるほど力も無い。何か手はあるのか?」


「ひとつ、確実であろう手段を用意してあります」


 私を抜いてトントン拍子で進んでいく会話。


 まさに夢のよう。


 私はあれやこれやと会話を続ける男二人の話に耳を傾けつつ、夢から覚める時を待ち続けるのであった。

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