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万屋とこしえ  作者: もどき
抓む縁
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4

 隙を狙った蹴りも、自慢の短剣二本を使った突き刺しも見えぬ壁に塞がれ、不敵な笑みを浮かべてこちらを挑発する不届者。


 透明な壁の正体を、術の種を明かさねば始まらないと考えた私は小規模な爆破魔術を行使するべく短剣へ魔力を集中させる。


 彼の者には申し訳無いが目前に迫る危機を目の当たりにして悠長に対話を試みるほど戦いの世界は甘くない。


 店の商品は後で、スリーグルス家が弁償させていただきます。


 心の内で呟きながら魔術を行使しようとする。


「あまり妾を侮るな」


 瞬間、足で踏み短剣で突き刺していた壁が私を押し返し姿勢を崩しに掛かる。


 意表を突かれ姿勢が崩れた私は魔術を中断して避ける事に専念しようとするが片足では上手いこと動けずそのまま床目掛けて倒れてしまう。


 影の中へ逃げようと影魔術を試みるが何故か上手いこと潜れず焦る。


 そんな私を見透かしてか、不届者は不敵な笑みを醜悪なものへと変えながら倒れた私を見続けていた。


 せめてもと不届者の顔面目掛け近距離で小規模な爆破魔術を行使しようとするが魔術が思う様に扱えず、今度は自分の意志関係なく中断。


「店の中で怖い真似をするな。散らかすと時生が物凄く怒るのじゃ」


 不届者は拳を強く握り込み腰元まで引くと、私の腹部目掛けて一気に突き出した。


「今のお前は、酷く弱っちいの」


 鳩尾を深く抉る鋭い拳。


 視えない力と一瞬の戦いで感じた圧倒的な力の差に、私は為す術もなく意識から手を離す。


 意識が飛ぶ寸前、不届者は酷く悲しそうに、けれど憎悪にも似た歪みのある表情を浮かべて、倒れ行く私の事をじっと見つめていた。







 目を覚ましたとき、私はベッドに寝かされており、何故か隣では影もどきの彼女が椅子に座って私の世話を行っていた。


 話を聞けば不届者と戦いを店の外から窓越しに見ていたのだという。


 一瞬にして敗れ去った不名誉な戦いを彼女に見られたのは何だか恥ずかしく、それと同時に生かされた事に驚きを感じていた。


 意識を失ったあとの話を聞くと、私が倒れた時に居たはずの不届者はいつの間にか姿を消し店の中には彼の者と私だけ。


 むくりと体を起こして倒れた私を運ぼうとする彼の者であったが、運ぼうにも私の体を持ち上げる事も出来ない姿を見かねて彼女は姿を現して手伝いを申し出たらしい。


 驚いた様子も無く私の関係者として彼女を扱う彼の者に彼女は人間味の無い不気味さと神のような圧倒的存在感を覚えたとの事。


 事情を知る私からしてみればその感覚は正しいと言える。


 だって彼は神に最も近しい……いや、親しい人間なのだから。


「結局、店主さんと上に乗っていたあの女の人はどういったご関係だったのでしょうね」


 確かに、それはとても気になる話である。


 痴情の縺れであったのなら殴られ損な気もするが、彼の者は命を狙われていた場合スリーグルス家にとって重大事件となり得る。


 何としてでも情報を持ち帰らねばならない。


 私は彼の者に会うため体を起こしてベッドから降りる。


「ちょ、駄目です!怪我が悪化しますよ!」


「構いません」


 影もどきの彼女が怪我を心配してか安静にするべきだと少し声を荒らげながら私を制するが、歩み進める。


 彼女には申し訳無いが、それでも自身の体とやるべき事を天秤に掛けた時傾いたのが彼の者であったのだから仕方が無い。


 私は常に、お嬢様を想い行動しているのだ。


部屋を出て店の売り場へ向けて歩き出す。


 腹が痛むが我慢出来ない程でもない為にぐんぐん進む。


「──、──!」


「──」


 売り場から彼の者ともう一人の話し声が私の耳に入って来る。


 もう既に彼の者の声も、そしてもう一方の声も覚えていた。


 売り場へ顔を出すと、今度は馬乗りになどせず楽しそうに彼の者と会話をする不届者が私の姿を捉えるなり立ち上がる。


 警戒を強めて短剣を構えようとするが、目にも止まらぬ速さで慌ただしく駆け寄った不届者から一言。


「すまん!人違いでお前を殴ってしもうた!」


「……は?」


「許してくれー!店の決まり事に反して一度外に放り出されたんじゃー!妾は反省した!だから許してくれー!」


 このとき、私はあんぐりと口を開け呆ける事しか出来ていなかったと思います。


 本当に、この店に来てからというもの良い事が一つも有りません!



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