新の縁
「あれって拠点としていた街よね」
門を潜りあの不思議な店の敷地から出ると、そこは森の中はなく街を目前に収める道の横にある草原に繋がっていた。
後ろを振り向けばそこにあった筈の門は姿を消しており、傍から見れば私達は街へ続く道半ばで休んでいる様に映るのだろうか。
「何も言わず送り届けてくれるなんて、店主は本当にお人好しだな」
エデンは呆れた態度を取りながらも嬉しそうに納得してみせた。
私は未だにあの店について不思議な店程度の認識なので何が起こったのか分からないまま。
ハルレインに気を取られて店と、あの店主のことなどエデンに任せっきりだったので彼が一人で納得する理由も一切の想像が付かない。
「あの店って結局なんなの?私はハルレイン……ハルと話をしていたから何も分からないままなのよ」
「詳しくは俺も良く分かってないが、まぁ、変な店って事は確かだ」
「そんな、曖昧過ぎるわ。それに門が現れたのは魔の森だった筈なのに店から出たら拠点近くの草原だなんて、不思議に収めるには異常すぎると思うのだけど」
「そんな事言われたってなぁ……」
あの門の技術を使えれば活動の範囲が大きく広がるだろう。
今回の様に追手に追われたら門を使って姿を晦まし、向かいたい場所へ逃げる。
これはエデンに言い触らすなと言われた理由もよく解る。
なんとか公爵家で囲い込みたいが既にハル、いやスリーグルス家の庇護下にあるのだろう。
ハルに対して不義理な事をしたくないので、あの店については父に伝えることなく内に秘めておく事になりそうだ。
勿体無いが、友達としてハルと店主の恋路を応援するのなら貴族としての私は手を出さずにいたほうがいいだろう。
「気にするだけ無駄だと思うぞ?あの店は普通の人間には見付けられない、何でも神の気紛れで導かれないと敷居を踏むどころか門さえ現れないらしいからな」
「何よ神の気紛れって……ふざけているの?」
「ふざけてない。店主と嬢ちゃんが言ってたんだ」
「店主はともかくハルのは多分説明が面倒になって適当な嘘をつかれているだけよ」
「おいおい、当たりキツいな」
「ハルは学生の頃から興味のない事は雑に済ませることが多い子なの。対人関係は特に酷かったわ」
「俺としては嬢ちゃんも店主と同じで人当たりはいい方だと思うんだけどな」
「店の従業員としては当然の対応かも知れないわね。まぁ、エデンはハルに嘘を付かれた訳だけど」
「信用無さ過ぎだろ」
四年も共に過ごした中なのだから当然と言えば当然だ。
そして変わりない様子で恋に生きる姿を見れば気も抜けて口も悪い方向へ軽くなる。
つまり愚痴も溢れるというもの。
「よく知っているからこそよ。案外、あの店主と話していたくて適当にあしらった可能性もあるわ」
「そこまで邪険に扱われちゃいねぇよ……なんだその目は」
「……帰りましょうか。大丈夫、私はエデンの事を大切に思っているから安心しなさい」
可哀想な目でエデンを見やり絡む。
軽くオドオドと感情を揺らがせて本気で自分を省みるエデンを面白そうにからかいながらながら、テルリアは街へ向け歩き出す。
風が、決意新たに自身の道を開き進もうとする彼女と、その横に立つ男の背を優しく送り出す。
再開が、一つの未来を変え大きな嵐を生み出すこととなるのだが、それはまだ先の話。