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万屋とこしえ  作者: もどき
懐古の縁
60/146

13

「別に、エデンとは同じパーティーで、私の命の恩人で。勝手に故郷へ帰ったかと思えば腕を失くしたけど変な義手を付けた馬鹿者をまた呼び戻して王都の腐った冒険者協会正す為に行動を共にしているというだけの関係で」


 テルリアは表情をコロコロと変えながら早口に男性との関係を言い放った。


 なるほど。


 成る程。


 つまり……成る程。


「好きなんですか?」


「はっ!?す、好きって何かしら!」


「エデンさんの事を異性として恋い慕っているのかという意味です」


「ち、違うわよ!私は貴族でエデンは平民なのよ!?ある筈も無いでしょう!」


「でも今は冒険者として過ごしているではありませんか。それに、貴族社会に戻るつもりも無いのではありませんか?」


「そ、それは……」


 テルリアが貴族社会に戻らず冒険者を続けるのではないかというのは何となく、本当に何となくそんな気がするとハルレインの直感が告げていた。


 一端にはエデンという男性の存在も有るのだろうが、それを度外視してもテルリアはやりたいことを見付け突き進んでいる様子が見て取れた。


「どうせ戻っても王家の思惑に巻き込まれるだけ。ならばこのまま冒険者として、彼と共に生きる選択を」


「か、かかかか、彼って誰の事かしら!?」


「それは勿論、エデンさんの事です」


「勝手に変な妄想を言わないで頂戴!」


 どうしましょう、楽しくてなりません。


 テルリアも随分と可愛らしく変わられた。


 この変化をもっと楽しんでいたいのですが、流石に店長たちに申し訳無いので適度に切り上げる。


「ハルレインさんの元気な姿を見れて良かったわ」


「私もです。まぁ、テルリア様は色々と変わられた様ですが芯は昔のままで良かったです」


「あなたは変わらな過ぎよ。興味のあること以外ずっと無関心なんだから」


「そうでも無いですよ?最近は料理を嗜んでいます」


「……ちゃんと食べられる物を作れるんでしょうね」


「失礼ですね!作れますよ!」


 あの頃の様に軽口を飛ばし合う。


 しかし、それは昔の頃と違い互いの距離は大分縮まった会話であった。







「それじゃあそろそろお暇致しますか」


 エデンは立ち上がり荷物を纏め出し言った。


「もっと店に居ていいのですよ?なんなら泊まって頂いても構いませんが」


「いや、十分休ませて貰った。お陰で体力も大分戻ったしな。それに仲間達が心配しているだろうから早く帰ってあの貴族を懲らしめねぇと気が済まないんだ。なぁ、テルもそう思うだろ?」


 エデンがテルへ問い掛けるが返事はなく、うわの空といった様子で黙ったまま虚空を見つめている。


「テル?」


「へっ!?そ、そうね!」


「……ふふっ」


 一体何を意識すれば然も赤くなれるのか知りたい気持ちで一杯になるが今は抑えておこう。


 後で怖い目に遭うのは私なのだから。


「ハルレインさん?」


 テルリアがハルレインを咎める様に鋭い目つきで注意する。


「いえいえ、何でもありませんよ。本当に、全然、全く……んふっ」


「ハル何か面白いことあったの?」


「はい店主……んふふっ、でも言えません。秘密なんです……ふふふっ」


「ハルレインさん!機会があればスリーグルス領へ足を運ぶので覚悟しておきなさい!」


「はい、式の準備は全て私にお任せください。友人代表として壇上に立つことも辞しません」


「もう!行くわよエデン!」


「お、おいどうしたんだテル。痛っ、そんなに強く引っ張るな馬鹿」


「煩いですわよ馬鹿者!ほら、さっさと歩く!」


 エデンを引いてドスドスと荒々しく店の外へ勇歩くテルリア。


 その顔は怒っている様だが何処か楽しげで、上がった口角を隠す様にエデンの前をズンズンと進んでいく。


「それじゃあ店主、世話になった!今度来るときは何か土産を持ってくるから!」


「はい、また来てください。その時はテルさんも是非一緒にいらして下さいね」


「おう!テルも嬢ちゃんと会えてすげぇ嬉しそうだからそう言って貰えると助かる」


「エデン!行きますわよ!」


 いつの間にか門の前で仁王立ちするテルリアがエデンを急かす。


「テルさん、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」


 わたしは敢えて、彼女の名を“テル”と呼んだ。


 エデンという男性が居る手前無闇やたらにテルリア様の名前を呼ぶわけにはいかなかったからなのだが、どうやらテルリアはそう受け取らなかったらしく。


「……っ、煩いですわよ!は、ハル!」


 わたしの名を愛称で呼んだ。


「……また、来てくださいねテル」


 一度ポカンとしてしまったが、直に気を取り戻して別れの言葉を掛ける。


 そこには貴族としての隔たりはなく、ただ一人の友人としての言葉があった。


「ハルの作る料理、楽しみにしているわ」


 私達は互いに満面の笑みを浮べ、門が閉じられるまで手を振り続ける。


 互いに言葉には出さなかったが、二人は本当の意味で友となり心から親友と呼び合える関係と昇華した。


「またね、ハル」


「またね、テル」


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