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万屋とこしえ  作者: もどき
懐古の縁
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4

 二人の出会いは王都エイドフェールにあるエイドフェール学園の入学式、校舎裏で大きな存在感を放つ大樹の元であった。


 大人からすれば大樹でなく大きな木程度の扱いなのだが、入学したばかりである十二歳前後の少年少女たちからしてみれば十分に大きな木の一つであった。


 この日、入寮手続きを済ませた少女テルリア・フォエスは校舎の周りを把握するため侍女を伴って散策に出ていた。


 荷解きがある為に自分一人でも良かったのだが、従者も学園ある建物の位置関係を把握出来たほうがいいだろうと思い誘ったのだ。


 そして校舎裏へ足を運んだ時、テルリアは彼女に出会った。


「あなた、そこで何をしているの?」


「空を見ています」


 スカートなのにも関わらず大きな木上、その枝に座り足をぶらぶらと振る黒髪の少女は短く語る。


 素っ頓狂な返しが来たので私はついキョトンとしてしまった。


 隣に立つ侍女は言葉を失っている。


「空って、木に登ってまで見るものかしら?」


「風とか気持ちいいですよ。一緒にどうですか?」


「スカート姿で登るものではありませんわね」


「……そこは淑女たるものはしたない行動を慎むべきと怒る所ではないのですか?」


「私はこう見えて結構わんぱくなんです」


 テルリアは木の上で驚きの表情を浮かべる彼女へ向けてそう言葉を掛けると、いい加減上を向くのに疲れたからと風の魔術を行使してふわりと体を浮かべた。


「お、お嬢様!?」


「ちょっとあの子とお話してくるわ。見張りをお願い。誰かが来たらすぐに教えて」


 侍女は不承不承ならがに命令を受け私達に背を向け来た道を戻る。


 テルリアはそのまま宙を飛び少女の横まで移動すると、ゆっくりと彼女の隣へ腰を下ろす。


「……先程、スカート姿で登るものでは無いと仰られていませんでしたか?」


「えぇ、なので周囲に人が居ないのを確認させつつ優雅に宙を浮かんでみました」


「ふふっ、確かに優雅でした」


「でしょう?」


 和んだのか少女が柔らかい表情で笑う。


「名乗っていなかったわね。私はテルリア・フォエスよ」


「ハルレイン・スリーグルスと申します。驚きました。フォエスということは公爵家の方ですね」


「フォエス公爵家の長女よ。あなたはスリーグルス伯爵家の者なのね」


「スリーグルス伯爵家の末っ子です」


 スリーグルス伯爵家。


 父や母の口から何度か聞いたことのある家名。


 自然豊かで肥沃な領地を持ち、それを活かした作物と物流が集う大きな市を持つことで有名な家。


 軍の質も良く、民や冒険者との関係も悪くないと現在の当主はよく秀でた手腕を発揮していると父は評価していた。


 だが、それと同時に王家と深い繋がりがあるようで接触する場合は気を付けるべきとも評していた。


 今、そんな家の人間と出会った感想としては“変な子供”が一番に当てはまる。


 だって、私の父が公爵であると知った今も尚恭しくなったりせず変わらぬ態度で接しているのだがら。


 位の高い立場とは子供にとってはとても残酷で、友達作りを目的とした茶会等ではその様子が特に顕著に現れる。


 テルリアは友人関係ではなく御家との繋がりを求める為に開かれた茶会など求めてはいなかったのだが、招待された子供たちは違う。


 親に刷り込みの如く仲良くなれと言い聞かせられた子供たちのゴマすりは酷く見るに堪えない。


 幼い頃からその欲望に当てられた彼女は辟易さえしていたのだが、立場故に茶会を開いては同年代の子供と言葉を交わす。


 いつからか割り切るようになり人脈作りとして場を用いるようになっていた。


 冷たい感情に従い人と接するようになっていたのだ。


 それ故にハルレインの態度はとても新鮮で、テルリアは今胸が強く鼓動し高鳴っていた。


 初対面でありながら、公爵家の者であると伝えても尚態度を変えることなく接してくれる彼女に対して強く友人になりたいと思えた。


 だから、従者を伴わず一人で木に登り空を見つめていたハルレインと会話をする為に細かく話題を振る。


 もっと知るために言葉を交わす。


「どうして従者を連れていないの?」


「恐らく今頃は荷解きをしている頃かと」


「今日入寮手続きを?」


「はい。荷解き中は暇……やることが無かった……時間ができたので校内を探索していました」


 どんな経緯を辿れば校内探索の結果校舎裏にある木の上に登るのか分からないが、詰まるところ暇だったので辺りを散歩をしていたのだろう。


 木に登る事を除けば殆ど私が学園の敷地内を歩いていた理由と同じである。


 そして、本日入寮したと言う事はつまり彼女と私は同じ学年であることを示す。


 喜びという感情が全身を包む。


 一歩、また一歩と友人への道が近付いていく。


「私と同じ。ねぇ、ハルレインさんと名前で呼んでもいいかしら?」


「構いませんよ」


「よかったら私の事はテルリアと呼んで頂戴」


「分かりました、テルリア様」


「ふ、ふふっ。これからよろしくねハルレインさん」


 後で聞いた話なのだが、ハルレインは木に登るまでは良かったが降りられなくなり途方に暮れながら侍女が自身を見つけるのを待っていたらしい。


 少し傷の付いた手を隠すように擦りながら告白してきた。


 なので出会い頭の会話で言っていた「空を見ている」や「風が気持ちいい」とは強がりであったという。


 何とも実に面白おかしい話である。


 その後、音もなく同じ枝の上に現れたハルレインの侍女らしき背筋の伸びた老年の女性が現れると、木の上にいる事の詳細を聞いて呆れながらに影の魔術を用い私達を地上へと降ろしてくれた。


 どうやらハルレインだけでなく、彼女の周りにいる人も面白い者が多いようだ。

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