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万屋とこしえ  作者: もどき
雷の縁
44/146

5

「来たぞ時生じぃ!まだ生きてたんだな!」


「随分なご挨拶だな幸坊」


「幸坊はやめろって言ってるだろ!もうそんな歳じゃねぇよ!」


「俺から見れば皆坊やだからいいんだよ」


「俺から見ればって当たり前だろうが!何年生きてんだ!」


「もう忘れた」


「はぁ……それで、人はもう来てるのか?」


「客間に待たせてるよ」


 部屋の外から軽口を言い合う二人の声が届く。


 常代さん、素の一人称は俺なんだなとか思いつつ粗暴な言葉使いをするもう一人の声の主へ意識を集中する。


「全く、時生じぃはいつも急に呼び出すんだから困ったもんだよ。こっちだって仕事があるんだからな?」


「でも今日は暇だったんだろ?」


「それはまぁ……暇だったけども」


「ならいいじゃないか」


「……さてはいつものインチキ呪術で俺の未来を覗いたな?」


「何の事だかさっぱり分かりません。今日のおやつはチョコケーキです」


「ケーキなんかで誤魔化そうとするな!」


「はぁ、昔は釣られてたんだけどなぁ」


「ガキじゃねぇんだから……」


 扉の前まで来ると言い合いも治まり静かになる。


 そして扉が開き中に常代さんと、髪をオールバックに整えた厳つい見た目をした壮年の男性が入ってきた。


「お待たせ轟くん。この人が今日呼んだ先生役を務める方だ」


「よろしくお願いします」


 常代さんが隣に立つ男性の紹介をするのですかさず頭を下げて挨拶をする。


 男性は俺をまじまじと見定めるかのようにじっくりと見つめながら最後に


「まぁ、素質は有りそうだな」


 と言って態度を改め挨拶を返してきた。


「はじめまして、俺の名前は“常代幸人”。今日は君に邪獣とは何か教えて欲しいと時生じぃに呼ばれたので来た。よろしくな」


「轟雷太って言います」


 自分の近くまで寄ると手を差し出し握手を交わす。


 見た目は怖いが礼儀正しい人だ。


 だが、一つ気になる事もある。


「常代さん、ですか?」


 そう、彼らの苗字が同じ事である。


 あまり見掛けない姓だとは思うのだが、何か親しい間柄なのだろうか。


 俺がその疑問を口に出す前に常代さんが答えた。


「幸坊は俺の……何孫?」


「知らねぇよ。遠過ぎてもう分からん」


「まぁ子孫って事は確か」


「時生じぃの兄の家系だけどな」


「俺は子供作ってないからね」


 顔を見合わせて楽しそうに言い合う二人。


 置いてけぼりにされる俺。


 常代さんが常代幸人さんのお祖父さん?


 それにしては見た目が若すぎる。


 面白い冗談だと受け入れ俺も言葉を返す。


「常代さんってすごく長生きなんですね?」


「ははは、まぁね」


 だが、常代さんがさも当然かの如く言葉を受け取る。


 少しずつ常識が崩れていくのを感じるが、きっと気のせいだと思いたい。


「時生じぃ、そろそろ話を進めようぜ」


 常代幸人さんが割って入り話を切り上げさせる。


「そうだね。幸坊、後は任せていいか?俺は外で準備してくるから」


「任せてくれ」


 常代さんは部屋を出て、この場に残されたのは常代幸人さんと俺の二人だけとなった。


「改めて自己紹介といこう。俺の名は常代幸人、呼ぶときは幸人でいい。今は陰陽会に所属するごく普通の会社員だ」


 陰陽会?


 聞いたことがない。


「陰陽会ってのは害意に触れた神獣を諌め元の姿に戻す事を目的とした特別な力を持った組織だ」


「害意に触れた神獣……それって邪獣の事ですか?」


「大まかに括ってしまえばそうだ。時生じぃから聞いてたか?」


「少しだけ説明してもらいました。最終的に神へ牙を剥くって」


「そうだ。轟くんは神を信じるか?」


「……信じます。いや、信じざるを得ないといいますか、何と言うか」


「時生じぃの店に来ている時点である程度察してはいたが、やっぱ面倒事に足を突っ込んでいるみたいだな」


 同情してなのか優しい視線を送ってくれる幸人さん。


 幸人さん……いい人だ。


「邪獣へを諫める為に、又は退ける為に俺たちはある特別な力を用いる訳なんだが……見るほうが早いか」


 幸人さんは袖を捲くって自身の腕を前に突き出した。


 何をするにかと思考を巡らせようとした次の瞬間には腕の周りに雷の様なモノがバチバチと音を立てて纏わりついていた。


「これは我ら陰陽会の人間が扱えるとする術の一つ」


 既視感とは正にこのこと。


 それはまるで、雷神様の頭からビリビリと放たれていた雷の様であった。


 幸人さんは腕で青白く発光する雷を掌に収束させたり、腕全体に纏わせたりしながら説明を続けた。


「人によっては“火”を扱えたり“水”を扱えたり、“風”を扱えたりと様々な術が存在する。俺の場合は見ての通り“雷”を扱う」


 一通り説明を終えると雷を収めて捲くっていた袖を戻す幸人さん。


「時生じぃが俺を呼んだ理由は轟くんを鍛える為だろう。誰にかは知らないがどこぞのお偉い存在に縁を繋げと言われたんだろうな」


 肩を落としため息を吐きつつも、口では薄っすらと笑みを浮かべていた。


「だが先ずは轟くんが神獣たちを目で捉える事が出来るか調べないといけない」


 すると彼は立ち上がり「準備も終わる頃だろうし行くか」と言って部屋を出ていこうとするので後を慌てて付いて行く。


「これから時生じぃが神獣を呼び込む。轟くんには神威に触れて目を慣らしてもらう」


 廊下を歩きながら足早に説明を施す。


「はじめは意識を失ったり、一時的な記憶障害を起こす者も居るが時生じぃがわざわざ選んだんだ。気絶したとしても直ぐなれるだろう」


 恐ろしいことを言い始めた。


 神に近付くってそんなに危険な事だったのかと内心戦慄する。


 そして付いて行った結果辿り着いたのは縁側。


「時生じぃ、準備できたかー?」


 幸人さんが声を掛けながら外を見渡すが常代さんの姿は見えない。


 と、思ったら建物の影から重い物を引き摺る様な音と共に常代さんの姿が見え始めた。


 運んでいるのは古い洗濯機か?


 祖父母の家にあった乾燥機能が付いていない物だ。


 幸人さんは常代さんへ駆け寄り運ぶのを手伝う。


「時生じぃ、何グダグダ運んでるんだ」


「幸坊……老人は労るべきだと、俺は考えるね」


「体は若いんだろ?ずっと引き籠もってないで偶には運動するべきだな」


「うぐぐ……でも、重いものは重いんだ。仕方無い」


「何も仕方無くない、よっと」


 常代さんが引き摺って運んでいた洗濯機を手を掛け軽々と持ち上げる幸人さん。


「何処に置けばいい?」


「敷物を敷くから待っててくれ」


 常代さんが縁側前にブルーシートを敷いていき、その上に幸人さんが古い洗濯機を置く。


 俺の気絶と記憶を賭けた神獣を見る試験が今始まろうとしていた。


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