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万屋とこしえ  作者: もどき
雷の縁
42/146

3

 翌日、俺は言われた通りに近場の公園に足を運んでいた。


 近場の公園と言っても思い当たる限り二つ存在するので先ずは坂の上にある小さな規模の公園へ向った。


「なっつ……小学生以来?」


 公園のすぐ近くには俺が通っていた小学校があり、帰りの寄り道、または遊時の集合場所として集まっていたその公園へ懐かしさを感じながら踏み入る。


 一部の遊具などは昔と変わらない姿を見せてくれているが、その他は撤去、又は新しい物へ変えられていた。


 公園の中心にそびえ立っていた大きな欅の木も無くなり、残っているのは切り株だけ。


 年輪が長い年月を掛けてこの場に存在していた事を語っている。


 これも時の流れか。


 変化に寂しさを抱きながらそっとブランコへ歩み寄り腰掛ける。


 公園内を見渡しても何もない。


 普通の公園がそこにあった。


「もう一個の方の公園だったか……はぁ」


 ついため息が出た。


 もう一つの公園は、こことは真逆の位置にある。


 坂を下った先にある大きな規模を誇る公園。


 砂場は勿論、複数の遊具にベンチとテーブル、そしてバスケゴールも置いてある。


 だが、人が多くよく目に触れる。


 無意識のうちに人目を忍んで行動していた為に小さく、子供も基本登下校の時にしか寄り付かないこっちの公園を選んでいたのだが、宛が外れたようだ。


 ブランコを揺らしながら頭をガクリと下げ、宙に浮かせた足をぼーっと見る。


 面倒だな。


 移動する事へ億劫だという気持ちが湧き上がってくるものの、すぐにそれを払う。


 怠惰でいるほど暇じゃない。


 負の感情に負けていられるほど腐っていない。


「よしっ」


 気を取り直してブランコから降りたその時、視界の端に妙な物が映り込む。


「……門?」


 それは西洋風の立派な門。


 小さな頃に肝試しに使った廃墟に似ている。


 そんな門が公園の中心でどっしりと構えていた。


 ゾワゾワと体中の毛が逆立つ。


 怖っ!


 一人しか居ない公園から見える明らかな怪奇現象。


 あの門が怪奇と呼べるのかは不確かだが、怖い話等が苦手な俺からすれば興味を引かれる前に恐怖が全身を包み込んだ。


「雷神様、ここからどうすればいいのでしょうか……」


 不意に、意図せず口からそんな言葉がこぼれ落ちた。


 佇む門から視線を外し一度深呼吸をした後、顔を上げるが門はそのまま公園の中心に立っている。


「栄さん、怖いです。これめっちゃ怖いですって」


 ボソボソと、また弱音が吐き出される。


 だけど昨日の様に天から声が響いてくる事は無く、綺麗な空に爛々と輝く太陽が俺の背を照らしているだけ。


 雷以前に風も無ければ雨も降っていない。


 一人で進むしかない。


 一人で立ち向かわなければならない。


 すみません雷神様。


 実は、貴方の子孫はこんなにも臆病なのです。


 だが立ち止まっている訳にもいかない。


 逃げるだけなら簡単だが、それは俺の心が許さない。


 せっかく、沢山存在するであろう雷神様の子孫の中から選ばれたのだ。


 直感で選ばれたと聞いた時は正直残念な思いで一杯だったが家に帰って冷静になった時、直感であれ選ばれたという事実に震えた。


 だけど、同時に嬉しかった。


 何かに選ばれた特別な自分というものに興奮が止まなかったのだ。


 雷神様に期待に応えるだけの器は無いかも知れないが、それでも。


「よしっ、よしっ、行くぞ」


 自身を鼓舞し、ゆっくりと門へ近付く。


 門に手を付きグッと力を込めて開ける。


 開いた門の隙間から見えるのは公園ではなく、全く別の風景。


 あぁ、実際に神が存在するくらいなのだから別の場所と繋がる門なんて一般人が知らないだけで案外当たり前の様にあるのかもな。


 急に素っ頓狂な事を考えつくも、逆に恐怖を抑え込み冷静になった頭で開いた門の隙間を縫うように内側へ入り込む。


「ここは……随分と立派な家だ」


 先ず目に入るのは大きな建物。


 洋風建築?


 だが我が家の近場に立つ家と姿形が似ているので詳しくは分からない。


 建築など門外漢なもので仕方無い。


 次に見たのは庭と思わしき場所。


 そこに立つ大きな桜の木が確かな淡く鮮やかな花を大きな存在感を放っている。


 だが、違和感もある。


「もうすぐ秋だぞ」


 季節が満開に咲く桜の存在を否定する。


 脳内が混乱するが、取り敢えず見なかった事にしよう。


 余計な情報を入れるべきではない。


 今は、雷神様の導きに従い前に進むのみ。


 じゃないと怖くて進めなくなっちゃう。


 地面に埋められた石の道を進んでいくと入口のような所まで案内された。


「店?」


 一面を大きなガラス窓で作られたそれは内装を綺麗に映し出している。


 外から見えるのは物が乗った棚とカウンター、そしてカウンターの奥にはのれんが掛けられ部屋の繋がりを示している。


 一歩引いて全体を見てみれば入口と見られる扉の上に大きな看板があり『万屋とこしえ』と達筆な文字でここが店だと主張していた。


 すると、のれんを掻き分けて一人の男性が顔を出してきた。


 遠目ではあるが一見する限り若い男。


 中肉中背に短く整えられた髪型が清潔さを感じさせる。


 男性は笑みを浮かべながらカウンターからこちら側へ歩みを進め、外と内を隔てる扉の前まで来ると、扉に付けてあった鈴の音と共に頭を出して一言放った。


「いらっしゃいませ」


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