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万屋とこしえ  作者: もどき
影の縁
35/146

7

 わたし達は少女に連れられ、結界に守られた大きめの一軒家の中へ入った。


 少女は玄関を開けるなり桶と柄杓を床に置きドタバタと家の奥へ走り中に居る住人へ向けて帰宅を告げる。


「お父さーん!帰ったよー!」


 返事は無い。


 無人ではない様だが、床に伏せっているのだろうか?


「お父さん!お客さん連れてきたよ!」


「客?今日は誰も来ない筈だが」


「王都のお客さんじゃなくてお墓でばったり会った知らない人!」


「知らない人だあ?外で知らない人を見掛けたら関わらず結界内まで引き返せってお父さん何回も言ってるよな!」


「うっ、でもお墓の前で蹲って泣いてたんだよ?悪い人じゃないって!」


「それだけじゃ悪人かどうか分からないだろ!一度よく考えてみろ!」


「……あ、危なかったかも!」


「間違えれば拐かされてたかも知れない。それだけ軽率な行動だったんだぞ」


「ごめんなさい……」


「分かってくれたならいいさ。それで、お客様は何処で待っているんだ?結界の外か?」


「いや、家の中まで入ってもらってるけど……」


「家の中っ!?」


 奥からドタドタと足音が鳴る。


 やって来たのは長身の少し痩せた男性。


 無精髭を生やし、髪もボサボサ。


 だが服は確りと上質な物であべこべな見た目。


 家の内外を見たわす限り結界を張る魔道具に大きめの畑、家具も充実していて貧困した生活を送っている訳ではなく単に家族揃って不摂生なだけな様だ。


 これは一般令嬢的視点からですが、もう少し運動をして健康的な肉を付けるべきですね。


「お待たせして申し訳無い!」


「いえ、我々も勝手に上がってしまってすみません」


 彼が物腰柔らかく対応する。


「いえ、ルナが上げたのでしょう?こちらもお見苦しい所をお見せしてしまって」


「ははっ、親子仲睦まじい様子で」


「ここは王都の近くで悪人も居ません。何より国に守られた土地です。ですが外へ向かう時は常に細心の注意を払えと言ってあるのですが……どうにも、ね」


「子供は好奇心旺盛ですからね」


「妻が居ればちゃんと世話も出来るのですが……」


「あの、失礼ですが奥様は何処に?」


「あの娘を産み、亡くなりました」


 出産とは常に命懸け。


 よくある話と言えるが、平静でいられる話題でも無い。


「すみません……」


「気にしてませんよ。俺は妻の命を懸けて残したルナを守り育てるだけですから」


 子を持つ者は皆強いのだと実感する。


「立ち話はなんですし、どうぞこちらへ。ルナ、お茶を淹れてくれ」


「はーい!」


 わたし達はそのまま男性に連れられ客間と見られる部屋へ向かった。







「改めまして、私の名前はエルゲル。転移魔術の研究をしています。そして娘のルナ。ルナ、挨拶をしなさい」


「ルナと言います」


「これはどうもご丁寧に、私は常代。隣の彼女はハル。そして彼は私の依頼人ロイド。ある理由から彼をあのお墓の前まで案内していました」


 互いに挨拶を交わし、彼は控えめに頭を下げる。


「では、墓の前で泣いていたというのは」


「恥ずかしながら、僕です」


「ロイドさんと言いましたか。失礼ですがあなたは父と何かご関係が?」


「彼とは幼い頃から共に転移魔術の研究をした仲です」


「……ご家族の誰か父と研究をなされていたのですか?その付き添いか何かで父を知っているのですね」


「いえ、転移魔術に関しては僕と彼の二人で始めた事でしたから。他の派閥はあれど彼以外で共に研究をしていた仲間は居ませんでした」


 何処か話が噛み合わないのか首を傾げる男性と青年。


 男性は怪訝な顔を浮かべながら青年へ問い掛ける。


「あの、父の知り合い……ですよね?」


「あの、エルゲルさんのお父様の名前を教えていただいても?」


「エイゲルです」


「エイゲル?僕の友はエンゲルと言うのですが」


「エンゲルは、私の祖父の名です」


 驚愕、といった様子で瞠目する青年。


 わたしも驚きました。


「祖父?貴方の父ではなく、祖父?」


「ロイドさん、あなたは本当に我ら一族と関わりがあるのですか?一見する限り長命種ではないようですが……いえ、長命種なんて見た事もないんですが」


「一体、何が起きているんだ。僕は、ただ見知らぬ土地に捨てられただけではないのか」


 青年は目を眩ませ深く俯く。


 お墓の前で少女の言葉を聞いたときは陰謀に巻き込まれ亡くなったものだと考えていたが、どうやら違うらしい。


 つまり青年は、時間ごと移動させられたという事か?


 そんな荒唐無稽な事、出来るのだろうか。


「お父さん!見て見て、これ見て!」


 いつの間にか姿を消していた少女が持ち込んできたのは一つの魔道具。


 一見する限り、情景を写し撮る物の様だ。


 魔道具を操作すると中にある一つの集合写真が映し出された。


「これは……!?」


 それは、二人の若者が互いに肩を組み、その後ろでにこやかに笑っている二人の老人が映ったもの。


「これ、ロイドさんじゃないかなって!」


 少女が息を巻きながら言う。


 少女が指差す若者の内の一人は、確かに青年と瓜二つの人物だった。


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