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万屋とこしえ  作者: もどき
影の縁
31/146

3

「変なモノが外に居る」


「変なモノ?」


 この日、いつも通りに出勤すると彼はカウンターの中で眉間に皺を寄せ、頭をガシガシと掻きながらに外に向けて言い放ちました。


「人にしては澱みが深過ぎてるし、死者にしては縁が残り過ぎて中途半端。神や妖怪の類なら結界を気にせずズカズカ入って来る筈……」


 ブツブツと呟きながら店の中をウロウロ歩き回る。


 あまり見慣れない姿に少し狼狽しながらも彼の側に寄り話を聞く。


「店に入れたくないけど客だった場合怒られそうで嫌だな……どうしよう?」


「どうしようと言われても、客であるのなら万屋としてちゃんと迎え入れるべきでは?」


「そうだよねぇ……ならササッと対応してササッと帰ってもらおう」


 決心がついたのか彼は店を出て門に向かって歩き出す。


 彼が今感じている違和感が何なのか分からないが、“変なモノ”や“店に入れたくない”と直接的に表現している辺り本当に面倒なモノが外にいるのだと思う。


 しかし、ここは万屋。


 どんなモノであれ、店に来れただけでそれは“神の気まぐれ”によって導かれたということ。


 ならば店の従業員たるわたし達は貴賤問わず迎え入れ願いを聞くのが筋。


 ギギギッ


 ずっしりと佇む門が軽く軋む音を立てながら開かれる。


 彼は外に変なモノが居るとだけしか言っていなかったのであっち側かこっち側か分からない。


 なのでわたしは門から少し離れた場所に立ち少し遠目から様子を見守る。


 開かれた門から見える景色は暗い、謂わば林の中と言った所か。


 木々の隙間から人工物がチラリと見えることから、人の住む区域からちょっと外れた場所なのかも知れない。


 そんな日の当たらない木陰の中で、じっと佇むのは一人の青年。


 何処かで見た記憶がある顔だ。


「こんにちは」


 彼は青年へ向けて挨拶の言葉を掛けた。


「不気味な門が建っていると観察していましたが、一体……何者ですか?」


 酷く驚いた様子で、しかし警戒心を顕にしながらも冷静にこちらへ問いかける青年。


「万屋とこしえ、というなんでも屋をやっている者です」


「なんでも屋?」


「何かしら対価をいただきますが、その代わり来店したお客さんの願いを、どんな些細な願いであっても叶える為に協力する店です」


「僕の知るなんでも屋とは少し違う様ですね」


「お店なんてそれぞれに特徴が有り違いも有りますから、ウチの店が特に変だという訳じゃ無いですよ」


「ふむ……ならば転移術を用いた門で営業をしているのもおかしな話ではないと?」


「この門は神に導かれた者か、又は強く望んだ者の前に現れます。つまり貴方には何か叶えたい願いが有るという事」


「そんな不可解な話を信じられると?」


 青年は彼を挑発するように言った。


「あぁ、いえ。特に困っていないのでしたらいいんです。失礼しました」


 手を振りながらペコペコと頭を下げる彼。


 どれだけあの青年を面倒な相手としているのかがよく分かる。


 遠目から伺った限りではあるが非常に聡明な青年に見える。


 こちらを挑発することで少しでも情報を得ようとしていた事は冒険者を目指していたわたしでも分かる。


 更に門に掛かっている魔法、魔術に触れた事から魔術研究にもある程度精通しているのだろ。


 彼が門の内側へと戻り扉を閉めようとしたその時、


「あなたは、本当に僕の願いを叶えられるのか?」


 青年は嘲笑を含みながらに言った。


「対価をいただければどんな願いも叶えましょう」


「はっ、なら一つ」


 青年は意を決した様に一歩、また一歩と踏み出しこちら側へ来る。


 影に隠れた顔がハッキリとした事で青年の表情を視認したわたしは、青年に対して抱いていた違和感の原因を掴んだ。


 この者は以前、店に向う途中で見掛けたあの虚ろな表情でジッと佇んでいた青年であった。


 モヤモヤが晴れてスッキリ。


 木陰を出たところで青年が抱える物、その願いに気付く。


「僕の影を、探していただきたい」


 青年には、太陽の元で生きる人に有るはずの影が無かった。

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