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万屋とこしえ  作者: もどき
狭間の縁
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隙間の縁

 二人を店に泊めて数日。


 聡太郎が黒木さんを迎えに来ていた。


 サイさんと顔を合わせてから黒木さんを守る男として相応しいのかと一悶着あったが、どうやらお眼鏡にかなったらしく今は笑顔で別れの挨拶を交わしている。


「それでは失礼します。けど時生さん、先程のお話は本当に進めていいのですか?極力我々をあちら側に関わらせない様動いてたじゃないですか」


「素敵な縁が回ってきたんだから、これは繋ぐしかないじゃん?」


「はぁ……まぁ、時生さんがいいのでしたら素直に進めて行きますが」


「聡太郎の役目は上が捩じ込もうとしてくる輩を排除し、黒木さんの様な人を選び出して育てることだ。頑張ってくれ」


「提案者なのに他人事の様な口振りで話さないでくださいよ」


「自分からは干渉出来ないから仕方無い」


 両方の側から酷く干渉を受けていた時期に辟易していた俺は縁の一つ一つを大切に過ごしていたのだが、いつの間にかその“縁”に囚われていた。


 自分から関係を作り上げるなど滅多に出来ず、今となっては外から干渉を受けない限りずっと独り。


 だからなのか、越内家やスリーグルス家の不思議と切れ無い堅結びの縁にはとても感謝している自分がいる。


「サイさん!私が会いに行くまで死んじゃ駄目ですからね!変に魔獣と戦ったり、余計な揉め事に足を突っ込んだりとか、絶対に駄目ですからね!」


「それは難しい話だ。マイがどれだけ言おうと儂の性根は変わらないぞ?」


「次会う時に一つでも傷が増えてたらお尻を叩いてあげます!」


「勘弁してくれ」


 店の外で愉快な会話が繰り広げられている。


 黒木さんは意外と攻める性格をしているのか、言葉が通じるようになってからはそれが顕著に現れている。


 その後、彼らは最後まで涙を流す事なく眩しい程の笑顔を浮かべたまま別れていった。


 俺は二人の絆に多少の羨望を送りつつ、門の外で聡太郎の車に乗り込む黒木さんをサイさんと共に見送った。


 サイさんは車の姿が消えても少しの間その場に立ち留まり、ジッと道の先を見続けていた。







「なるど、先代の残した縁を拾い上げたか」


「放って置くのも勿体無いですし、彼の残した善意も既に悪意へと変わりつつある様なのでいい機会かなと」


「人とは誠に面倒だのぉ……うむ、このシュークリームは美味い。クッキー生地?サクサクで楽しいわい」


 髭をよく蓄えた老人が紅茶を嗜みながらシュークリームを頬張っている。


 クリームは苦手ではなかったのかと聞くと、


「何事もバランスじゃ、バランスが良ければ全て良しじゃ」


 と言ってカスタードクリームの詰まったシューを口いっぱいに頬張っている。


「エデンさんの様子はどうですか?」


「あやつはテルと共に力を蓄えておるぞ。元の仲間たちも集い小さな組織も出来上がって、今の冒険者協会が無くなるのも時間の問題じゃろうな」


 どうやら凄い事になっている様だ。


 無事で居てくれれば良いのだがと、考えていると表情に出ていたのか、


「見届けるしか無いじゃろうて」


 俺を落ち着かせるようにそう呟いた。


 語り口からも分かる通り、彼はあっち側の神様。


 黒木さんを店に入れた日から連絡を入れていたが、ようやく暇が出来たとの事で来店していただいた。


 ついでにエデンさん達の近況報告も兼ねているらしいく、神様も彼らの運命とそ行く末を見届けたいのか不干渉を貫きながらも心配はしているらしい。


「トキオよ……この只ならぬオーラを纏う方は一体?客では無いようだが」


 すると、恐る恐るといった様子でサイさんが神様の素性を聞いてきた。


 サイさんも神様も同じ老人という扱いなのだが、どうやら神様は神様らしく相応の威圧感があるらしい。


「この方は神様」


「カミサマ?」


「適当を言うなトキオ、儂の名はカミサマでは無い。モア・エレルドリア・イメフテルという立派な名があるのじゃからいい加減そう呼べ」


「長いんですよ名前」


「そちらの神とて長いだろうに、食わず嫌いはあやつに嫌われるぞ?」


「彼女はそんな些細な事気にしませんので」


「傲っておるのぉ……だからお前は辛い思いをするのじゃ」


「……俺は人間なので神の気持ちなんて分かりません」


「神に人の想いは汲み取れぬと申すか。全く、捻くれ過ぎじゃろうて。トキオは長く生きている割にあやつと自分の事となると幼くなる」


 神様の指摘が思っているよりも心を抉ったので俺は黙ってしまった。


「儂のせいにするな。全てはお前の心の在り方の問題、縁に拘らずもっと外へ出て美味しい空気を沢山吸うのだな」


 ぐうの音も出ないのでサイさんに助けて貰おうとチラリと目を向けると、そこには口をぱくぱくと開閉し言葉を上手く吐き出せないサイさんが居た。


「サイさん?」


「鯉のようじゃ。口に何か入れれば食べてくれるかの?」


「それが神のすることですか」


 そう言いつつも俺は神様に小さめのシュークリームを渡し、神様はそれを受け取り魔法を使ってサイさんの口へ手を使わずに放り込む。


 サイは口に放り込まれた事で正気に戻ったのか、シュークリームをよく味わって飲み込むとようやく言葉を発した。


「も、ももも、モ……モア・エレルドリア様、本人なのですか?」


「如何にも。儂がモア・エレルドリア・イメフテルじゃ」


「と、とととと、トキオ!どういう事じゃ!神出鬼没な門の時点で摩訶不思議な店だとは思っていたが、主神が現れる店だとは聞いておらんぞ!」


 だいぶ取り乱してはいるが、黒木さんやあっち側と多少なり関わりを持ったことでまだ余裕があるのか口早に事の説明を急かしてくるサイさん。


 確かに神様をこの店に招く説明はしなかったが、したところで信じたりはしなかっただろう。


 店と俺の異常さに気が付きつつも、まさか神も訪れる店など誰が信じようか。


 だからこの様な形で彼らを合わせたのだ。


 サプライズ大成功と書かれた看板があったら是非とも音を鳴らしながら出してみたい。


 俺は内心で笑いつつ、サイさんと神様を引き合わせた理由を静かに語った。


「事の経緯は、サイさんの持つその刀と魔獣から出てきた鉄輪にあります」


 俺はあの鉄輪を見た日から絡む運命の糸達の隙間から紡ぐべき縁を取り出し、悪意に染まった縁の根源を断つべきと考えてた。


 絡み合った複雑な縁が狭間の世界でゆっくりと解き始める。


 ここは一つ、サイさんには頑張って貰おうと思う。


 先代の繋いだ縁を拾い上げた貴方ならきっと、事を成せるだろうと信じて。

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