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万屋とこしえ  作者: もどき
縁の縁
129/146

2

「はっ、はっ、はっ」


 軽く息を乱しながら、子供たちに追跡している事がバレぬよう起伏の多い道なき道を選び走り続ける。


 どういう訳か影魔術も空気中の魔力にも干渉する事が出来ず、己の鍛え上げた冒険者としての感覚を頼りに子供たちを探していた。


 そう言えば此処が何処なのかも分からない、と不思議と不安に駆られる事なく置かれた現状に対して漠然と考えながら足を止めることなく突き進む。


 そして、子供たちが通ったとみられる本道を脇目に姿を隠して走り続けていると、ふと草を掻き分け踏み鳴らされた獣道のようなものが目に入った。


 進めば森に繋がるであろう小さな脇道。


 子供たちであれば難なく進めそうな小道。


 もし子供たちがこの道を通っていた場合、普段ならば魔術を用いて何かしらの痕跡を探すのだが今はなんの手段も持ち得ない。


 このまま本道に沿って前に進むか、それとも脇道へ逸れるか。


「……こっち、かな? うん、きっとこっち……多分、恐らく」


 少し悩んでいる内に不思議と脇道を選んだほうが良いという思考へと切り替わるハルレイン。


「こっち。こっち? こっち」


 何の確信も無い筈なのに信じ難くも己の口から紡がれた支離滅裂言葉に従い進行方向を変更。


 中途半端な困惑と共に草を掻き分け森の中へある程度進んで行くと前方から話し声が聞こえてきた。


「助かるかな……」


「分かんない」


 木の後へ身を隠しそっと顔を出して声のする方へ目を向ける。


 視線の先には二人の子供と、血で半身を染めて地面に横たわる大きな狐。


 狩猟の標的か、はたまた己の闘争で負った傷か。


 遠目から見つめるハルレインには判断出来ない。


「グル、ル……」


 狐は残り僅かな気力を振り絞り子供たちへ異格するも、頭を上げ声を出する力も残っていないのか直ぐ様地面へ頬を落とし虚空を見つめだす。


「どうしよう時生、この子しんじゃう」


「落ち着いて姫ちゃん、えっと……」


 時生、それは彼の名前。


 ハルレインのよく知る時生に似た面影からも想像できる通り、あの子供は恐らく時生その人である可能性が高いと直感が告げる。


 何より、ハルレイン自身が不思議と彼を彼だと疑わない。


 時生は懐をゴソゴソと弄ると二つの小さな壺と布を取り出し脇に置く。


 そして狐へ近付き傷を負っている部位へ触れようと手を伸ばす。


「キューン」


「ごめんね、痛いだろうけど少しの心房だから」


 患部を抑えられた狐が痛みで藻掻き苦しむが、時生は冷静に壺の中へ指を入れて軟膏の様な物を塗っていく。


「それは……?」


 半べそ状態の少女が何を塗っているのか問う。


「これはじいちゃんから分けてもらった秘薬。けがした常呂に塗るとよく治るんだ」


「すごい!」


 ある程度塗り終えた後、もう一方の壺の中へ手を伸ばすと己の手に向けて壺を少し傾けた。


 中から水がチョロチョロと流れ、時生はそれで手を洗うと布を掴み狐の体に巻き付けていく。


「ここら辺は神様とか、妖とか、色々な存在が集まっている場所だから気を付けるんだよ?」


 狐は時生されるがまま、言葉を理解できているのか定かではないが大人しく身を任せている。


「元気になったら一度姫ちゃんにお礼を言いに来るといい。姫ちゃんが居なかったら君を助ける事は出来なかった」


「もし、次に会うことが出来ましたら……そうですね、名前を付けて差し上げましょう」


「名付けなんて珍しいね。神様みたい」


「神様みたいって、神なんだけど!」


「あははっ、そうだったね」


「時生!」


「ごめんごめん」


 軽口を叩きながらも布を巻く手を止めなかった時生。


 やがて、布を巻き終えると時生は再び手を洗い地面に置いていた壺を仕舞い出す。


「ちょっと不格好かな?」


 未だ地面に横たわる狐の腹部に巻かれた布を見て言った。


「じいちゃんならもっと上手にやるんだろうなぁ」


「わたしからすれば時生も十分すごいけど」


「そう?」


「うん」


 満面の笑みの少女に時生は照れからか顔を背けながらも「ありがとう」、と感謝を言葉に出した。


「帰ろうか」


「うん!」


 少女は周りに落ちていた小石を手に取ると狐のを囲むように置く。


「元気になったらこの輪から出ておいでね」


 狐に一言そう伝えると、少女は時生と共に本道へと戻っていった。


「店長、昔から優しいんだな。っと、追わなきゃ……っ!?」


 ハルレインは二人の後を追うべく木の陰から出ようとした瞬間、急激に視界が回り地面の中へと吸い込まれ暗闇の中へと落ちていった。


 奈落へと落ちる感覚が全身を包んだのも束の間、次に目を開いたハルレインの視界に映ったのは、言い争う三人の男女であった。

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