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「陛下、この場をお借りしてある物を披露させていただきたく」
「何だ?」
「娘が私と同じ力を使える様になった為に、陛下には是非とも見ていただきたいのです」
マリーはルデールの言葉に耳を疑った。
時生の話では渡されたペンダントの力は一代限りのものだった筈なのだが、ルデールはその力を娘へ継承させたという。
一体、何が起こっているのだろうか。
陛下は喜びの声をあげると、ルデールへ見せるようにと催促する。
「エレノア、やってみせなさい」
「はい、お父様。ですが癒やしの力を使うには先ず怪我を負った人を見つけねばなりません」
「あぁ、そうであったな。何処かに丁度いい怪我人は居らぬものか……」
「……あぁ! そう言えば先程酷い怪我を負った女性を見掛けたのでした。何でも不審な動きをしていたので警備の方が注意をしたところ武器を抜き襲いかかって来たらしく、そのまま返り討ちにあったとか何とか」
「なに?」
陛下は眉を顰めると、側近を直ぐ側に呼び寄せ何やら小さな声で話し出す。
「この様な日になんと愚かな……だが、傷を治すには丁度よい相手かも知れない。体が癒えれば後でまた拷問を受けることが出来るのだからな」
「お父様ったら……ですが、私も再度罰を受けさせる事については賛成致します。もし、彼女の狙いが陛下、又は王族の命を狙ったものであるのなら色々と聞き出さねばなりませんし……ね?」
可愛らしく小首をかしげ、陛下と殿下へ自身の意見を伝えるエレノア。
「……その者を、ここへ連れてこい」
側近との会話を終えた陛下は少し考える様子を見せたあと、その王家襲撃を企んでいたと思われる人物をこの場へ連れてくるよう護衛に命令した。
だが、エレノアはそこへ待ったをかける。
「陛下、私が連れてまいりましょう」
「コルト嬢?」
エレノアの隣に立つ殿下が困惑気味に言った。
何故、彼女が罪人を連れてこようとしているのか分からなかったからだ。
この場に居る貴族達も殿下と同じ疑問を抱いていた。
一介の令嬢がする行為では無い。
「これでも私、結構鍛えておりますので……それに罪人と言えど相手は女性。最低限の処置をしておきたいのです」
マリーはここで、この茶番地味た光景はエレノアが王家に対して継承された力だけが自分の特技ではないのだと証明したいのだろうという考えに辿り着いた。
襲撃を考えていた人物など居らず何処からか持ってきた罪人を人柱に、己が用意した警備員に襲わせる。
実際、襲撃があったとなればもっと大事になってもいい筈なのだ。
「怪しいですね」
「今更かい? 僕は最初からそういう劇だと思って見ていたよ。他の貴族だって同じはずだ」
「全ては……あの力を自身の目で見る為ですか?」
「力を証明すれば王家からの信頼も厚くなる。他家へは牽制となり、家の評判は大きく上がる。まぁ、やり方はあまり貴族らしくないが確実といえば確実な手段だろう」
「……ビルアイン様でしたらどうします?」
「僕らスリーグルス家は王家に忠誠を誓っていない。ご機嫌を取ろうとあれこれしている暇があるならもっと別の、有意義な時間を過ごそうと思うね」
ビルアインにしては随分と辛辣な言葉だなとマリーは思った。
「おっ、連れてくるみたいだね。随分と早いし、やはり事前に用意された茶番ということかな?」
話している内に会場の外へ出ていたエレノアが何か縄を引いてやってくる。
しかし、その縄に繋がれた人物を見た瞬間にマリーだけでなく会場に居た全員が言葉を失う。
「この方が先程、王家に対して悪事を働いた女性でございます」
エレノアは会場の中央へその女性を移動させると、周囲へ向けてそう言葉を放った。
元は綺麗なドレスであったのだろう。
だが、今は所々が切り刻まれており拘束される前の抵抗が如何に激しいものであったのかを物語っている。
髪は崩れ、顔も腫れ片目は既に開かれていない。
頭から流れたであろう血は額から頬にかけて跡となり、痛々しさからつい目を背けたくなるほど。
女性はもう立つこともままならないのかその場に崩れ去ると、エレノアは歪んだ笑みを浮かべながら女性の髪を掴み顔を全員へ見せつける。
それは、その女性が今現在人以下の存在である事を強調するような、二度と日を浴びる事の無い生活を送る者を敢えて悪意を孕む侮辱を与え周知させる下卑た行い。
「今から、この方を癒して見せましょう」
女性の顔を見た殿下は一言。
「スリーグルス嬢……!?」
無理やり頭を上げられたハルレインの顔を見た瞬間、マリーは懐から暗器を取り出しエレノアへ向かい飛び出した。