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 秀吉が目を覚ますと、そこは駅のホームだった。

 壁にSTATION九番ホームと書かれた看板がぶら下がっている。

 しかし、駅のホームにしてはおかしな物が多くある。

 秀吉が寝ていたソファーがいい例だ。

 それ以外にも、キッチンやらテレビやらが置いてあり、ちょっとした居住空間のようになっている。


(一体、ここはどこなんだ? そもそも、何故、ここで寝てたんだ?)


 秀吉は現状を理解しようとした。


(家に知らない男がやって来て、窓から逃げようとした……ここまでは覚えているんだが)


 秀吉が自分の置かれている状況を理解できずに苦しんでいると、階段からクリックス、ラギ、ミラルダの三人が降りて来た。

 ラギは窓から逃げようとした秀吉に踵落としを喰らわせた少女だ。身長は百五十四センチで猫っぽい顔つきをしている。十六才だがはたから見ればもう少し幼く見える。

 ミラルダは身長が百九十センチとかなり大柄でかなり筋肉質な青年だ。ちなみに、クリックスが秀吉の家を訪れた際、出番はなかったものの近くの公園で待機させられていた。


「おっ、起きたかい」


 クリックスはニヤニヤしながら秀吉に話しかけた。

 それによって秀吉は身構える。


「手荒な方法で連れて来たことは申し訳ない。ただ、もう警戒しなくて大丈夫だ」

「何が大丈夫だ! 上から喋りやがって」


 秀吉はクリックスのことが生理的に受け付けなかった。


「そもそも、俺はあんたの事を名前しか知らないし、横の二人は誰なんだ! それに、ここは一体どこなんだよ! 何の為に俺を連れて来たんだ」


 声を荒げ、今抱えている疑問を全てクリックスにぶつける秀吉。

 それに対し、クリックスは丁寧に答え始める。


「そうだな、まず簡単なところから説明しようか。横の二人は、ラギとミラルダだ。今日から君の同僚になる。そして、ここはステーションの九番ホームだ」

「同僚!?」

「そう、同僚だ」


 クリックスは秀吉が座っているソファーの向かいに置いてあるソファーに腰掛けた。そして、ラギとミラルダに

「一旦休んでていいぞ」と声をかける。

 すると、ラギとミラルダは秀吉を無視しクリックスだけに会釈をするとホームの奥へと消えていった。

 多くの不良を従えて来た秀吉にはそれが気に食わなかった。

 しかし、クリックスと同じようにあの二人の方が自分より強い事を悟った為、渋々クリックスとの会話を再開した。


「同僚ってどういう事だよ?」

「今日から君はここで働くということだ」

「だったらよう! ここが何なのかさっさと教えろよ!」

「まぁ、焦るな。私が順番に話さないと混乱するのは君なんだぞ?」

「あーあーあー、わかったよ。わかったから。俺にもわかるように教えてくれ」

「そのつもりだよ」


 そう言いながら、クリックスはポケットから万年筆のような物を取り出した。

 そして、キャップを開けると中からホログラムが飛び出す。

 ホログラムは地球を表していた。

 それを見て秀吉は怪訝な顔をする。


「あ? 地球がどうしたんだ?」

「いいかい? 君は地球に住んでいる。そして、その地球の周りに宇宙があり、その更に周りに空間が存在する。そして、無限に時間をかければ世界の何処にでも到達できる。逆に、時間をかければ到達出来る範囲が世界。そういう認識で世界を捉えていただろ?」


 ホログラム内に小さい秀吉が現れ地球やその周りを駆け回っている。


「そうじゃねーのかよ」

「その認識は間違っていない。だけど、もう一個外側があるんだ」

「外側?」

「君たちの世界にはない概念の話かも知れないが、どんなに時間をかけても到達できない範囲が存在するんだ。見えない壁で区切られている世界とでも言えばわかりやすいかな?」


 クリックスがホログラムに触れると地球や小さい秀吉を囲うように立方体が現れる。

 もう一度触れると、無数に立方体が現れる。そして、各立方体の中に地球がある。


「それぞれの箱の中にそれぞれの世界、それぞれの地球があり、それぞれで成り立っている。そんなイメージだ」

「パラレルワールドってこと?」

「パラレルワールドとはちょっと違う。君達がいた世界の単語で言うと異世界が一番近いかも知れない。異世界が無数に存在するんだ」

「その話本当かよ」

「まぁ、確かに急に異世界があるって言われても信じられないのはわかる」


 クリックスはそういうと、万年筆の様な物のキャップを閉じ、ソファーとソファーの間にあるローテーブルの上に置いた。

 そして、ソファーから立ち上がり階段の方へと歩いていく。

 秀吉から十メートルほど離れると、クリックスは秀吉に声をかける。


「今から、君の世界では考えられないことがあることの証明をしよう」


 そう言い終えたクリックスが両手を叩くと次の瞬間、先ほどまでいたソファーに腰掛けていた。

 クリックスはおよそ十メートルを瞬間移動したのだ。


「これで、少しは信じる気になれたかな?」


得意のニヤケ顔で秀吉に語りかけるクリックス。


「なんかトリックがあるんだろ?」


 秀吉は激しく貧乏ゆすりをしながらクリックスを睨む。


「いいや、君が言うところのトリックは無い。強いて言うならば、君の世界でいう超能力を使った。それだけだ」

「超能力!? 何かさっきから胡散臭いんだよな〜」


 クリックスは疑り深い秀吉を見てより一層ニヤニヤする。


「ちょっと待ってな」


 そう言うと、クリックスは万年筆の様な物をローテーブルから取り、キャップを数回捻った。

 しばらくし、ホームの奥からラギがやってくる。


「休んでるとこと呼び出して悪いな」

「いえ、問題ありません」

「ありがとう。じゃあ、ちょっと秀吉の横に立ってもらっていいか? 秀吉も、一回立ち上がってくれ」


 秀吉はワザとらしく不貞腐れながらソファーから立ち上がる。

 ラギは無表情のまま秀吉の横に立つ。

 クリックスも立ち上がる。


「秀吉、心の準備はいいか?」

「心の準備って何だよ」

「ラギも良いか?」

「いつでもどうぞ」

「じゃあ、行くぞ?」


 クリックスが両手を叩く。

 すると次の瞬間、秀吉の体が縮み、ラギの身長と同じになる。


「うおっ、おい! どう言うことだよこれ! 元に戻せよ!」


 元々自分の身長にコンプレックスがあった秀吉は身長が低くなったことに狼狽える。


「これでもまだ胡散臭いと言えるかな?」


 クリックスはニヤニヤ秀吉を見て楽しんでいる様だった。


「わかった! わかったよ! 超能力があるの認めるよ! だから早く元の身長に戻してくれよ!」


 クリックスは無言で両手を手を叩く。

 すると今度は秀吉の背が伸び、クリックスと同じ身長になる。


「お、やったぁ!」


 秀吉は喜ぶ。

 しかし、それをクリックスは許さない。


「ごめんごめん、元の身長に戻して欲しいんだったな」


 クリックスがすぐさま両手を叩く。

 すると、秀吉とラギの身長が同じになる。

 しかし、今度は二人とも百七十センチだ。


「これでも元に戻ったぞ」

「別に高いままでも良かったのによぉ」

「君はその身長が似合うよ」

「おい、どう言う意味だよ!」


 クリックスは秀吉の言葉を無視し、ソファーに腰を下ろす。

 それを見て、つられたように秀吉もソファーに腰を下ろす。

 今まで終始無表情だったラギは身長が伸びた為か「フンスッ!」と少しドヤ顔気味だった。


「ミラルダに見せてこよ」


 そう言うとラギはホームの奥へと走り去った。


「何なんだあいつ」


 走り去るラギを見て秀吉は呟く。


「君の同僚だよ」

「同僚って言うけど俺は何をすれば良いんだよ」

「そうだね、簡単に言えば仲裁かな?」

「仲裁?」

「さっき、この世には無数の異世界が存在するって話をしただろ? 本来、それぞれの世界は別の世界に干渉しちゃいけないんだ。だけど、それぞれの世界間でトラブルが起きたり、故意じゃないにしろ他の世界に干渉してしまう事態が起きることがある。そういうときに我々、ステーションが仲裁をするんだ。ここは全ての世界の外側に存在するからね」

「ふーん。でも、何で俺がそんな仕事しないといけないんだよ」

「それは君が元々いた世界にいちゃいけない存在だからだよ」


 秀吉は思いがけないクリックスの発言にキョトンとする。


「……は? どういうことだよ」

「君の父親は異世界、超能力が存在する世界の住民なんだよ。言うなれば、君は元々いた世界と超能力が存在する世界のハーフだ。最初は君の持つ超能力が世界に与える影響は少ないだろうと様子見し、観測を続けていたのだが、最近になって君の超能力が強まってきてね。だから、我々が回収し、責任を持って面倒を見ることにした」

「じゃあ、超能力のある世界で住むのじゃダメなのかよ」

「さっきも言った通り基本的には異世界同士で干渉しちゃいけないんだ。君は元々いた世界の匂いが染み付きすぎているから超能力のある世界で住まわす訳にはいかない」

「じゃあ、どこにも居場所がないってことかよ……」


 秀吉は俯き拳を握る。


「どこにも居場所がない訳じゃない。ここが君の居場所だ」

「それはありがたいけどよ……ただよ……元の世界に思いでとかあるからさ……好きな場所にはもう住めないのかぁって」

「それに関してはそうだが、まぁ、ここから私たちと思い出を作って行こうじゃないか!」

「……あぁ」

「そんなに気落ちするなよ。ラギとミラルダに比べたらマシな方だぞ」

「悲しみを大小で比較するな」

「それはそうか」


 クリックスは何やらズボンのポケットをゴソゴソと漁る。

 そして、ポケットから黒いジャンパーを取り出す。


「これやるから元気出せよ」


 ジャンパーを秀吉に渡す。


「何だよこれ」


 秀吉がジャンパーを広げる。

 すると、背中に白字でデカデカとSTATION TRACK NO.9と書かれている。


「ダサくねぇか?」


 秀吉は思わず本音をこぼしてしまう。


「ん? 赤が良かったか?」

「色の問題じゃないよ」

「まぁまぁ、仕事する時の制服みたいなもんだから」


 渋々とジャンパーを受け取る秀吉。


「ほら、私も仕事する時は着るから」

 そう言うと、クリックスはもう一着ジャンパーを取り出す。

「マジかよ……」

「サイズ合ってるか確かめたいから一応着てみてよ」

「えー……」


 秀吉は嫌々ジャンパーを羽織る。


「おっ、似合ってんじゃーん」


 クリックスはパチパチ手を叩きながら褒める。


「適当な事ばっか言うなよ」

「まぁ、これ着て一緒に頑張ろう」

「はぁ……元々いた世界にいられなくなったのより、このジャンパー着る方が嫌かも」

「そう連れない事言うなよ。ほら、君の部屋を案内するからさ」


 そう言うとクリックスはソファーから立ち上がる。


「そうか、俺は今日からここに住むのか」


 秀吉もゆっくりとソファーから立ち上がる。


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